| 最初は胃がん。それが肝臓に転移して、最終的には肺のリンパ管が詰まっている。 レンのちょうちょはそこまでわかった。だが、最初にどこを集中して癒せばよいのかわからなかった。そこまで高等な医術の知識は持っていない。それに、満遍なく癌細胞は身体にいるのだ。レンは考えて、一番最後にかかったリンパから行うことにした。良く分からないけど、なんとなく。田島が良く言う言葉だが、田島が間違うことはない。レンもそれに賭けてみようと思ったのだ。 ちょっと、おこがまし い かな? 苦笑して、まず肺の治療を始める。水がたまっていたので水を出す係と治癒の係に分け、またさらに全身がこれ以上癌細胞に侵されないように全身をちょうちょで覆う。 「田島くん と 西広 くん。」 祈るように言い、ちょうちょは末期がんの患者の治療に集中させられる。レンの額から汗がにじみ、スモックの端で何度もぬぐった。田島と西広を見ていた女性が拭き取ろうとしたのだが、レンがそれに気づき、飛び上がるくらい驚いて集中が途切れそうになったのでそれ以来やることはなくなった。また、その時にストレッチャーに乗せられたままだった田島と西広をベッドに移動するよう頼んだ。その希望はすぐに受け入れられ、近くにベッドが設置させられ横たえられた。二人一緒に寝させられるとはいえ、硬いストレッチャーより柔らかいベッドのほうがいいだろうと思ったのだ。 自分のこの力で…また、迷惑をかけてしまった。 昔も今も変わらないじゃないか? ちょうちょを使い、秒単位でちょうちょの数を変えながらレンは半分泣きそうになっていた。体と頭は勝手に最善の治癒を探し出す。別の所は異様に冷めていて、そこがレンに昔を思い出させるのだ。 つーっと額ではない所から一つ、ふたつと水分が流れたが、汗を拭くようにスモックの端でぬぐった。 強烈な睡眠薬を投与されながらも、ぼんやりと田島には意識があった。もともと薬に耐性があるというか、効きづらい体質なのだ。その上レンからのばされた隠されたちょうちょが確実に田島から薬を取っていた。ちょうちょは表にあったちょうちょは本当に消された。だが、田島のかけてあった毛布の中。ちょうど足の裏にちょうちょがとめてあったのだ。レンにしては珍しく機転のきく行動である。 だが、チューブを通して生理食塩水と栄養剤とともに混入されている睡眠薬は、田島の意識を半分以上を捕らえていた。体は動かない。だけどぼんやりと意識はある。そんな状態に陥っていた。 近くにレンがいる。それはわかる。なぜかわからないけど、自分たち以外でちょうちょを出しているのもわかる。駈け出して、やめろと言いたい。 手足はぴくりとも動かない。近くに西広もいるのがわかる。西広!頼む!レンを! 口も動かない。西広も動かない。もしかしたら同じ状態になっているのかもしれない。 レンが、あのままだったら間違いなく壊れちまう!頼む!誰か頼むから! ぎゅっと目をつぶると涙がつつと流れるのがわかる。ああ、なんてふがいないんだろう、オレは。 声をかけてやりたい。レンに「もうやらなくていい。」と一言声をかけて泣かせてやりたい。あいつは絶対に涙をためながらやっているに違いない。 西広は起きられないか。でも自分も意識を保つことだけが精いっぱいだ。 田島は今度は重い瞼をこじあける。天井は見覚えがない、綺麗なものだった。流した涙で少し滲んだけど、拭くものはない。少し時間をかけてじっくり見ていると、視界の端にやはりちょうちょが舞っているのが見える。どんだけの量を飛ばしているのかがわかる。ありえない量だ。あのままだとすぐに癒し手の眠りに入ってしまうだろう。そうなると、花井かオレと栄口が必要になってくる。レンを運び出して、適切な場所で眠らせてやらないと。 こんな所で寝ているつもりない! だけど体は重く、全く動かない。 レン……レン! その時、レンの視線がこっちを向いたような気がしたけど、わからず、足掻いたために、田島の意識はまたブラックアウトした。 田島の視線をわずかながら感じた--------ような気がした。だけどそれに対応する術が今なかった。 体が重い。指先がぎしぎしと音を立てる。そして先ほどから脳の動きを遮断するような強烈な眠気。 さっ、と老人の体をちょうちょを使って調べると、かなりの時間が経過したようだが、まだまだ時間がかかることが分かる。だが、この眠気は何度か経験がある。 癒し手の眠り こんな危険な状況で眠りにおちたら、自分は良いが田島と西広が危険である。あの睡眠薬が毒薬になった場合、自分なら治せるが、二人は治せない普通のヒトなのだ。 片手を握りしめる。きつく、きつく。握り込みすぎて爪が皮膚を破り、血が出てくる。が、レンはそれを感じ、ふ、と笑う。次に襲う衝撃は激痛。癒し手本人が傷ついた時に自動的に受ける痛みである。 「……!」 それでも痛みには変わらないが、その痛みが眠気を払拭してくれたおかげで頭は少しだけはっきりとしたように感じる…感じただけだけど。 今さっきまでいた男女二人の見張り役は何かの用で今席を外している。田島と西広がすぐに逃げ出せるようにちょうちょの力を調節して、二人にさっきより多めにまわす。あと少し老人を治癒したら、一気に目覚めさせ、逃走させよう。その考えで老人を治癒しながら、二人の睡眠薬を抜いていく。 背中にある二人の息の音だけを感じながら、レンは一人のみの戦いを行っていたのであった。 |
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