「………?」
 首をかしげるね。確かに。阿部でも。
 血だらけのスプラッタな姿に不可思議な緑色の光。オレだって分からないもの。
 だけど、阿部はやはり阿部。冷静だった。
「栄口。花井がすぐ来る。レンに結界を張ったら、速攻で風呂場。それまでに「中和剤」をぶちこんどけ。全種類。」
「あいよ!」
 と言ってる間にドアを開ける音。
「阿部!お前人の頭殴って早歩きになるこた…って、どうした?レン?」
 花井だ!阿部に視線で合図。
「花井、レンに結界。」
「あ、ああ。」
 荷物をどさどさっと降ろして気合いいっぱつ。ブン、と音がして、レンとその間に結界が張られる。
 オレはその間に風呂場へ走り、お湯を溜めながら「中和剤」をぼんぼんと投げ込む。
 虫に関しては日進月歩の研究が進められている。中和剤もその一つ。虫に食われる前の酸や毒なら、これでどうにかなる。
 全部入れてかき回したところで再び戻る。花井が結界に包まれたままのレンを持ち上げようとしている。慌てて空気を固定。レンをやわらかく空中に浮かす。
「栄口!なんだ?これ。」
 花井がレンの緑色の光を指さす。
「自分で治癒してるって言ってたけ……ど……………」
「自分で治癒?」
「はぁ。」
 言ってみれば、言われてみればおかしい。治癒能力のある人間は殆ど存在しないのだ。片鱗でも見つかったら、速効で除虫屋を管轄している機関に奪われる。

 数ある除虫屋でも、「癒し手」は全く見かけない。

「レン、ちょっと痛むだろうけど、毒とか中和するよ?大丈夫?」
「も…た……いない… よ」

「もったいないもクソもあるか!」

 行け!栄口!花井!という命令口調に今回は逆らわなかった。オレは空気を使い、レンを浴室まで運ぶ。お湯は……結構たまってる。良かった。
「結界を解く。」
 頷くと同時にレンを覆っていた結界が消える。オレはゆっくりとぼろぼろの服のままのレンをお湯に浸す。

 ジュゥ……

 うわぁ…相変わらずイヤーな音。痛いらしいけど…レンは?
「おい!レン!」
 服の合間から流れてるのは…血。そこで改めて見て分かる。右足はかなりえぐられているようだ。良く歩いたり立ち上がったり出来たと思うくらいの。緑色の光は激しく光っている。
「だ…いじょ ぶ です。」
 それでも気丈な返事をするレン。

「何が大丈夫だ!」

 容赦ない阿部の声。その声に全員びくっとなる。
「お前、その能力がなかったらとっくに死んでるんだぞ?」
 キレた阿部は怒鳴り散らす。
「う………」
「今、携帯でモモカンに聞いた。『癒し手』は本人が傷ついた場合、壮絶な痛みを持って治癒行動にあたるってな。もうすぐモモカンもシガポもここに着く。それまで中和剤の風呂で少しでも痛みをとっておけ!」
 言い放つなり、どすどすと風呂場から去る阿部。
「あ、阿部。」
 花井が慌てて阿部の後を追う。「言い過ぎだろ!それは!」「うるせぇ!」と言葉の応酬が続いて、消えていく。
「レン……ごめん。」
 オレは、謝ることしかできなかった。中和剤はレンの体内に入った毒素を痛みと共に排出しているはずだ。
「だ…じょ……ぶ。なれ…… から。」
 かふっとレンが咳き込む。口から出てくる…血。内蔵も損傷しているんだ。それを治しているんだね。痛いよね。痛いって言ってくれればいいのに。
「ごめん……ごめん。レン。」
 オレは、モモカンとシガポが来るまで、ずっと謝っていた。

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白い栄口