| 酷い悪寒で目が覚める。まぶたを開けると天井がぐるぐると回る。 (おき な きゃ。) 気力だけで起きあがり、ベッドから立ち上がろうとした途端、力を失った。 「………!」 派手な音をたてて、転がる自分。全くもって、情けない。いつもながら惨めだと思う。 起きあがろうと努力しても、体は全く受け付けてくれない。むしろ寒くてさむくてガタガタと震えてくる。 ややあって、ドタドタと大きな足音をたてて、誰かがやってくる。ノックもそこそこにドアが開けられる。 「どした?レン。」 田島が不思議そうな顔をして自分を見ている。てくてくと歩いてしゃがみ込み「寝相悪くて落ちたか?」と何だか楽しそうにきいてくる。 「た……く…」 田島くん、おはよう、と言おうとして、喉がからからでひゅうひゅうとした吐息しか出ないことに気づく。 「レン?」 不思議そうな顔をさらに不思議そうにして、田島が額に手をあて…すぐに顔をしかめる。 「すげぇ熱だ。起きあがったらダメだぞ!」 タタタタッとすぐに走り去る。すぐに他の足音が複数耳に入る。 「レン。」 栄口と花井が入り、遅れて田島も入ってくる。 「花井、足のほう、オレは肩持つから。田島、体温計持ってて。」 「おぅ。」 「おっけー。」 せーの、というかけ声とともに、ふわっと体が浮く。浮いて、さっきまでいた場所に戻される。ほんの少しの時間なのに熱が逃げたベッドは気持ちがいい。 「体温計サンキュ。…田島、客間からもう一枚毛布持ってきて。花井、冷蔵庫から冷えピタ持ってきて。」 「あいよっ!」「分かった。」とドタタタと足音。 額に手をあてた栄口が良く分からない顔をして「すごい熱だよ、レン。寝てないとダメ。」と言う。 すぐに脇の下に体温計をあてられる。その間に栄口は部屋の室温調整やらなにやらてきぱきと動く。 「栄口!冷えピタ持ってきたぞ。…レン、どうだ?」 心配そうな顔をして、花井がのぞき込んでくる。 「だいじょうぶ。」 出した声はひゅうひゅうという吐息にしかならない。その姿に花井が困った顔をする。ピピピ、という電子音。驚いたけど、頭も体もその驚きにいつもの反応が出せない。 「39度6分…お医者さんに見てもらったほうが…」 お医者さん……白衣?白衣を着た人? 「や……だ………」 声が出た。涙もぽろぽろ出てくる。 「はく い きた ひと…こわ い………」 研究所では白衣を着た者か、シュウかハタケか、マスターしかいなかった。 でもシュウちゃんだけ、こわくなかった。 いつもなにやら色々つけられて、色々な所を切られたり血を抜かれたり… 「こわい よ…」 えぐっえぐえぐと嗚咽まで出てきた。体が震える。怖くてこわくて仕方がない。 「レン!」 ばさっと自分の上に暖かい重さが乗ってきた。ぎゅっと抱きしめられて、背中をぽんぽんと叩かれる。 「レン…落ち着け。」 田島の声、と分かるまで、ガタガタと震えていた。 「レン…医者に行かなくていーぞ?オレがぜってー連れてかないから安心しろ。」 その言葉にゆっくりと震えが収まってくる。 「今、栄口がお粥さんをこさえてるから、それ少しでもいいから食べて、ゲネツザイ飲んで、ポカリ飲んでぐっすり寝てろ。 あー、パジャマ汗でびっしょりだな。よし、オレが探して…」 「いや、探すのはお前無理。」 新しい声。泉だ。 「探すなら、お前に貸したゲーム、さっさと探して返せ。」 ぶつぶつ言いつつ、丁寧に衣類が入った引き出しを開け、すぐに持ってくる。 「下着は…自分の意志で。」 確かに下着も汗でぐっしょりだったが、全然力が入らない体だから… ぷるぷると首を横に振った。 「そだよなー。オトコノコカンにカカワルってヤツだよな?」 「言うなら『男の沽券』だバカ。」 ぱこん、と頭をはたかれる音。いってぇ!とさして痛そうにしていない田島。 「まぁ、栄口が今粥作っている間に着替えたほうがいいな。」 泉の言葉に田島も「だろー?」と頷いて、パジャマを枕元に置く。 「水谷だったら『あー、女の子だったら燃える〜』とか言いそうだな。」 「あー言いそう言いそう。」 てきぱきと二人してレンのパジャマをはぎ取り、さっさと新しいパジャマに替える。替え終わった時、入り口で「両手ふさがってるから開けて〜」と栄口の声。泉が田島にパジャマを手渡し、さっとドアを開ける。 「お待たせ。ああ、パジャマ替えたんだ。良かったね。これ食べて、薬飲んだら眠ったほうがいいよ。」 よいしょ、とレンの背中と腰に枕が置かれる。 「その熱じゃ手もうまく動かないだろ?ほら、あーんと口開けて。」 出来る限りあーんと口を開けると、塩味の少しきいたとろんとしたご飯が入ってくる。むむむ、ごっくん。あーん。 「食欲あるならすぐに熱冷めるな!」 「そうだな。お前風邪ひいても食欲だけはさがらねーもんな。」 「ったりまえだ!」 泉と田島がきゃいきゃい話している間に粥は半分近くレンの胃に入っていく。 「おーい、栄口。とりあえず解熱剤。」 コンコン、とノックの後、巣山と沖と西広が顔を出す。西広は手にポカリのペットボトルを。沖は水の入ったコップを持っている。続けて入ってきた巣山は錠剤を横に振っている。 「サンキュ。…レン、もう無理かな?」 おづおづと頷く。 「えっと…一回2錠。」 ちゃっちゃっと巣山が出してくる。沖は栄口にコップを手渡す。 「レン、アレルギーとかないよね。」 こくん、と頷く。その言葉に「これ、市販薬の糖衣錠なんだ。」と栄口は続ける。 「はい、口あけてー、はい、薬はいったー、水飲んでー。」 言われた通りにする。今まで怖かった薬がすんなりと入っていく。熱とかで薬を飲んだことがない───自室で眠らせられていたし。 「ポカリ飲んで、汗のぶんの補給しとこ。」 はい、口あけてー、のんでー、はい、おしまい。もっと飲む?ん?いい?なら横になって。 さっと枕が移動して、ゆっくりとレンの後頭部に収まる。ぱふん、と毛布が2枚かけられる。 「あ あり が とう。」 急にまぶたが重くなってくる。 「全然構わないよ。」「早くよくなれよ。」「また見に来るな。」「熱早く下がるといいな。」と言いながら、部屋から人が出て行く。 殆ど意識がなくなる寸前に、栄口が立ち上がり、部屋を出て行く。 「ごめんね。」と言ったかどうか。 分からないまま、レンは眠りに入った。 |
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栄口の漂白剤はレンです(笑)