妙にキョドキョドオドオドと脅えるぽわんぽわんの茶色い髪の毛の彼から聞き出せたのは

「レン」という「名前」みたいなものと、
 あの施設は裏で様々な活動をしていた研究者たちの隠れ家中の隠れ家だった。ということ。
 何故、彼がそれを知っているのかは教えてくれなかった。
 ただ、起きたら、実験されるところだった、ということだけは教えてくれた。
 田島の「なーなー、あの緑の膜、スゲーな。」と言ったら、「アレはオレの卑怯の証」と泣きそうな顔で言った。
 「でも、あれがなかったらとっくに「虫」となっていたんだよ?」と言ったら、ふるふると首を振っていた。どういう意味で首を振ったかは、オレにも、そして田島にも分からなかった。
 17歳の田島と同じくらいの歳かと思っていたら、14歳という答えが返ってきた。…もしかして、未成年者略取かなぁ。とか思いつつも、今、風呂へと入れている。少し大きいけど、田島の服を置いといた。田島はソワソワとあっち行ったりこっち行ったりとせわしない。理由は分かっている。もしかしたら「弟分」が出来るかもしれないのだ。今まで散々歳が若いと大学生グループから言われていたのだ。高校生は泉と田島しかいない。

 トントントントントントントントン………

 とりあえず、キャベツの千切り。…全く、昼は置いといて、朝と夜は本当に献立考えるのがイヤになる。

 全員男。9人。…と、今日はプラス1。

 一回に炊くご飯の量は最低で7合。ちなみに今日の晩御飯はコーンスープとコロッケ。キャベツの千切りはかかせないアイテム。コロッケは一人3個としても30個。…慣れてるけどね。自分たちの金でまかなえ!と言われたら、冗談抜きで餓死だ。政府の補助金や「除虫」した金で衣食住(+学費と結構な額のお小遣い)は守られている。皆様の税金、ありがとう。…オレも払ってるけど。

 まぁ、田島を筆頭に食うわ食うわ。特例で普通の高校で野球やってる田島と泉は別として、合コン王水谷と神出鬼没の阿部。…この二人は食う時は冗談のように食べ、食べない時は食べない。ギリギリで連絡いれてきたり入れなかったりするんで泉と田島のターゲットになっている(水谷はいつもターゲットだから自分からテーブルの隅に逃げた。無論、田島と泉から一番遠い)。

「お、あがったかー!レン!」
「う、うん。」
「ホカホカかー?」
「ホカホカだ よ!」

 浴室のほうから年少の声が聞こえる。
 その微笑ましさになんとなく苦笑しながら、オレは千切りを続ける。
 田島に手をひかれ、ドアから出た姿は、本当に14歳?と思うくらいの細い体で、ただし筋肉はついているところはついているのはわかって。でもちょっとぶかぶかなTシャツに、ベルトをこれでもかときつく巻いた姿に、ちょっと笑ったら…キョドキョドキョドっとされてしまった。
 まだ起きて2時間。…もう夕方だけど。とりあえずフレンドリーに。

