栄口がレンをベッドに横たえ、空気の薄い膜で首から下を覆い、体温と布団の温度を一定に保たせることに成功し、ふぅ、と息をついた。
 レンは全くそれに気づかないようにぐっすりと眠っている。
「おやすみ、レン。」
 小さな声で言うと、栄口はゆっくりとレンの部屋のドアを閉めた。足音を立てないようにして、無言の騒ぎが起きているであろう居間へと歩を進めた。
 食堂の奥に居間はあるのだが、食堂に殆どのメンバーが揃っているようだ。いないのは居間にいる花井と田島と泉であろう。阿部と西広と沖は何やら機械の設置を行っている。インターネット回線を使って、レンの状態を研究所へと送るということで話しがついたのだ。
「栄口。」
 機器の設置が済んだのか、阿部が栄口のほうを向いて、顎で居間のほうを指しながらのたまう。
「行ってこい。」
「はいはい。」
 何故か阿部の命令口調が弱々しい。何かあったのか?と思っていると
「なに?『おまえのとーちゃんメタボリック』って書かれたのそんなにショックだったん?」
 いつもの水谷がいつものように地雷を踏んだ。案の定、阿部のどこかから「ぶちぃっ」という音が聞こえた気がした。
「てんめぇ!」
「きゃー!」
 壮絶なる鬼ごっこが開始される寸前で、栄口の「レンが寝てるから静かに!」という抑えた声で言われてとりやめとなった。
「ああ、あと。」
 巣山がなにかを持ってやってくる。竹製のそれは…
「孫の手?」
「さっきから花井が背中がむずむずするって言ってたから。」
 一緒に持ってってくれ。と言われ、差し出された孫の手を受け取る。
「あいつらは?」
「いまのところふてくされてるくさい。」
 水谷の声が返ってくる。そう、居間には今、消音を強化された結界が張ってあり、中に田島と泉が入っているのだ。
 レンが寝ているところにドタバタと駆け足で入ってバタンとドアを開け、「レンー!起きろー!」とやることは目に見えて…いや見えなくても分かる。その為、とられた策は、一旦二人を結界に押し込めて、 阿部が説明する。というものだった。しかし衝撃士二人を結界内にいれておくというのはあまりにも無謀じゃない?という西広の言葉に花井は「仕方ない。」と苦い薬を飲んだような顔をして言った。
「入るよー。」
 居間の一角に、花井と泉と田島が座り込んでいる。花井は頭に巻いていたのだろうタオルを肩にかけ、「いーから栄口が終わらせたらここに来んだから待ってろ。」と言っているのが分かる。
 ふと結界内の泉と視線が合う。おい、と田島の肩を叩き、一気になにか大声でわめいている。早く出せよ!レンに会わせろ!とか言っているようだ。
「花井、はい。巣山から。」
 にゅっと孫の手を出すと、花井の疲れた顔に一筋の光明を見いだした。
「サンキュ。」
 さっそく花井は背中をぼりぼりと掻き出す。何かあったのか?と思ったが、そこにあったものに納得してしまった。というか感心してしまった。

 へぇ、結界って、油性マジックで文字書けるんだ。

 花井のバカ
 おまえのとーさゃんメタボリック
 云々色々書かれている。
 とーちゃんの「ち」が「さ」になっているのはご愛敬だろう。
「まずは報告。無事にレンをベッドに入れてきたよ。」
 おー、という顔を二人揃ってやっている。
「で。」
 栄口がいつもの笑みを浮かべて二人を見やる。
「この約束が絶対に守れるということが分かったら、結界をなくしてもいいよ。」

 えっ?いいの?

 花井が思わず栄口のほうを見る。栄口、視線無視。ニシウラ最強の主夫である。


 うんうん。
 はやくいえよー!
 そうとは思わないのか、泉と田島は結界の中で口をぱくぱくさせている。がんがんと結界を叩かないのは花井への配慮なのだろう。
「分かった分かった。なら言うけど。まず、面会は一人5分まで。一人ずつ。」

 えー。

「ドアは静かに開けて、出るときも静かに出る。レンに触っちゃだめ。揺するなんてもってのほか。あと話しかけない。レンが自分で起きてくるのを待つ。約束できる?もしも約束を破ったら…そうだなぁ。」
 居間のドアに貼り付いているほぼ全てのメンバーに聞こえるようにやや大きな声で言う。
「窓から部屋のものが全て吸い出されているとか、全部潰れている、とか。」

  ぅえっと水谷が声をあげた。中の二人もドン引きしている。

「………約束、守れる?」
 何故か全員が頷いていた。


戻る 次へ


主夫、最強列伝(笑)