| 全員、館から出ると、夕日を受けたモモカンが既にシガポを連れ、バンの前に立っていた。 「今日も良い除虫日和よ!」 除虫屋ならではの言葉を言って、全員は苦笑した。全く、虫の発生が金曜日と誰が決めたんだか。 「レン君、大丈夫?」 「だ だいじょう ぶ です!」 おどおどとしているが、はっきりとした返事に百枝もにっこりと笑う。 「じゃあ、さっさと乗り込んで!向かうよ!」 応、と全員が言い、わらわらと乗り出した。 モモカンの運転する車はぎゅう詰め、ついでにどんな季節でも冷房をガンガンかける。そうでもしないと首から下は密閉状態なのだ。始まる前からふらふらになってしまう。 「レン、大丈夫か?」 田島が尋ねるとオドッキョドキョドと見事なまでに不審者行動。気合いを入れてあがっているようだ。ついでに何かを考えているらしい。さっきから右手や左手からポウポウと緑色の明かりが出たり消えたりしている。 後でわかるだろ。と思って田島はあえて聞くのをやめる。 「うー。はらいたい。」 後部座席には腹を抱えた栄口。その姿にキョドりが違う方向のキョドりに変わる。 「あー、こいつ神経性のゲ…腹痛だから。」 水谷が説明(途中本人からのにらみ有り)すると、きょどんとする。キョドッときょとん、の中間点。 「到着したら収まるんだけどね。」 苦笑いの栄口に「いつものことだ。ほっとけ。」と阿部。なにそれ横暴!と栄口反論。ついでにと泉が参戦。 ぎゃーすかぎゃーすかにぎやかになった所でモモカンが車を止める。ついでに口も止まる。 「さぁ!着いたよ!」 ドアに一番近い巣山と栄口がガララと音をたてて開く。普通の住宅街。 「本当にしのーかはすげーな。」 田島がよっといいながらアスファルトに着地。住宅街などの場合は虫がどの部分に隠れているか、どの時間帯に一番現れるかを予想する。そしてそれまでに住宅街から人を避難させ、結界士が張る結界の中に誰一人としていないようにさせる。通常除虫作業の作業日報には「鷹の目」の名前も必要なのだ。 「確かに。」 うんうん頷きながら泉が降りる。レンも音も無く降りる。 「レン君は今日が初めての通常除虫作業だね。結界の外からだけど、しっかり見てもらうわよ!」 はきはきとしたモモカンの言葉に、ギョクギョクと頷く。 結界内に入る全員が耳をふさいだ形のヘルメットと装着具で完全防備をしたところを確認して、モモカンが口を開く。 「阿部くん、始めて。」 「はい。」 すぅっと息を吸い、何かの気配を感じ取っている。「目」の力を使って、「鷹の目」より細かい「虫」の居所を、また出現するであろう場所を特定しているのだ。 1分しただろうか、ギン!といきなり目が開く。 「花井、あそこの道から北へ100メートル、東へ50メートル。高さ40メートル。」 「分かった。」 モモカンがハンディ機を手に、スイッチを入れる。 「18:00。除虫屋ニシウラ、通常除虫作業、開始します。」 「水谷、泉、田島、栄口、ハンディ確認。」 「完了。」「あいよ。」「おっけー!」「出来てるよ。」 「戦闘部員は全員10秒以内にあの道の内側へ入れ。」 『了解!』 一気に4人が駆け出す。 花井が道の近くに行き、座り込む。 「北へ100メートル、東へ50メートル、高さ40メートル……よしっ!」 はっ、と鋭い呼気が走ると、かすかに灰色がかった膜が張られる。 「全員オールクリアーか?」 4人の声がスピーカーから流れてくる。 「あ、あ、あ、あの…」 「どうした?レン。」 「おま…り」 『おまもりをくれるってー。レンが。』 スピーカーから田島の声。そうか?と尋ねるとうんうんうんうんと頷かれる。 「おまもり…か。よし、モモカンと志賀先生以外全員に配れ。…ってどうやって?」 と振り向くと、レンは両手を前に広げていた。ぽう、と指先に緑色の光が集まる。 「田島くん。」 左手の親指に緑色の蝶がとまる。 「栄口くん。」 人差し指に。 「水谷くん。」 中指に。 「泉くん。」 薬指に。 「阿部くん。」 小指に。 「巣山くん。」 右手の親指に。 「花井くん。」 右手の人差し指に。 「行って。」 一気に蝶が舞い上がる。4つは結界をすり抜け、3つはすぐ近くにいる者たちに留まる。 『お、これ、ちょうちょ?』 『消えない!どうなってるの?』 『すっげー!』 『ありがとー!レン!』 スピーカーからぞくぞくと入る声。どうやら4人にも留まったらしい。 「おまもり…な。」 阿部は呟き、花井の肩に手を置くと、4人に命令を出す。 「今の所、虫はいない。だけど出現場所が2カ所ある。 そこへ水谷、田島。栄口と泉で行け。 水谷と田島は直進して4つめの角を東方向に曲がり、2件目の家の中に。 栄口と泉は3つめの角を東に曲がり、次の角を北へ。2つめの角の家へ入れ。」 言って目を閉じる。虫を追う為に。 除虫作業が、始まった。 |
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栄口くんは、緊張するとやっぱりゲリ………