 でも、すぐにそれはレンの口から奪われる。

 …困ってしまった。
 そして目の前にいる「レン」という子も困った顔でこっちを見ている。というか、もう半分泣き出しそうな顔をしている。

 目の前には、揚げたてのコロッケ。

 彼は、それを指差し、こう言ったのだ。

「これは、な んです か?」

 コロッケだけど?と答えると、首を傾げる。食べたことない?ときくと、おづおづと頷く。そしてまたもや訊いてきた。

「食べ 物 ?」

 後ろでコロッケをつまみ食いしようとしてた田島の手も止まるほど、ありえない言葉だった。

「レンはさー、今まで何食って、何飲んでたんだ?」
 田島がさっそく質問責めにしてくる。ビクビクとしている彼には悪いが、それはオレもききたい。
「え…栄養と カロリー が 入った固形食と み…みず。」
「カロリーメイトみたいなヤツか?」
「…?」
「そかー、ならコロッケもわからねーよなー。仕方ねーよ。」
 ニカーと田島が笑う。こいつのこういう所はありがたい。しかし…どういう生活してたんだ?14歳で。
 その時、扉が開く音がして人がどやどやと入ってきた。皆さん今日は集団でお帰りのようで。水谷は捕獲されたんだな。五月蠅い。あ、阿部がいない。どうやらシガポかモモカンの所へ寄っているらしい。
「田島ぁ、調整の日だからってそのまま直帰ってどーゆーことだよ!」
 いきなり泉がかっとんできて田島の頭をごちっと殴る。レンはそれを見て、びくっと体を震わせる。オレはまぁまぁ、と仲裁に入る。と、泉がレンの姿を発見したようで、目を真ん丸くさせている。
「起きたのか!」
「は…は いっ!」
 びびらなくていいから。
「レンって言うから、そう呼んでやってくれよー。」
「田島、エラそーに!」
 ぎんっと泉が睨みつける。脅えるレン。あははーと笑って逃げる田島。
「あー、オレらはどーすればいいか…ねぇ。」
 水谷と花井が立っていて、困惑した表情でオレを見ていた。
「とりあえず、晩御飯の時に自己紹介の時間をあげるから。…レンと呼んであげて。」
 水谷があっははーと笑いながら、レンの肩に手を置こうとする…と。

 その手首をぐいっと掴んで。

 瞬間、水谷はどたーんと地面へ。柔道?オレは良く分からない。
「なにを!」
 花井が驚いて怒鳴りつける。
「あ…あぁ あ …」
 レンが脅える。逃げ出したそうだが、後ろにオレ、横はキッチンと棚、前には床に沈んだ水谷と花井がいる。逃げ場はない。
「ご…ごめんな さ い。」
 とうとうぽろぽろと泣き出してしまった。
 あー、これからどうしよう。
「花井!6歳も違うんに、イジめんなよ!」
 田島の怒鳴り声が入ってくる。

 とりあえず、田島に任せよう。うん。
 オレは、さっさとテーブルのほうへとコロッケの入った大きなバットを持って、移動。

「あいたたた…」
 花井の手を借りながら起きあがる水谷。近くでは泣いてるレンと「よしよし」と言ってなだめてる田島、とりあえず見てる泉、遠巻きに見てる他っていったところかな?
「なー、レン?どーしてあんなことしたんだ?」
 田島が話しかけている。お、おにーちゃん風、さっそく吹かしだしたか。レンも泣きながら、イッショウケンメイ答えようとしているけど…
「つ……つ い…」
「ついで人ひとり投げ飛ばせるか!」
 花井の怒鳴り声にまたもぴゃっと泣き出すレン。まぁまぁ落ち着いて、と今度は投げられた側の水谷が止めに入る。
「と、とつぜ ん、 肩 たたかれた か ら つい…」
 なげちゃっ た、と不思議なイントネーションで泣きながら話すレン。ホンットーにナゾだ。
「まぁまぁ、晩ご飯だから。全員揃ったから食べよう。」
 レンのぶんと自分のぶんはいれて、他にはスープボウルを渡す。そこまで世話みきれないよ。自分で勝手にやってくれって感じで。
 めいめい返事しながら、列になる。その時、水谷のシャツを、レンがくいくいとひっぱる。
「ん?どした?えーっと…」
「レンだよ!」
「サンキュ田島。レン。どした?」
「ご…ごめんな さ い!」
 ぴょこっと頭をさげる。
「いいんだよ。オレもいきなり触っちゃったから驚いたんだろ?おあいこおあいこ。」
 こうやって許せるのが水谷の美点だと思う。同じように頭をさげられた花井は「えーとうーと」と困っていて田島の「素直にうけとっときゃいーだろ?」というツッコミを受けている。

 はー、なにはさておき、晩ご飯です。


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カニクリームコロッケ食べたい。←おなかすいている模様