めんそれんたむ

 森の中に一軒家がある。ひっそりと、というのは実は語弊がある。
 日に何人か、その家を訪れる。そして喜びながら帰って行く。

 家の中にいるのは、三橋廉と世話焼きの大好きな仲間たち。

 大きな都に行けば売っている、『メンソレンタム』。予約をしておかないと絶対に買えない。高くはないのだが、入荷数が少ないのだ。そしてどんな傷にも怪我にも病気にだってその軟膏は効く。高貴な者たちが独占しないように、きちんと店を指定してまで売っている。そこまで権限を持った軟膏。

 何にでも効くその魔法のような軟膏を作っているのが三橋廉その人だった。

 今日も彼はぴるぴると指を震わせながら、仕事をしている。ナース服で。可愛い可愛いナースさんで。

「い いた そう。」
 じわりとすでに涙が浮いている。今日の色はピンク色。かなり勘違いをされるが三橋は男である。が、ここまでナース服が似合う者もそういない。
 目の前のおじさんの腰は見事なまでの「ぎっくり腰」。魔女の一撃というヤツだ。
 三橋はぴるぴる震える指で、自分が作った「つくりたて」の「メンソレンタム」をすくって、腰と様々な所につけていく。そして最後にこう言うのだ。

「いたいの いたい の とんで いけー !」

 今まで痛い痛いと言っていたおじいさんは、恐る恐ると起きあがり、そして前より元気になってしまった身体に驚いている。
 三橋にも実際不思議な力があって、軟膏塗って「いたいのいたいのとんでいけー」とすればどんな怪我も病気もたちどころに治るのだ。これを知っているのはごくわずかな村人のみ。これには箝口令がしっかりと敷かれている。今日来たおじいさんも村の鍛冶屋さんである。あとはやっぱり高貴な人たち。ただし本人が来ないことには絶対に三橋は動かない。来ないのであれば村を潰すと言われたが、その時は「それならこの薬を二度と作らない。作り方も教えない。」という無茶な発言で押しのけたのだ。なかなか剛毅な所もある。

「ありがとうございます。ほんのお礼です。」
 三橋は金品を一切受け取らない。大きな街で売っているのは「どうしても」と頼まれ、家を改築してもらうのを条件として一定量を供給することにしたのだ。
 今日も貰ったモノは、ここら辺では手に入らない果物。三橋の目がキラキラと光る。
「あ ありがとう ござい ま す!」
 ぺこりとおじぎをするナースさん。おじいさんはいやいやこちらこそと平身低頭。
 しばらくぺこぺことしあっていると、大体の時間を見計らって部屋の奥からやってくる。
「三橋ー。薪割り終わったぞ。」
 そこではた、と止まり、三橋は最後の「ありがとう ござい ま した。」をする。ナースキャップがすこしずれたのはご愛敬。
「今日は果物?見た事ねぇヤツだな。」
「きっと おいしい よ。」
 言ってウヒッと笑う。
 メンソレンタムの表に彫ってある姿は、この彫刻をしたがために超有名になった水谷が丹誠込めて彫ったものである。全くもって遜色なく、そして如実にその姿を写している。

 ナースさん。

 浜田専用被服室で作られてくるナース服はかれこれ20着以上になった。たまにレース付きとかゴスロリ風とか作っては泉に蹴られている。
「三橋、帽子ずれてる。」
 うしうし、と田島が三橋のナースキャップをなおす。
「今日の予約はもう終わりだから大丈夫だぞー。」
 田島の背後から泉が出てくる。
「お おわり。」
「そ、終わり。」
 そこで三橋はふぅぅぅぅ、と息をつく。人と接するのは未だに慣れない。
 三橋はただ村の人たちを思って、努力して努力して努力して、軟膏を作った。村の人たちには大好評で、いつしか近くの村にも伝わった。あれやこれやの間にあっというまに広がっていった。
「阿部が明日、少し取りに来るって。」
 泉の言葉にうん。と頷くと三橋は薬を作る所へとナース服のまま歩いていく。キワキワラインさが絶妙なのは浜田の腕のみせどころだ。
「も う、ほとんど できて るん だ。」
 大きな大きな鍋に、白く柔らかい物体。これが水谷が版木を彫った容器に移されて様々な所へと行く。
「あと は、保存料………」
 遠くへ出荷する場合、どうしても保存料を入れないと日持ちがしない。薬だって生きているのだ。その生きている時間を延ばす保存料を入れるのを、三橋は極力嫌っている。
「いつもみたいに少しでいいんじゃねぇか?」
 田島がその保存料の容器をセットしながら言う。
「阿部くん が、もっと長持ち する のがいいっ て。」
「無理と言ってやれ。いや、オレが言ってやる。」
 泉が言うと田島も頷く。三橋を守るのなら、彼らは何でもやる。
 ナースのスカートの裾をぎゅっと握って、うん。と三橋は頷く。
「保存料 は 少なめ で。」
 田島が用意しておいた器具を使い、三橋は脇目もふらず調合を始める。
 何種類の薬草や実、花、樹木の皮、その他様々なものを絶妙な配分で作るのであるが、その調合は三橋しか分からない。ナース服が似合わない作業と言ってしまえばそれまでである。
「でき た。」
 保存料の調合が終わったらしい。それを大きな鍋に持っていく。
「火は?」
「弱く いれて くださ い。」

