田島と泉が前から調査しているのは、通称「会社」と呼ばれるところだった。無論、昼休みを終えて、ちょっとくつろいだ後の行動である。
 ハッキングとクラッキングを繰り返し、何もなくなったところで重要な情報などを根こそぎに持っていくという荒技かつ大胆な方法であり、ファ
ンもいるが、倦厭する者のほうが多い。それを考えると、No Nameのほうが、相手が気づくまでわからない方法をとるのだからすごいっちゃあ凄い。
この「会社」は複数人で運営しているところで、田島たちが突き止めたと思っているサーバは、彼らの奪った情報などを一時的に(もしかしたらこれをもとに強請っているのかもしれない)プールしているサーバの一つであると踏んでいる。前に一度、ハッキングを試したことがあったが、ひどい返り討ちにあって、3日間入院するというへまをやった。その時にギリギリ持って帰ったデータが、目の前に見えるサーバのものであることがわかったのが昨日。決行日はさっさということで、今日に決まった。田島の服や泉の服は、それ自体がマーカーのようになっていて、二人がどのようなところにいるか、また、どのような状態になっているかが一目でわかるようになっている。
『田島くん、泉くん、無茶、無謀はやってもいいけど無理はやらないように。』
 即席インカムで響くのはモモカンの声。おそらく周囲は部長どもで固められているだろう。
「はい。りょーかい。」
「了解しました。」
 田島、泉がそれぞれ答えると、目の前の大きな建物の姿をしたサーバからまだ離れた場所に、田島が人差し指を入れる。
 音もなく入った人差し指…田島の顔がちょっと困った顔になる。
「一番外のファイアーウォールでも堅いです。」
『でもできるんでしょ?』
「おお!」
 田島の背中にひっつくように泉が入り、そのまま田島はファイアーウォールを抜ける。何百種類のパターンが考えられるため、そのパターンを入れたスコープで確認すると、また5メートルほど前にファイアーウォールが待っている。このスコープは水谷のいつか作ったガラス状のものを田島と泉風にアレンジしたものだ。問題なく威力を発揮している。
「結構きつい…ぜ?」
「今度はオレがやるよ。」
 と、泉が指を伸ばし…ふぅふぅ言いながらファイアーウォールを抜ける。ファイアーウォールのつくりに、こちらの演算が間に合わないのだ。
「次……何メートルさ…………」
 反応がない田島に怪訝そうに、覗き込む。
「田島?おーい…」「見ろよ。」
 田島が見ているほうに視線をあわす。今まで自分らがキツキツで入ってきたファイアーウォールを、内側からゆっくりと人が歩いているのだ。そしてその人物は一度見たら忘れない…
「No Name………」
 0と1をまとった姿。忘れもしない。
 サーバの中から出てきたと間違いないだろう。二人はこれまでになく、緊張していた。




 0と1でできているその人型は、二人の前に立ちふさがる。ゆっくりとだが、田島と泉は完全にこちらの行動を無効化されたことを悟っていた。

【ここにきてはいけない】

目の前に、英語で告げられた。

 田島と泉の目の領域、及び、それを見ていた者たちがひゅっと息を飲む。水谷が「No Nameだ!うっそん!」と驚いていたので間違いはないだろう。 そういうミーハーなところは信用に値するという情けない阿部の発言だった。

『なぜ?あなたは行く手を阻むのですか?』

 西広からデータが落ちてくる。少しでも情報がほしいのだ。西広も事務員ながら興味があるのだろう。花井のパソコン経由でその言葉は泉の前に展開された。

【そこまで壁が割れたなら教える…156人】
『中で働いている人?』
 田島がたずねる。
【違う。このファイアーウォール上で廃人にされて死んだ者の数だ。】
『じゃあなんであんたは動けるんだ?』
 泉と田島は同時に攻撃態勢をとるが、すぐに理由はわかった。
 体が、0と1に分かれていくのだ。
【確証がとれたら田島くんと泉くんに渡すよ…】
 そういって、No Nameは消えた。
 その画面を見ていた者は、ぼんやりと立ち尽くすしかやることはなかった。

「なんでNo Nameは田島と泉の事を知ってるんだ?」
「知るか!しかもあの場所はマップから…やっぱりアジトなんだよ!」
 水谷の言葉にゴーグルを外した泉が盛大に怒鳴る。第二の阿部と言われるには近いに違いない、と水谷はぶるりと体を震わせて、阿部が二匹だなんてだなんて…とぐるぐる思考に入っていく。
「やっぱり侵入経路、退却経路、一切不明…」
パソコンをいじっていた田島がちくしょぉと呻きながら泉を見る。泉も頷く。たとえその時の味方だと言ったって、ハッキングはやはり罪である。
最強と呼ばれていても、早くとっ捕まえて警察に捕まる前に、自分の入っている会社にトンズラこきゃあいいんだ。
 自分たちの通ってきた道を一瞬だけ振り返り、泉と田島は今度こそ正体を暴いてやる!と鼻息荒く今までのデータの解析に入る。それを生温いまなざしで見、集まっていたメンバーたちもめいめい散っていったのだった…。




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