しぎゃーしぎゃーと騒ぐ除虫屋たちだが、ふと見ると一つ背の高い者がいない。気づいたのは利央である。ちょいとしゃがんで、きょろきょろと見てみると、やっぱりしゃがみこんでひくひく笑っている者一人。
「今日のツボはどこですか?」
 腹抱えて笑っているのは高瀬準太である。もう慣れたと言わんばかりの利央。いや実際慣れている。
「あ、あの…ニシウラの二人…」
 高瀬がここでレンの名前を呼んでいたら、レンはあまりの驚きに泣き出したろう。本人その場に置かれたまま会話は進む。
「会うたびにでかくなる田島も相変わらずだけど…」
 ぷぷぅ。と高瀬が吹く。呆れ顔で見る利央。

 そこでようやく脅えてるレンに気づいた田島は河合とのやり取りを中断し、レンの正面に回り込んで、俯いているレンのデコを

ぱち。

デコピンした。これにはレンも対処出来なかった。ちょっと額が痛い。
「元気でたか?」
 田島なりの元気注入法だったのだろう。ニカッと笑ってレンを見る。
「お、オレ。げ んき!」
 ぴょこっと顔をあげ、田島の顔を見る。
「よっしゃ!オレは全員知ってるけど、レンは初めてだもんな!」
 ご挨拶!と田島がレンの手を握って歩き出す。田島の手を握りながらおっとっとと進むレンを見て。
「か、カルガモ…」
ぷぷぅと高瀬が再度笑ったが、利央は完全に黙殺した。


 5分後に作業を始めるから。と河合が言う。ピンズは「結界士」。かなりの高レベルである。
「あ、じゃあ、レン……三橋廉に、ちょっと自己紹介してくんねーか?」
 田島の後ろにこそこそと隠れようとしていた所をざっと反転して三橋を前にずいと出す。
「ま、名前を教えてくれたらイイ事あるから。」
 あ、あとレンって言っていいのはニシウラのメンバーだけだからな?全員三橋って言えよ?とついでに田島が言う。どんだけ独占欲よ。とめいめいがツッコミ。
 それでもニィッと笑う田島にめいめいが名前を言う。河合和己、高瀬純太、中沢利央。
「オレ様が榛名元季、このダメガネが秋丸恭平。」
「誰がダメガネだ!」
「じゃあこの中では結界士はオレと利央と田島か。一番強いのはオレみたいだからオレが結界。秋丸が目でよろしく。」
「了解。」
 あっさりと榛名のツッコミをなかったことにして返事を返す。
「利央は今回情報屋。」
「えー。」
「秋丸が今回目に入るんだ。お前のレベルより高い。当たり前だろ。」
 ぶーたれる利央にぽいっ、と情報屋用のインカムを渡す。しぶしぶと受け取って指定の場所へととりつける。
「えーと、光撃士と衝撃士、空撃士、全員揃ってるな。」
 田島、榛名、高瀬が頷く。
「和サン!合計23匹に増えました!」
「了解。」
 鷹の目からの連絡を受けた仲沢が報告。秋丸が意識を集中させる。23匹全部を含む場所を…
「河合さん、この前方道路10メートルから西方向から東南東方向に70メートル。そこを基点に北方向から南西方向に85メートル。」
「随分緻密なナビだな…とりゃっ!」
 ぱきぃっと音がすると、見事なまでの結界が張られる。ぽーと見ていたレンだが、はっとして、田島を見る。
「おお、ちょうちょとしゃぼんだま頼む。」
「う ん。」
 三橋は両手を広げてちょうちょの歌を歌いながら緑色の蝶を指に発生させる。全員の名前を言い終え、歌い終わるとひらひらと全員に留まる。続いてしゃぼん玉を歌う。全員の体に防護壁が発生する。
「え?護り手?」
「それだけじゃないんだぜー。なー。」
 田島がニカーッとレンに笑いかけると、レンもおづおづと頷き返した。
「まぁいい……10秒だけ前方2メートル四方の結界を開けるから、そっから入って退治してこい。」
「あいよ!レンは無理するなよ!」
「う うん!」
 ニシウラ以外の者が肩に蝶を乗せたまま、走り出した。



 やっぱりエース級が多いと仕事が早いね。と秋丸が呟く。ちょうちょを介して伝わってくる全員の状態は、軽い疲労のみを伝えるのみで、あとは防御膜に伝わるダメージが少ないくらいだ。

田島と、榛名以外。

「田島く んと、榛名さん の、しゃぼんだま 固く。」
 レンが伝えると、瞬間に二人の防御膜が厚くなる。
「レン、サンキュ!」「うぉ!なんかスゲェ!」と二人からインカムごしに声がはいる。と、ちょうちょに反応。虫がなにかしたらしい。秋丸が高瀬さん!と呼び掛けている。
「ちょうちょ ちょうちょ高瀬さんにとまれ。とまったら 傷を治せ。」
 レンの指から放たれる緑色のちょうちょ。
「み、三橋く、ん?」
 今の幻想的な光景に息を飲んだ三人は、は、と他の視線に驚いてもう少しで全ての術を解除してしまうところであった。
「今の…」
「高瀬さんの…」
 おどおどきょどきょどびくびく。
「怪我、治して ま、す。」
 ようやく言えたとほっとしたレンを待ち受けていたのは。

 あんぐりと口を開けている、他の除虫屋たちだった…。

 ここにいる誰もが、同じことを考えていた。


 もしかして。
 もしかすると。

 その興味丸出しの視線に耐えれるレンではなく。

 おどおどきょどきょどびくびく。

 そんな中、嘘だろ?という高瀬の声が入る。

「どうした?」と訊ねる河合に高瀬はひどく狼狽えた声で「怪我が治ってる。」と返してきた。
「おー、レン!やったんだ!」と田島の声。
「癒し手…?」
 秋丸がレンを見ると、視線は全く合わなかった。きょどきょどびくびく。小動物を想像させるそれ。
「レンは癒し手だぞー!」
 田島がインカム越しに怒鳴ってくる。
「いじめたら許さねーからな!」
 瞬間、最後の虫が消滅。

 報告書は取り敢えず。

 河合と秋丸はそれぞれの思いを持ったまま、収束の準備を始めるのであった。


あっさり除虫完了!

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