次の日の朝。
 最高に不機嫌だったのは栄口であった。無論顔には出ていないが、なにかが垂れ流しになってて、それが恐怖と結びついていた。
 次にぶつぶつと呟いて一番最初に起きていた栄口に「田島どもは?」と尋ねたのは泉であった。「あ、こいつ機嫌悪ィ」と思いつつも問いただすには彼が一番だ。
「あとで電話して、誰かに車出してもらうよ。」
 巣山以外ね。とにこっと笑った。怖ぇぇ。
 朝ごはんはトーストとハムエッグ。それだけだった。どうやら寝坊したらしい。珍しいこともあるもんだと沖に言ったら「昨日から、レンのチョーカーの電波をたどってたらしい。」という答えが返ってきた。それならこの朝食もアリだな。と一人ごちる。大学生は自主休校してもいいが、高校生はやはり学校に行かないといけない。しかたがないので「レンたち帰ってきたら、メールの一報でもいれてくれ!」と泉は全員に声をかけ、でかいカバンをよいしょと肩にかけて出かけて行った。
「今日、1.2限が休みのヤツ……いる?」
 巣山、沖、阿部の三人が恐る恐る手を挙げる。こういう時の栄口は何をしても怖い。
「じゃあ阿部、車を出してレンたちのいる病院に迎えに行こう。」
 行かないか、ではなく行こうときた。さりげない命令口調に阿部はムッとしたが、それもやめておいた。怖い。
「オレらも行っていいか?」
 巣山と沖が恐る恐る話かける。栄口の返答はOK。
 残り全員が大学へ行ったところで、バンは一直線に病院目指し、走って行った。

 バンでよっこらさと駆け付けた者たちは、受付の女性から、三人が既に帰ったということを聞いて愕然とした。
「途中、電話何度もしたけど、三人とも繋がらなかったよな?」
 巣山が二人に尋ねるとうんうんと頷く。
「っかしいなぁ。」
「電車の中でマナーモードにしておいたとか。」
「でも3人いるならレンあたりが気づくと思うが?」

うーーーーーーん。

「とりあえず、一度駅に行ってみて、あいつらが乗ったか調べるか?」
 阿部の言葉に全員が頷く。そこから初めてみないとわからない。
 誘拐?という言葉が過ぎる。振り払う。
 不安が四人を包む。何だろう。この嫌な予感は。
「二人はバンで先に駅で聴きこみ。もう二人は駅まで歩いて訊き込みということではどうだ?」
 参謀役の阿部が提案したプランに他の三人が頷く。沖と巣山が道とバスを使い駅に行くことにすると決まり、阿部の運転で駅に先に行くことになった。
「一体何が起きたんだ…?」
「わからないから行動するんだ。特にレンの能力が悪用されるのは忌避するものだ。」
 阿部の言葉に三人は頷く。じゃあ、携帯で連絡をとの事で、4人は別れた。




 四人が病院から見えなくなった時、受付嬢は内線をとりあげ、副院長へ直接かかる番号を押す。
「もしもし。やはりいらっしゃいましたが、帰ったことを伝えました。」
 抑揚が全くない声の先で「了解した。」とこちらも抑揚のない声で返してくる。
 受付嬢は電話をおろすと、席を立った。そして他の作業を言いつけられて戻ってきた受付嬢にその席を明け渡す。
「急な仕事、ごめんなさい。」
 打って変って違う声音に今まで何もなかったような声に、相手もはい、大丈夫ですよ?とにこやかに返して、その席へと座る。
「じゃあ、私は仕事に戻ります。重ねて言うけどありがとう。」
「どういたしまして。」
 二人とも仕事用の笑みで会話し、もと受付嬢は病院の中に姿を消したのであった。
 レンがその女性を見たら、おどおどしながら答えたであろう。
 今さっきまで朝食を持ってきてた人です。と。

 駅で落ち合った全員は、全員同時に報告した。

『いなかった!』

 で、同時にため息、はぁぁぁぁぁ。
 巣山が近くにあったファミレスまで行って調べたがいなかった。と報告すると、だんだんと怒りが満ちてくる。
「なーにやってんだ?あいつら。」
 阿部が苛々とした声でアスファルトを蹴りつける。徒歩とバスだった沖と巣山は微かたが疲労の色が見える。
「でも、ここまで探していない、ていうのもおかしいな。」
 沖がうーん。と腕を組みながらぼそりと言う。
「やっぱり誘拐?」
「田島がいるのに?」
 巣山の言葉に沖が被せる。
「田島のセンサーは確実だ。あいつがあやしいと言った人間が虫に寄生されてたしな。」
 阿部が言った言葉に栄口が「虫と人とは違うねー。」とあはは笑いながら答える。目にはちょっと怒りマーク。
「レンのチョーカーが作動しないと、あとはわからないな。」
 巣山が肩をすくめる。
「そんな余裕でいいのか?」
「とりあえず泉が田島が休んでいる理由を言うのが難しそうだ。」
「そりゃそーだ。」
 阿部のにやぁり笑いにヒきながらも頷く。
「田島もいるし、常識人の西広がいる。レンも素直に従って帰ってくるね。」
 沖の言葉にうん。と頷いて、全員がバンに乗り込んだ。
「もしかしたら、全員帰ってきてたり。」
 巣山の言葉に全員が笑いながら、バンが走り出す。
 だが、ニシウラに戻っても全員は帰ってきておらず、連絡も入っていなかった。

 確実に何か起きているのはわかっている。だが、何が起きているのかが、その場にいる全員がわからなかった。


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