家の中は静かで、ほんの少し寒かった。

「お。オレの部屋掃除してある。」

 ガタピシと襖を開けながら、嬉々としてレンに話しかける。

「う お」

 レンもおっかなびっくり部屋へとやってくる。

「オレの部屋へようこそ!」

 一歩入ると日本家屋独特の木と畳の匂い。その中に畳敷きの部屋に、明らかに田島の趣味ではないモノ(後で尋ねたところ、姉や兄たちのものが荷物置き場として一時的に利用されているとのことだった)が部屋の半分まではいかないものの、かなりを埋めていたが、使い込まれた机や本棚、それ以外に雑然と様々なモノが置かれている。ニシウラでの本人の部屋を知っているだけに、この整理整頓は明らかに田島本人ではないことは確かだ。

「す ごい ね。」

 片づけた人。

「おお。古い家だけにガンジョーにできてんだよな。」
「そ そう なんだ。」

 二人とも楽しさの閾値を超えてしまっていて、会話が全くかみ合っていないことに気づいていない。

 ニシシと笑いながら田島はこっち来いと手招きする。レンは言われるがまま田島の隣に立つ。

「うちの庭とあっちが畑!」

 今度こそレンは驚いた。田島の家は農家やっているとは聞いていたが、まさかこんなに大きかったとは…。
「部屋じゃなくて縁側でしゃべろうぜ!」
「う ん!」
 ニシウラにはない静けさと心地よい風にほわんとしながらレンと田島は縁側に腰かける。
「ジョーチョ溢れるトコだろ?」
 田島の言葉にぶんぶんと縦に頭を振るレンに満足したのかニシシと田島が笑う。
「庭でキャッチボールでもやってみっか?」
「え?」
「投げたヤツをグローブで取って投げ返すんだぞー!」
「う うん!」
 ちょっと待ってろと田島がどたばたとどこかへ姿を消した。レンはほぅ、と息をつくと、田島を待ちながら手入れされた庭を眺めていた。

 初はおっかなびっくりやっていたレンだが、次第にコツを掴むと田島のグローブにどんぴしゃに投げれるようになっていた。
「レン、お前、学校入ったら野球部絶対に入れよ!」と田島が真剣な顔で言うくらいだ。これにはレンも少し驚いた。暗殺の技以外に、自分が意識して行うことでほめられることが今までなかったのだ。癒し手の力はもとから備わっていたので、誰が持っていてもおかしくはないと思う。だけどその力がなかったら、自分はこの場にいなかっただろうし、今はどこにいるのかわからない両親のもとへと行くことも敵わないだろう。

 いつか、いつかでいい。両親の所に行って「ただいま。」と言いたい。

 それがさっき田島が当たり前のようにやっていた行為で、少しだけレンは羨ましいと思っていたのに気づき、かなり恥じていたのだ。だが、その心も、キャッチボールをしている間に薄れていったが。


 どのくらいやっていただろうか。二人とも汗がしみだしてきたとき、玄関の引き戸が開く音がした。
「誰か帰ってきたみたいだな。」
 田島の言葉にレンがぎょくっとなる。
「オレの家族の誰かだから怖くないだろー?」と田島は言うが、レンにとっては身近で遠くの人が初めてなのだ。オドキョドしないほうがおかしい。
 田島がレンに近寄って、オドキョドして混乱しだしているレンの肩をぎゅっと抱き寄せる。
「う、お。」
「オレがいるだろー!だいじょうぶ。ダイジョーブ。」
 そう言われるとなぜか安心してしまうから不思議なものだ。とレンは思う。
「う ん。」
 今度はしっかりと頷いた。
 しばらくすると、田島の部屋をあける音がして…田島にとっては聞き慣れた、レンにとっては初めての声が響いた。
「悠!どこにいるの!」


初めて野球っぽいΣ

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