「レンくん。」
 花井の肩に手を置いたままの阿部が指示を出している時、モモカンがちょいちょいと手招きした。
「?」
 音もたてずに近づく。
「ねぇ、レン君。あの「ちょうちょ」は治癒用じゃないわよね。」

どっきーーん。

「さっき阿部くんから連絡もらったけど、部位を口にすることによって、あの蝶はその場所に行って、治癒を施す。じゃあ今のは?おまもりとかいったら……」

がしっ

「にぎるわよ?」
 声にならないレンの叫び。良く分からないけど、痛いらしい。というか、雰囲気に完全に呑まれている。
「あ……う……ちょう…チェッ…」
 懸命に説明しているレン。だが。
「…………」

 モモカンは全く理解できなかった。近くにいたシガポも同様だ!
 その時、スピーカーに声が入る。
『すっげーな、この蝶いるだけでオレたちの体調チェックしてくれてんのかー!』

なぜわかる田島!

「う うん!」
 答えるレン。どうやらインカムをつけっぱなしにしていたらしい。
「レン君、今の全員の異常なところは?」
 志賀がインカムをオンにして話しかける。どうやらレンの言葉を田島に翻訳させるつもりのようだ。
「さ…栄口く ん は。おな か。治った。」
「いつものことだもんな。」と近くから言葉。阿部
「花井くん は、胃腸…」
「お前らのせいだらな!」
 インカム越しに怒鳴りつける。返ってくるのは「ごめん」「悪いなー」の笑い声。
「田島くん と、泉く ん は…まったく、ない よ。」
 いえーい、やほーいっ、と声があがる。さてはて、残りは一人。
「み…ずたに く ん は…………」
 とても言いづらそうにしている。しかも考えている。ややあって、その学術名を口にした。
……Trichophyton ruburum………。」
 志賀が一番最初に反応した。苦笑しながら言う。
「水谷、足ならレン君に治してもらいなさい。」
『このトリ…って何ですか?』
 泉の問いかけに、たのしそーに、そりゃもーたのしそーに阿部が答える。
「足なら水虫、アソコならインキンタムシになるモトの菌だ。白癬菌。ハクセン菌!」

『………………』

 スピーカーが沈黙した。
『お、オレ、水虫のほうだから!』
 慌てて宣言する水谷に、集中砲火。
『うそこけ!インキンタモレだろ!』
『うわー、うつすなよ、水谷。』
『狼返上だね。』
『足かあそこが田島の部屋レベルなんだな。』
『それヒドッ!』
『なんかそれですごく良く分かったのオレだけ?』
『いやオレも激しく同感だ。』
『レン、足だろーがどこだろーがみてやる必要ねーからなー』
『自業自得。』
『ひ、ヒドスギッ』

「み みぎ あ し だ から。」 
 うぇぇぇっと泣きながらレンが言った時、阿部の表情が変わった。
「虫、出現。水谷、田島。背後3メートル、3匹!」
『…っと。了解!』
『分かった!右足に触れないようにするなー!了解っと!』
「泉、栄口、11時方向から4匹。5メートル。」
『了解。』
『わかった。』
 ほのぼのと寒い話題から、一気に戦闘に入る。スピーカー越しに、めいめいの力が虫を退治していくのが分かる。
『阿部!こっちの虫は粘着型だぞ!爆発も溶解もいねぇぞ!』
 突然、田島の怒鳴り声が入ってくる。
「なんだと?」
『こっちも同じく!』
『こんなチマいのしかない除虫は一度も…』
「田島!泉!ダッシュで合流!栄口、3時方向に7匹、水谷、9時方向に15匹」
『どこに?』
『どこにだよ!』
「ここにだ。」

 レンは素早く刃物の準備をしていた。能力のない志賀と百枝はさっと後方へ下がる。常に同調していないといけない花井と阿部はゆっくりと後ろへ下がる。

「結界内だが、オレと花井とレンの、目の前だ。」

 目の前には、巨大化した虫。

『花井!1分間持ちこたえろ!』
『45秒だ!急ぐ!』
「栄口!正面から20匹…いや、26匹!10時方向から18匹!水谷!7時方向から58匹!」
『なにが起きているんだ?』
『なにこの数!』

ぎぃぃぃぃん!

「くぁっ!」
「花井!」
 虫が結界から出ようとして前足をけり出した。その衝撃が結界士である花井にダメージを負わす。
「レンは動くな!後退!結界には入れねぇ!」
 どう攻撃するか考えていたレンは、阿部の声にはっとする。
「お…オレ………」
「爆発型か溶解型でこの大きさだ。オレらはそれ用の防護服を着てるがお前は着てない。首から上が傷ついたらお前でも癒せない。」
 ふるふる、と首を振る。
「栄口くん や 水谷く ん…」
「バカ言うな!あいつらは両方共に接近も中距離もカバーできるタイプだ。接近型のお前が行っても、無理だ。」

 二度目の衝撃。ぐっと花井がうめく。

「花井、気絶すんじゃねーぞ!」
「分かってる!」
 ぜぇぜぇと荒い息をつきながら花井が答える。
『待たせた!』
 虫の頭部分にブレが生じ、ぱぁんとはじける。胴体部分にも同じように。
『大丈夫か?花井!』
「見ての通りだ。」
『虫がでかすぎてみえねぇって。』
『阿部!指示をくれ!』
 せっぱ詰まった栄口の声。はっとして阿部が「見」る。
「栄口、その場所から2メートル前進。右折した所に頑丈な壁がある。そこに行けば少しは楽になるだろう。虫は100匹以上!
 水谷!全方向に一度レーザーを!指示するから出来る限り栄口に寄れ!同じく100匹以上

 ………いいか?全員聞け。

 ここは…「虫の巣」だ。」

『じゃあ、こいつ、「女王」?』
『授業でしかきいたことねーよ!』
『他に要請したほうが?』
「今からじゃ間に合わねぇ。」
 ちっ、と阿部が舌打ちする。篠岡が珍しくミスをしたのだ。

 結界内に、裂ける音、潰れる音、ひしゃげる音等破壊音が響く。もはやあらゆる所から虫が出てくる。
共食いなどをした1匹及び2匹の虫が大きくなると、自然虫が集まってくる。それがまた虫を呼び、数え切れないほどの量となる。その大きな「虫」を中央に、無数の虫が集う場所。

「虫の巣」

 例え話とされた蜂はいい迷惑だ。としか思っていなかったものが、目の前に出現した。
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やっぱり除虫作業は楽しく書いてしまいます。…ってか、今ゴソゴソと音……リアル虫…ゴキ?Σ