「こ…こ れ、さかえ ぐち くんが…?」
「うん。そう。れんげで食べるんだよ?」

 レンと栄口の前には、チャーハンと中華風スープが置いてある。時間は12時をちょっと超えた時間。食堂のテレビは妙に恰幅のいい男が「おじょーさーん」と話しかけている。どうみても「おじょーさーん」と呼ばれるような年齢ではないのだが…。

「み○さんね、
あれはあれでいいんだよ?
 レンがテレビをしげしげと見ている所に、水出し茉理花茶を出す。渋みもえぐみもない、ジャスミンの香りと味が口の中の油分を追い出す。この時期あたりからの栄口の楽しみだ。
「あいつにそういう風に言われてもらって、「こんな年代なのに〜」と喜んでいる女性もいるってことだよ。」
「ふう…ん ?」
 いまいち分かっていないらしい。とりあえず栄口はレンの真っ正面に座ると、「いただきます。」と手を合わせた。
「い、いただき ます。」
 真似て、レンも手を合わせる。
 ぱくぱく、とレンゲを操って、レンは良く食べる。子供っぽい仕草に栄口は心の中でにこにこと笑いながらも自分のチャーハンを食べる。
 しばらく無言の時間が続く。BGMは○のさんのオーバーアクションな声だけだ。
「美味しい?レン?」
 栄口の声に、レンはどしよか、どしよか、と考えた後「おいしい よ。」とおづおづと答えてきた。
「おいしい?…チャーハンって言うんだよ。夜食でたまに巣山が作るから、今度少しもらってみたら?」
「うぉっ…」
 いいのかな?いいのかな?と顔に出ている。…というか、仕草で出ている。普通の彼にはポーカーとかの賭け事は無理だ。絶対に。
「今度巣山が腹減ったと言ってる時に、オレが言ってやるよ。…あいつの卵チャーハンはすごくうまいんだよ?」
「たまご…?うまい…おいし い。」
 どうやら想像の範疇を超えてしまったらしい。食生活はゆっくりと教えていくしかない。
 見ると、自分の皿もそうだが、レンの皿もなくなっている。
「ごちそうさまでした。」
 また両手をあわせて栄口は言う。「ニシウラ」の掟は「挨拶はしっかりと」がしっかりと盛り込んである。
「ご…ちそうさまでし た。」
 レンも真似をして、両手をあわせた。

「午後は…そうだなぁ。庭でも散歩してみる?」
「さん ぽ?」
 …何故こんなにレンが驚くのかが分からない。分からないけど、どきどきとしている所は分かる。
「うん。今日はいい天気だし。少し庭いじりでもしてみようか?」
「庭いじ り…?ユンボ、と か?地面を?」
「違う違う。色々なものを植えてるから、ちょっとその様子を見てみようっていう事。」
 レンなら軽々とユンボとかよーわからんモノを使って何をしだすか分からない。そう、まだ彼のことを殆ど知らないのだ。
「じゃあ、洗い物するから、レンはテレビ見てていいよ?」
「え……」
 途端に脅えた顔。顔色がサーッと青くなる。
「うん。今度はやってもらうと思うから。」
 すかさず栄口は答える。彼には少し何か「やっている時には何かをしなければならない」という強迫観念じみたものがあるらしい。
「…う ん。」
 言って、おづおづとテレビが良く見えるソファーへと移った。
 栄口はその姿にふぅ、と小さく息をつくと、席を立った。

 主夫の仕事に子供の教育って入るのかなぁ、とかちょっぴし思いながら。


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食堂にもテレビはあります。夕食時はケンカになるのでテレビはつけません。2度ほど逆鱗に触れた者がいたので 笑