レンを見に行ってから、何だか田島の機嫌が悪い。
 むっすーとぶすくれていることが多い。というか、拗ねてる?
毎日レンに会うことを禁じられているニシウラの面々としては、歯がゆいのは分かる。特に田島にとっては大事な大事な弟分だ。それが問答無用で会えないとなると心配を通り越して不安になるのだ。
そのまま連れて行かれやしないか、と。
ポジティブシンキングの塊というより…天然というか頭より身体で生きている田島にしては珍しい姿である。
 明日練習試合なのに、とか、試合の前あたりの天気が良いとはしゃぎまわるのに、とか。ちなみに今日もいい天気だ。
 部活帰りのこの道も、何やら遠く感じる。何はともあれ、泉は溜め息をついた。まったく、しょうがねぇ。
「田島、モモカンとシガポがレンは絶対にここに戻ってくるって上と取り決めたんだろ?」

 あーやだやだ。こんな役やりたかねぇ。

「………」
「でも…考えてみろ。「あの」レンだぞ?」
「?」
 そこで初めて暗い顔に違う色が混ざる。疑問という顔。
「何があっても抜け出して帰ってくるって。」
「………なーるほど!」
 その言葉を聞いた途端、ぐー、とゲンキンな腹は音をたてた。
「早く戻ってメシ食おうぜ!」
「あ、ああ…」
 お前もう少し考えて行動しろ……全くこの馬鹿が!………いや。
「なぁ、泉。」
 田島がまた困惑した顔で言ってくる。
「分かってる。虫でもあんなとんでもなくどす黒い気を放つヤツなんかいねぇし。」
「しかもいつものほうがまだ全然綺麗に見えるっつーのはどういう事?」
「オレが知るか!」
 既にニシウラの塀に入っている。あと少しで隠し結界穴があるのだが………
「腹減った………けど。」
 ぐぐぐぅぅぅぅぅ
「オレも正直思う。入りたくない。」
 ぐぐぐぅぅぅぅぅ
 その気の主は、やはりというか、栄口である。
「一昨日からあたりか。やたらとレトルトが増えたよな。」
「今日、カップラーメンだったらどうしよう。」
「田島も泉も、何してるの?」

びっくーーーーーーーーーー!!

「に、西広かよ!っつーか、なにそのコンビニ袋。」
 西広の両手にはこれでもかというくらいの大きなコンビニ袋がいくつもぶらさがっている。後ろにもう二人ほど気配を感じる。沖と水谷か。
「うーん。簡単に言うと…」
「当面の夜食だよ。」
 西広の言葉を受け取って、水谷が流した。
「ご飯だけ、炊いてあるから。」
 いつもの人数分ね。と沖が言う。それはこっそりレンの分も入っているということなのだろう。
「お、おシャケ様は?」
「真っ先に阿部に食べられたに決まってるだろー?」
 水谷がよよよと泣き崩れながら言う。そんな…と田島が呟く。ご飯のお友。おシャケ様。
「今日は分けてあげるけど…明日からは…ね。」
 泉はゆっくりと手をつきだして、見る者が見ないと分からないところに手をかけた。瞬間、結界ががばりと開く。
「うわぁ、やっぱ早くかえってこーい、レーーーン!」
 田島が怒鳴ると、1階のドア近くの窓ががらっと開いて、湯上がり花井が顔を出す。
「静かに。今、暇つぶしと称して阿部と栄口が将棋始めてるからな。酒入りで。」
 田島も思わず口を押さえる。西広たちは思わずカサカサ鳴る袋をどうにかして静めよう躍起になっている。
「早く入ってこい。お前らの分のおシャケ様は確保しておいた。…騒ぐなよ。」
 泉と田島は、無言で目を合わせて万歳三唱をした。そして音もなく家へと入っていく。
「ただいま!」
「ただいまー!」
「ただいま、おかえり。」
「前略、以下略。」
「おかえり。ただいま。」
「おかえり…と。田島は部屋かたづけるのが一番だな。」
「うへぇ。」
 思わぬとばっちりを受けて、田島は今度こそ突っ伏した。
 ちなみに晩ご飯は、いつもの食堂ではなく居間で食べた理由は…栄口と阿部が将棋で長考に入っていたからとも言う。もしくはどす黒いナニかをたれながしにしていたからとも言う。
 何はともあれ、全員が様々なモノに恐れているのは確かであった。


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