「ゆうちゃん…けが……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。イテテテテテ…」
「なおすよ。」
「え、レン、なおせるの?」
「たぶん…こうすれば……………」


 懐かしい歌が流れる。何の歌か分からない。でも、となりの、いつもこっそりあそびにきてくれるともだちのあしのけがは、………によってどんどんなおっていく。

「レン!すげぇなおまえ!」
「そ、そうなの?」
「すっげぇ!もうピンピンしてる!」

 嬉しかった。痛い顔を見るのは嫌だったから。




 半分寝た状態で食事をとり、目が覚めたのが夕方だった。人の気配で目が覚めた。
 そっと目蓋を押し上げて見ると田島が立っている。
 夕方から夜にかけての時間。田島の表情は全く見えない。
「ごめんな。レン。」

 ?

「あの時、オレがケガしてなかったら、お前、あんな方法思いつかなかっただろうな。…ごめん。」

 方法?

「お前が行方不明になったの、その夜のことだったから…」

 その夜。思い出せない。けど。

 田島くんが悪いわけじゃ、ない。

 それだけははっきりと分かる。だって、あの時は………


あの時は?


「…………!」

 がばっと起きあがったレンに、田島はぎょっとした。レンはなにやら呟いている。
「お父さん、お母さん、守れなかった………あの時、まだ思いつかなかったから。」
「レン?」
 田島が訝しげにレンを見やる。
「思いつかなきゃ……ゆうちゃんをなおしたときみたいに…」
「レン?おい?」
 田島が肩を掴む。まだ少し熱がある。
「ゆうちゃん、なおすとき、かんがえた…」
「レン!おい!レン!」
 田島が肩を揺さぶる。レンはうつろな目で虚空を見上げている。
「ああ…そう だ。ようちえんでおしえてもらって…思ったんだ。アレがとまれば、なおるかなって………」
「レン!」
 足音が近づく。バタンと開けたのは阿部と栄口。
「どうした?」
 ゆっくりと近づいてくる。レンの視線が異常なのは二人にも分かった。
「レン?」
 栄口が声を出す。
「みどりいろの………」
 ゆっくりと目蓋が閉じられる。微笑みながら。
「レン…?おい。」
 阿部も流石に慌てる。
「………ちょうちょ。」
 その後は寝息に変わる。
 三人とも、無言でレンを見た。彼は何を思いだしたのだろうか。
「おーい。」
 廊下から声。一斉に振り向くとがっつりとビビる水谷。
「しのーかが来たぞ。通常除虫作業、明日だって。」
「何?」
 慌てて阿部が部屋を出る。続いて栄口も出ようとしたが…
「田島。」
「小さい時あいつ、手をあてて、歌い出したんだ。泣きながら。」
 ひゅっ、と栄口が息を飲む。
「そしたら……ケガが……」
「田島。会議だ。行く…」
「レンを。」
 栄口の声を遮ったのは、いつになく真剣で、泣きそうな田島の声。
「レンをこんなしちまったのは、オレなのか…な………」
「…田島。」 
 夕方は夜になり、街灯のほのかな明かりでしかもう分からない。
「そう思うなら、レンのそばにいてやれば?会議はあとで伝えておくよ。その代わり、あとできっちりと説明すること。いいね?」
 うん、と田島は頷く。それを見て、栄口は部屋を出た。
 レンが熱を出してもう3日。色々ストレスがたまっていたのだろうと今更ながらに思う。何らかの拍子で何か思い出したのかもしれない。
「みどりいろの、ちょうちょ…ねぇ。」
 田島に後で問いつめないとね。と思いながら、栄口は会議場になる食堂へと向かった。

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ようやくレンの本当の姿が見えてきました。やれやれ。