「母さん!庭!庭!」
 レンの心臓は爆発しそうになっていた。
 田島が母さんと言った女性は、中年ののんびりとしたスタイルで、右手に大きなエコバッグを持っていた。長ネギとかが見えているところをみると、買い物に行っていたらしい。
「母さん。こいつがレン!…えっと……三橋廉!」
 田島が自分のフルネームをいきなり言ったので驚き、母親も「まぁ。」と驚いたのでレンはどぎまぎしてしまった。
「あ……ぅ……み 三橋 廉 で す。」
 フルネームで自分の自己紹介するのはあまりないので、さらにどぎまぎ。
「廉くんね。」
 にっこりと笑った女性は、「悠!部屋は綺麗にしておいたから廉くんをちゃんと案内するのよ!」と言うと、荷物を持ち直し、どこかへ行ってしまった。
「田島 く ん。」
「うん。うちの母さん。オレ末っ子で上に4人も兄妹がいるんだぞ!」
「す すご い!」
 田島の家の大家族ぶりを一通り説明されて、レンはすごく驚いた。田島はニーッと笑うと「夕食はなんだろうな?」と鼻をひくひくさせていた。調理するのはまだ先じゃないかな?とは思いながら思わずつられてやってしまう。
「お、レンも腹減ってるんだ!楽しみにしとけよー!うちの母さんの料理は天下一品だ!」
「う うん。」

母さん。

お父さん。お母さん。

 自分が連れ去られる時に泣いて相手につっかかっていたお母さん。それを守るように抱きしめていたお父さん。必死の形相。涙。
「生きてる の かな……」

「ただいま。」と言ってみたい。「おかえり。」と言われてみたい。


 その前に…生きているのだろうか…。


 ぽつりと呟いた言葉に田島の表情が少しだけ硬くなる。が、すぐにもとに戻ってばん、と背中を叩く。
「レン!汗かいたろ?風呂入ろうぜ!いつ帰ってもいいように風呂は沸かしてあるって言ってたから!流しっこしようぜ!」
「う お! う ん!」
 田島はレンからグローブを受け取ると、家の中へと入っていった。


 いつもと違う風呂だが、それでも楽しく入り、二人してほかほかしながら出てくると、「悠!ご飯よ!」という母親の声が響き、慌てて田島の手に引かれて食堂へと目指す。
 老若男女、と言えばいいのか、お年寄りから若い者までが全員揃っていて、「うぉぉぉ!久しぶり!お帰り悠!」とか口々に言ってる。
「おう!久しぶりだ!あ、こっち除虫屋の仲間、友達のレン…三橋廉だぞ。いじめんなよちい兄!」
「誰がいつ、どこでいじめたよ!」
「ちい兄が、昔、オレを用水路にたたきこんだ。」
 あんときは大変だった…とうんうん頷く田島。対するレンはおたおたしている。
「いーじゃんか、あんときは普通の川モードだったろ?」
「流されるとこだったよ!」
 ぎゃいぎゃいとはじめる前に他の者からストップがかかる。仕方がない、と田島とレンはあてがわれた場所に座る。
「久しぶりに全員揃ったから、奮発したわよ。」
 母親と、その顔に少し似た女性(姉だ、と田島から後で言われた)が鍋を持って、あらかじめ設置しておいた2台のカセットコンロの上に置く。醤油と他のものの甘い独特の香り。すき焼き。ぐつぐつ煮えてるそれは、田島とレンの胃袋をきゅぅっと鳴かせる。
 一番歳をとっている老人(ひいじいちゃんと後で教わった)が箸を持ち「いただきます。」と言うと全員で「いただきます。」と言って、一斉に箸がすき焼きへと集中した。
「レン!早く肉とらないと全部取られるぞ!」
「う うん!」
 全員箸の動きが速い。しかも慣れている。予想範囲内に釣果のあがった田島の皿に対し、レンの皿は野菜ばかりだ。
「レン、肉食え。」
 田島がどさどさと肉を入れる。
「うぉっ…いい の?」
「いーのいーの。レンはお客様。」
「うぉっ!」
 いい人っと目をキラキラさせながら、二人してどんぶり飯にありつく(田島は大盛り、レンは並盛り)。
「うまいだろ?うちのすき焼き!」
「うん! おいし い よ!」 
 二人して笑い合いながらばくばくと食べていると「何か弟が一人増えたみたいだな。」と誰かが口にして、全員がどっと笑った。
 その後、田島の家族から質問攻めにあい(田島からいじめられてないか、とか、部屋はどうかとか)、 お腹がいっぱい、頭はぷすぷすの状態で田島の部屋に向かおうとした時。
「廉くん、ちょっといいかしら?」
 田島の母親が、そっと話しかけてきた。
「オレもいい?」
 田島の問いに母親はやや考え「いいわよ。」と返す。
 いつになく真剣な表情の母親が、レンとどのような繋がりがあるか気になったからだ。
「じゃあ、ついてきてくれるかしら?」
「は い。」
 三人は、人気のない部屋へと進んでいった。


嫌なシーンはさっさといくに限ります。死にネタ苦手な人はご注意を。

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