最初に見えたのは、「いつもの場所」ではない天井だった。横を見る。点滴の架台が見当たらない。あれは「仕事」が終わると即効で取り付けられるのだ。どのみち血管に損傷は「結果的に」ないのでいつも同じ場所に刺される。反対側を見る。壁。

 ぼぉっとした頭で、見ている。

 ここ どこ だろう?

 その考えに至るまで、少し時間がかかった。「Wind」ではない「自分」はそんなもんだ。卑怯で臆病で、何も出来ない。

 実験体 かな ぁ…

 イヤ だなぁ。

 ぼぉっとした頭で、考えてる。

 逃げ出す気は、起きない。逃げ出せないことは良く分かってる。どこに行っても、それは多分一緒。それなら早く殺してほしい。自分は自殺もできない卑怯者だから。

 その時、ドアが開く音がした。体が疲れているのか、あまり動かない。拘束帯というわけではない。肉体的・精神的双方だろう。

 顔を少し動かす。気配は隠すことなく近寄ってくる。…若い?

 視界に入ってくる顔。

 きょとんと見てると、彼はニィーっと笑うと、どたどたと部屋を出て行った。

「サカエグチー、アイツ起きた〜」

 その大声で、完全に覚醒した。

 そこはいつもよりも柔らかいベッドの上で、なんか……あったか い?感じ。

 ややあって、二人の男が入ってきた。一人はさっきの男で同じくらいの歳?もう一人は少し上…?

「あ、本当だ。起きてる。はーい、こっち向いてくださーい。」
 年上の人が右手をぷらぷらと振ってくる。それに視線を合わせる。こ、怖い。
「はーい、この指何本?」
 さ、さんぼん。と答えると隣から「あったりー!」という声がしてびっくりする。
「ダメだよタジマ。驚かせちゃ。」と年上の人がたしなめている。
「わーったよ。…で、起き上がれるか?」
 頷いて、おづおづと起き上がる。
「はじめまして。オレの名前はサカエグチ。さかえるのさかえにマウスのくち。で、栄口。」
「オレ、たんぼのたにおきのとりしまのしまで田島〜♪…で、お前は?」

 お、オレ………

 この名前を言っていいのかな?あっちの名前は使いたくない。仕事なんてしたくない。ここには「マスター」もいない…あ れ?マスターの反応がとぎれ、て る。死んだん だ。
「れ…れん。」
「れれん?」
「れん」
「そかー。なまえ?苗字?」
 それを言われて…こまった。

「みょうじ も、」
 口はひらく。どうしようもないから。
「なまえも ない。」

「レン で す。」
 ただの レン です と答えたら…
 二人とも、びっくりしてた………


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レレレのレン。