バンは大きな建物に入る。入場門の所で、あらかじめ渡されていた入場証と全員が除虫屋ニシウラである証…ピンバッチを渡し、照合。人数と武器などがないか確認されて…漸く入ることが許された。
「ホンットーにレンが嫌がりそうな建物だなー。」
 ぼつっと田島がぼやいた言葉は、全員の耳に入っていた。
 なにやら近未来の良く分からないような…強いて言えばフタが透明な酸素カプセル?みたいなのに入れられ、空撃士と結界士が二人詰めている中で、様々な機械の中で、レンは眠りについていた。全員、白衣、白い長靴にマスクに帽子。ここに来るまで3度も衛生用のチェックを受けた。それで漸くここに到着したのだが…
 レンはただ眠っているようにしか見えない。
 ただちょっと濃い緑色の膜に包まれているだけのようなのに。ここまでやる必要がある?と田島は口に出さずに唸ってた。泉が肩を叩いて、田島に「アレ見ろ」と指さす。一般の病院でも見かける、心電図とかいうヤツだ。
 英語の所は読めなかったけど、どの数値を見ても一般のそれより低いことが分かった。心臓の動きはえらく緩慢で、1度鳴ったらしばらく鳴らない。血圧もとんでもなく低い。巣山と阿部と栄口が誰かと何やら話しているが、話の内容は良く分からない。ただ、レンは人間としての活動を殆どギリギリまで落として眠っているらしい。

(つまんねーの)

 田島は思う。こんなレンが起きて見たらすくみ上がって泣き出すような所に入れられてたら、起きるにも起きられないだろう。とか。
 泉とアイコンタクトを取り、近くに寄る。結界が上に空撃士の空気のクッション膜がある為、レンの近くと言ってもかなり離れた場所だった。
 沖も西広も、その後に続く。いつのまにやらニシウラ全員がぐるりとレンを囲んでいた。全員が無表情で、何も言わずにレンが眠っている所を見ている。動いているのは機械と、それを操る人間と…少し上にあるガラスの窓から見える、研究者たちの姿。データを見ては何やら口論しているようだ。今回と次回の眠りで完全にレンの「癒し手」のレベルが決まるとの事。そのレベルがべらぼうに高くなるらしい、とは小耳に挟んだ。そうなると、ニシウラにいられないのではないか、という不安が起きてしまう。

 オレ は、ニシウラに いる よ。

 栄口と水谷と花井は、先日来たレンの「友達」との会話を思い出す。彼はここが気に入っているし、寝床もニシウラにちゃんとある。箸だって、茶碗だって、一揃い全てある。

 絶対に、こんな所に渡さない。

 ちら、と巣山はそう思って隣の阿部を見た。阿部も巣山の視線に気づいて…頷いた。
 研究員の一人が、小さな声で「時間です。」と告げた。帰らないといけない。
 一人、ふたり、とレンの近くから離れる。



「ゆっくり眠れよ。」
「早く起きてこい。」
「好物用意しておくよ。」
「またゲームやろうぜ。」
「レポート手伝いよろしく」
「手合わせ願うぜ」
「散歩にまた行こう」
「工房開けておくから」
「レンのこっそり欲しがってたの、入荷したよ。早くでておいで」


とか口々に言いながら。小さな声で。
 全員、違う言い方だったけど、考えてた事は皆同じ。


「起きたら、ニシウラに帰ってこい。」


それだけだ。


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タジー不機嫌。みんな不機嫌。