 早速薪がくべられ、火がたかれる。その間三橋は大きな大きなしゃもじでぐるぐると軟膏をかき回している。鍋の下は水が張ってあって、湯煎をしていることになるのだが、かき回しておかないとすぐに分離してしまう。指で温度を測って、丁度いい温度になった所で火を止め、保存料をゆっくりと流し込み、またぐるぐるとかき回す。しばらくかき回した後、しゃもじを中から取りだし、息をつく。
「でき た。」
「おめでとう。お疲れ。三橋。」
「お疲れー、三橋。」
 わーわーと言い合っていると、ドアが開いてきて、この家の最後の者が出てくる。
「おー、三橋できたんだ。」
「う ん。ハマちゃん。」
「風呂沸いているから入ってこい。その後晩ご飯だぞ。」
 晩ご飯の言葉に目がキラッキラと輝く。あんなに食べて、三橋の服のための採寸をしても全く変わらない。一体どこに入っているのか?と苦笑しながら浜田の談。


 明日阿部に会う時には、鍋ごと渡せば、阿部をはじめとした村人総出で薬品を小さな容器に詰めていく。三橋に渡すための献上品とか売っている店やら、実際にメンソレンタムを売っている店もあるのでその面倒な作業は嬉々として受け入れられている。栄口はその中でも一番詰めていく作業が上手いというので有名だ。沖や西広や巣山は村に満遍なく配られ、その残りが街に流れるように調整している。その残りを阿部が街の者と交渉して金にして村に返す。
 三橋のおかげでここまで村が発展したのに、三橋は滅多な事では村へ顔を出そうとしない。昔薬臭いといじめられたのと、この奥まった場所が自分にはあっているのだと思っているのだ。村人たちは感謝している。いじめていた者たちはもうすでにいない。だけど三橋はここには来ない。でも、いつか三橋が村へ戻ってもいいように場所とかは一等地を確保してある。だが三橋はそこへは行かず、たまたま森で怪我をしていた旅の者たちを仲間にして、楽しく働いている。
「オレも混ざりたいなー。」とは栄口の談。

「なぁ、三橋。今度のナース服なんだけど…白でキメてみた。」
「ってシルクかよ!」
 風呂上がりの三橋に待っているのはほかほかのご飯。それと仲間。
「この間の献上品の中にあったから、シルクのナース服って萌えないか?」
「それ、浜田だけだろー?」
「一度だけ。一度だけでいいから…無理ならズボンにしてパジャマに作り替えるから。」
 浜田のナース服へのこだわりは何か凄い。
「う ん。いい よ。」
 シチューをもくりと飲み込んで、三橋は頷いた。
「よっしゃ。」
「明日はシルクのナース服かぁ。また写真とられそうだな。」
 阿部に。と泉が嫌そうに顔を歪める。阿部も何かあったらこの家の仲間に入りたいと常々思っている者の一人だ。栄口とかはまだしも、阿部だと何をし出すか分からないので今のところリストの一番最後に載っている。
「あ、そうだ。さっき貰った果実、剥いてみたから後で食べような。」

 わぁ♪と声があがる。

 こうして三橋たちの毎日は楽しく過ぎていくのであった。



というわけで、ナースなミハです。シルクはスケスケだといい。きなまろさんのみお持ち帰りオッケーの方向で。