滑稽なるちょうちょ


 駅までの道は、田島とレンが「ダッシュ石けり」という石けりなのになぜダッシュなの?というゲームを始めた。
 実はそれは簡単なルールだった。石を蹴ったら、相手が蹴る。それにダッシュが入る。
 石を蹴ったと同時にダッシュで走り出して、蹴った相手よりも先に蹴らないと×。田島曰く「1勝はしたんだぜ?」との事。何回やっているのかは誰も知らないことだ。西広もやろーぜ!ときたが、丁寧にお断り申し上げた。誰が病院に行って次の日筋肉痛になりたいと思う者がいるだろうか。
 100メートル先の歩道をダッシュしている二人。しかも器用に人と自転車をよけて走る姿……あんまり同じ仲間とは思われたくないというのが正直なところ。でも。
「にっしひろー!置いてくぞー!」
 一番声のでっかいヤツから100メートルもの距離を置いてでも聞こえてくる声に、トホホとなった。泉はなんでついてこなかったのか…というか、ヤツらの行動を既に予想していたのか?
 そこらへんの疑問は尽きぬものだ。
 小走りで二人のもとへと近寄るが、良く見ると二人の足元に石がない。
「そこの穴に落としちまったんだ。」
 悔しそうに田島が言う。どうやら今回も田島が負けたらしい。
「今度こそ勝つからな!」
 ビシィッという音が聞こえてきそうな指で、田島はレンを指す。
「人を人差し指でさしちゃだめだよ。」
「あ。ワリ、レン。」
「う、ううん。」
 漸く落ち着いたのか、三人で見えてきた駅へと少し早歩きで歩く。
「電車で45分って、やっぱ遠いよなー。」
「しかも乗換があるからね。」
「の、乗換!」
 乗換という言葉にレンが反応した。電車は乗ったことがあるが、あまり乗換はしなかったのか?
「日本では はじめて だ よ!」
 どうやら楽しみでドキドキのワクワクらしい。
「田島、吊革で新体操するなよ?レン、窓側に顔見せて座っていいのは小学生までだからね?」
 二人とも良い返事が返ってきた。
 普通に電車が乗れて、病院までちゃんと到着できるのか、西広は少し不安になった。





 電車から降りた西広は、すでにへとへとだった。
 相次ぐ乗換もそうだったが、田島はお菓子とジュースでレンと大騒ぎ。そしてレンは…
「その格好していいのは小学校低学年までだから!乗る前に言っただろ?」
 窓側に座って外の風景を見ようとしていたのだ。注意したらベソかかれて田島が「いじめるな」発言してまた大騒ぎ。周囲からの視線は痛いし…
今度行く時は水谷とか巣山とかと一緒に行こうと心に決めた西広だった。
「西広〜、これからどーやって行くんだ?」
「あ ああ。うん。バスにのる50系統。」
「とま っ てる。」
「わぁぁぁぁぁぁ!走れ!あの後30分待つぞ!」
 いきなりダッシュ!田島とレンにさっさと置いてかれる西広。田島は言うに及ばず、14歳に追い抜かれる20歳過ぎ。………何か何かで負けているような気がする。
 バスに乗るとき、二人が雁首そろえて西広が来るのをまっていた。待っててくれたのかなぁ、と一縷の希望を持っていたのだが。
「オレら、お金もってないからバス代払えない。」
「…そうですか。」
 金目当てと言外言われるとそれはそれで悲しい。西広は預かったお金の中から3人分のバス代を払うと、一番奥の座席に座るように言った。病院行きのはずなのに、バスの中は結構空いていた。
 三人並んで座ると、バスはゆっくりと動き出した。
「○○病院の前だから、そこに近づいたらボタンを押すんだよ?」
 レンに話しかけると、少し興奮しているのかうんうんうんと頷いた。
 バスの車窓は電車のそれと違って、また、独特なものがある。
 「尾行の心配がないのは嬉しい。」ようなことをレンが言って、また田島ときゃいきゃいしだした。

 ああ、視線がいたい。早く病院に着かないかな?

 西広はそれをぐっと飲み込んで、二人の会話に耳を澄ませていた。


 前回は車で来たので良く分からなかったが、そこは研究所と併設された病院だった。どうりでなんか設備が整っていたなと西広は考えていたが、そんなことは二人にはわからない。
「受付に言えばいいんだよな。西広。」
「う、あ、そうだよ。」
 見ると、田島がレンをぐいぐいと引っ張っているようだ。どうやら本気で病院には行きたくないらしい。前回の時もみんな一緒だからと何度も強調して言って、最後、田島と泉と栄口によってオとされたのだ。もう半ベソかいて…えぐえぐ泣いて……あれからあの三人になかなか近寄らなかったなぁ…と西広がちょっと記憶の波を漂っている間に、田島とレンはさっさと病院の中へと入ってしまった。レンの本日の病院行きは嫌いなものをなくすという栄口を発言主としたモモカン、シガポの策略であることは知っていたが……
「うわぁぁぁぁぁ!ちょっとまてぇぇぇぇ!二人とも!」
 武器士は基本マイペースであまり怒鳴らない(あまり怒鳴らない理由としては前線に出てこないからだ。でも阿部が武器士だったら間違いなく怒鳴るねと沖たちと語り合ったことがある)西広がうっわーぁぁぁぁぁと叫びながらダッシュで病院の中へと入って行った。


 今回の測定の結果はすべて紙にプリントアウトされて渡され、念のためにCD-ROMでも作られる。それを渡されたら、もう、おしまい。である。
だから、レンも田島も西広も、完全に油断していた。

「さて、武器を全て放棄してもらいましょうか。」
 レンは何となく感じていたのだが、西広が脅えると思ったので黙っていた。それがいけないことだということに、たった今、今までここの2番目に偉い人が急に悪人面になった。理由は簡単。西広と田島が、コーヒーを飲んでいるうちにばたばたと倒れたのだ。自分が慌てて田島の余っているコーヒーに指でぺろりとなめあげると、きっと副院長を見た。これは長時間効く睡眠薬だ。しかも強制的に眠らせるタイプのもので、どんな事があっても起きない魔の薬である。
「全ての武器を放棄しませんと…そうですね、どちらかの体に傷が残るということで。」
 見ると副院長の手には分厚いナイフが握られている。金属だろうからメスかな?と思っていたレンはそれはそれで慌てる。
「わ かりま し た。」
 泣く泣くレンはどうすればよいのか尋ねた。
「そうだな…服を下着まで脱いで、はだしになって、一度風呂に入った後に検査。検査終了したら、君に頼む事があるから、入院用のスモックを着てもらうことにするよ。」
 うん。なかなかいいアイデアだ。と自認する副院長。レンはその言葉に真っ向から二人を連れて逃げ出したかった。だが、西広一人はどうにかなるが、田島も一緒に抜け出ることは難しい。ましてやほぼ武装解除させられたこの状態では、何もできやしない。レンの瞳はありありと決意が浮いている。

 田島くんと西広くんは、絶対に守らないと!

 じゃあ、という事で応接室から近くにあるシャワールームに連れ出されながら、レンはきっとした顔で、副院長を珍しく睨んでいた。
足はがくがくふるえていたけど。今はもう、三橋廉なのだから。暗殺者のWindではないのだから。


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