研究生活にも少し慣れだし、朝食・昼食・晩御飯といつも田島と泉がひっついて食べているので、周囲の者たちは「あいつら家族?兄弟?」「そうしたら三橋は『ごほっごほっ、いつもすまないねぇ孝介…以下略』にしなけりゃならないじゃん。」とか言って…最後に「手料理食いたい…」とぽそりと呟くのがここのフロアにいる者全員の心の声だった。
時間になると何やらいい香りが胃袋を刺激して、もういてもたってもいられなくなったのだ。モモカンに直訴すると「その時間までに終わらすことができたら、三橋くんに何か作るようにお願いしてあげるわ。」というにこやかな笑み。会社内での仕事が非常に早くなり、その分事務がてんやわんやの大騒ぎになり、「他の課か新人を雇ってください!」と沖が泣きついたほどであった。
じゃあこうしましょう。と、週刊МVPを選出して、その者が夕食にありつけるという事にした。また、仕事が珍しく早く終わった者は三橋の夕食の手伝いをすることで、夕食の権利をゲットする事が出来る。
これには三橋も喜んで、簡単な作業を手伝ってもらって、少し嬉しそうであった。
だが、全員がぜんいん、この平和というか美味しい思いはできないだろうと予測していた。
三橋が次の定住地を決めてしまったら、もう夕食は田島と泉が独占状態だろう。ここんとこ阿部が三橋に一生懸命何か頼んでいるらしい。が、殺気?を感じると、知っている者の席の近くまで徒歩の速さで進み、慣れた知っている者は、椅子のスペースを開けて、三橋を一般社員のようにみせるようにしたのだ。それだけ阿部の懸命さは本気であった。本気と書いてマジと読むのであった。
なんでそんなに追いかけられるのか?と質問したところ、「オレの課に入りやがれ!」と怒鳴ってくる。との事だった。ご愁傷さま。
そして、そんな中、田島と泉と三人でインターネットで部屋探しをしていると、にょっと気配を消していたモモカンが背後に立っていた。三人とも完全にフリーズした。モモカンはにこやかに笑いながら、三橋に提案をした。
三橋くん、ここに住んじゃいなさい。いっそ。
え ふぇっ?
仮眠室改装して、一人部屋も完備したから。あ、勿論身障者も使えるようにしてあるから。
モモカンー、オレらは?
泉くんも田島くんもいいわよー。
おおおおお!三橋!一緒に住めるぞ!
う うん!
よかったな!
う ん!
そんなこんなで、大幅に改修された給湯室とは名ばかりのシステムキッチンもどきに今朝も火を入れる。今日はベーコンエッグにコールスローサラダ、そしてパンだ。
じゅうじゅう騒ぎだすフライパンに三橋はちょっと考え事をしながら、コーヒーメーカーをセットする。
自分のこれから行う事は特A級の極秘事項なのだろう。どのみち車椅子でないと外はでられない。自分ででられる事は知っているのか知らないのか。
バッテリーを入れた車椅子も考えなかったことはないが、それは最後の砦として死守した。そこまで墜ちたくない。それが三橋の考えである。
半熟に焼けたベーコンエッグを皿にあける。もう一度同じ作業をする為にフライパンをコンロにかける。
野菜などの食料は、メモを渡しておけば田島と泉が帰りがけに寄り道して買ってくる。ベーコンをフライパンに敷き、またもじゅうじゅうと言わせ出す。その間に3つの弁当箱にご飯を詰めていく。おかずは今日は昨日の残りのきんぴらと、お煮染めと朝ささっと作った簡単なものである。
「で きた。」
「あー、また寝過ごした。すまん、三橋。田島が起きなかった。」
どたどたと入り込んでくるのは泉と半分服がまだ着れてない田島。
「ご ごはん いま できたと こ。」
あと、お弁当。というと、おおおおお。と二人は声をあげる。
「待ち合わせして、どっかで食べようぜ!」
「おお、田島にしてはいい考え!」
「う うん!」
焼き上がったパンにバターを付けて、ばりばりと食べる。三人で6枚切り1パックでは足りないところが周囲に欠食児童と呼ばれる所以である。
「じゃあ、12時10分に1階玄関に!」
田島がフォークをひょいとあげて合図をする。
二人は頷き、家が焼ける前のように、空になった皿を片づけだしたのであった。