レンが目覚めると、
「ぐおー すかー……」
隣で田島が寝ていた。







 7.ち ょ う ち ょ 




「ひょっ!」
びっくりして飛び起きる。体は軽い。熱は下がったようだ。ゆっくりとした動作でどうしよう、と考える。
小さなノックの音。ドアが静かに開いて、花井が顔を見せる。

はな い くん。 たじまく ん。

あうあうと言っているレンにうん。と頷き、花井はかつかつとベッドに寄ると

ガコッ

ゲンコツ一発落とした。
「いってー!なにすんだよ花井!」
「お前こそ何だ!昨日結局何も聞けないまま対策が完全に練られなかったんだぞ!」
「げ。」
 相当怒っている花井に田島は後ずさって…後ろにレンがいることに気づく。
「お、おっす、レン!熱どーだ?」
 ぴた、とおでこに手を当てる。いきなりだったが今回は正面からだったので田島がふっとぶことはなかった。
「な ないみた い。 お おは よ う!」
 イッショウケンメイ話している姿はまんま小動物だ。
「熱が下がったか。ベッドからは降りられるか?」
 花井も少し心配げにレンを見る。
「う ん。 だいじょう ぶ。」


 田島を起こしてこい、という阿部のご命令に花井はしぶしぶと田島のオソロシイ部屋をノックして開けると、もぬけの殻。慌ててレンの部屋を見に来たら…熱だして寝込んでいるヤツの隣で爆睡こいてる田島を発見。ゲンコツ一発で怒りを静めた。
 一連の行動をとった田島がガバッと起きて「じゃあ阿部ン所に顔だしてくらぁ。」と言って寝起きなのにダッシュで部屋を出て行く。
「あいつの血圧って…すげーな。」
 ぼんやりと花井が呟いている間にレンが立ち上がる。くぃーっと体を伸ばしたり曲げたりして状態をみているらしい。
「どうだ?」
「だいじょう ぶ。」
 そうか。と頷いて、着替えたら食堂に来い、と言って、花井は部屋を出る。

「田島ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 あー、こいつの血圧のほうがもっと心配。と口の端をヒクつかせながら廊下を歩く。食堂のドアを開けると、予想通りの展開になっていて、溜息。

 おまえ今日除虫作業だっていってんのに会議にでてこねーとはどうゆう了見だ?おい。
 わーるかったって。うとうとしたら気づいたら真夜中で、レンがトイレに起きてつきあったら一緒に寝ちまった。
 その歳で連れションかよ!
 仕方ねーだろ?レンその時まだ熱あったんだから。


 大声でやりあうことはないだろ。お前ら。と生ぬるい顔して思いながら周囲を見てみると、やはり同じ表情の全員が田島と阿部を見ている。なまぬるー。
「阿部、怒鳴り合うのはいいから、田島、朝食。レンはどうだった?」
 さすがに五月蠅いのが面倒くさくなったか、栄口が救いの手を差し出す。
「レン、さっき起きた。な、花井。」
 くるっと振り向いて、話を投げてくる。こいつはいつも突然だ。
「あ、ああ。今着替えてるから、来るんじゃないか?」と答えると
「熱、下がったんだ。」と沖の声。
「良かったよかった。」と西広の声。
 朝は粥にしておいて…調子がよさそうなら普通のご飯でもいいな。と栄口はぶつぶつ言っている。

かちゃ…

 突然、花井が立っている背後のドアが、小さく開いた。ちょっとビクッと驚いた。今日は朝から心臓に悪いことが多い。全く…。
「あ、悪い。」
 慌てて退いてドアが開くように移動するが、それ以上開かない。長身を生かしてそーっと見ると、ドアの外にいるレンと目が合う。

「レ……」

がちゃっ

 思いっきり閉じられる。あー、何か脅えてる。とか思っていたら、栄口がとことことやってくる。どうやらここの一部始終を見ていたらしい。
「レン?」
 ドアをくいっと指して尋ねてくる。
「ああ。」
 答えると栄口はさっさとドアを開ける。
「レン。別にレンが悪いわけじゃないから、入っておいで。」
 ちょいちょい、と手招き付きで栄口は話しかけている。どこにいるんだ?と見ると…

 窓に手をかけ、逃げる寸前のレンの姿。がっつり泣き顔になっている。

 わすれちゃいけない。ここは2階だ。

「なに?レン?」
 阿部との舌戦を切り上げ、どたばたと田島がやってくる。
「おーい、レン。出かけてもいいけど、朝飯食ってからにしろなー!」
 その言葉に花井も栄口もずるっとスベる。そういう問題なのか?
「う うん。分かった。」
 分かっていいの?と栄口の小さな叫び声に、心の中で深く、ふかーく頷く。
 とりあえず、レンの手をひいて、田島が一緒に食堂の中へと入ってくる。
 オレは、それを入り口で見て…
「花井、ドア閉めるからどいて。」
 栄口に言われるまで、ぼんやり見ていた。
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はい、始まりました。急転直下で話は転がり込んでいきます よー。