夢
初夢は、志望校へ合格することだった。
初夢は見事、大当たり。志望校へと進むことができた。
そこまでは良かった…
家へ「合格したから」と携帯で連絡を入れ、そのままの足で学校へ、大きく、広くなった野球部部室へと行くと、3年の9人が全員雁首揃えて待っていた。
「阿部、大学どうだった?」
水谷が何故か必至な顔をして訊ねてくる。
「合格したぞ。」
そうしたらわっと歓声があがった。
田島・栄口・巣山・泉、そして水谷が手をたたき合って喜んでいる。
「やったなー、水谷。」
「うん。オレ、シアワセ。」
心なしか涙ぐんでいる…?
「よかった ね。」
三橋もおずおずと言う。少し複雑そうに見えるのは気のせいか?
「な、何が一体どうしたってんだ?」
すでに2年にキャプテンを譲り渡している元キャプの花井に問いかける。
「ああ…」
花井は言いづらそうだった。だが、持ち前のニラみをきかせるとあっさりと口を割った。
「三橋、三星の大学に行くって話、聞いただろ?」
「ああ。」
頷く。群馬で一人暮らしをして、自活して…という面倒より、近所の国立を狙ったのだ。その為、三橋をはじめナインには殆ど会っていなかったのだ。猛勉強で。
花井は少しのびはじめた髪の毛をかしかしとかきながら言おうか言うまいかしているところで田島が横から話に割って入ってきた。
「あのなー、三橋、大学入学したら、そのまま理事の一人として入るんだ。」
は?
「んで、三星に戻ってくるってことで、無条件で5人まで無試験で入学させてもいいっておじいちゃんに言われたんだって。」
栄口が興奮したように言う。
「今まで阿部だけ決まってなかったろ?もしも大学落ちてたらジャンケンか何かで決めるかどうしようかって言ってたんだ。良かったな、三橋。」
「う…うん。」
しっかりと頷く三橋。
はぁ?
志望校に受かった喜びの気分はみるみるうちに萎えていく。だが、家計の関係上私学は受けられなかったのだ…。
「学費も少し免除してくれるらしいし。」
「またあのフォークとやれるし。」
「無試験〜。ああ、なんていい響き〜♪」
「みんなで寮ぐらし。生活全く変わらないな。」
「家から出られる〜!」
阿部、真っ白。
「み…みみ三橋。」
珍しく阿部がどもった。
「な…に?」
きょとん、と首を傾げて阿部を見る三橋。この3年で投手として凄まじい成長をとげた彼はプロからも引く手あまただっただろうに…それを…
「ろ、6人にできないのか?」
「ダメだって。」
ばっつぁり。
田島が切り捨てた。
「だから水谷がジャンケン弱いんだーっ」て騒いでたんだよ。」
栄口がやれやれと水谷を見る。
「ま、阿部も受かった。おめでとう。」
口々から「おめでとう。」という言葉を聞いた。
だが、阿部の頭は真っ白だった………
「ってー夢、見たんだ。」
3年生になり、すっかり三橋を追い越した田島が昼飯のパンをかぶりつきながら言う。季節は1月から2月に移ろうとしている時。
「…なんか、それ、すっげーリアリティねぇか?」
泉も1年から比べ、体格が良くなっている。にきび跡は変わっていないが。
「ありありっ…て感じなんだけど……って、どした?三橋。」
「田島くん…すごい。」
『はぁ?』
泉と田島は声を揃えた。
「お…オレ、三星の大学入って、理事やるって野球もしていいって……それで…5人まで連れてきていいって…。」
3人の間に沈黙が落ちる。
こそっ、こそこそっ、こそっ
「…阿部には内緒だな。」
「うん。ナイショだ。」
専門学校に行く(田島にはプロにいくか、という選択肢もあった)か、悩んでいたところだったのだ。
「推薦で、花井と沖と西広は決まってたよな…。」
「…オレから水谷と巣山と栄口にメールいれておくよ。」
こそこそっ、こそっ、二人の間に会話がなされる。
実は今日は阿部の第一志望の大学受験の日なのだ。
「みーはしー。じゃあ、オレ、入れて、な。」
「う、うん。いい よ。」
「オレもオレも!」
「う、うん。」
はい、これでもう二人決定。
「阿部、受かるといいなー。」
外を見ると雪。
あの慎重派ならすべることはないだろう。
ニシシ、と田島は笑い、泉はこっそりとメールを送信した。
「受かると、いい ね。」
三橋は外を見ながらぽつり、と少し寂しげに言った。
「そーだなー、受かるといいな。」
「ホントホント」
田島の夢、当たってますように。
田島の夢が正夢になったか、それを知るのは───今は神、のみ。
とりあえず、大学入れる。と3人は持っている飲み物で乾杯した。
(ま、あの阿部だし。)
(阿部だし。)
とりあえず、阿部、合格しますように。
気軽な気持ちで、二人は祈った。三橋は複雑ながらも祈った。
田島の夢が正夢になったかは、とりあえず阿部の為にヒミツにしておく。
とりあえず、部室に歓声があがったのは確かだった………。
田島の夢に振り回されたか?阿部、悲劇…?(笑)