今日の勉強会は図書室で行われている。

 西広先生にひっついてうんうんうなっている田島と頭から異音を発しだしている三橋。それが野球部が野球を続けていく為のキーマンである。試験においては。
 田島も三橋もマウンドにあがれないというのは心の底から嫌なのでまだ嫌じゃない勉強をがんばっているが…


 ちらり、と花井は田島を見た。

 ちらり、と阿部は三橋を見た。


 田島はうんともすんとも言わなくなっていた。

 三橋の頭から「ぷすぷす」という音が聞こえてきた。


 マズい!


 禁断症状、である。この場合、いったん外へ出して10分ほどキャッチボールさせればいいのだが…外は雨。それも出来ない。
「田島、三橋。」
 にっこりと笑って、そんな状態を救ったのは…やはり西広先生だった。
 右手にフツーのシャープペンシルを持って、それを二人の目の前にずい、と出す。

 頭が壊れかけていた二人の頭はとりあえず脊髄反射でそれを見る。

「いいかい?これが「ノーマル」」

 くるり。

 シャープペンシルが回った。田島は何も変化せず、三橋はさらに「ぷすり」という音が加わった。
「フェイクトノーマル」

 くるり。

 今度もペンが回る。軸(後から西広に聞いた)を抜いた回し方だそうな。まだ二人は反応がない。
「シングルアクセル」

 くるっ。

 この時、田島が、お、という反応を示した。さもありなん。「ノーマル」の回し方からちょうど1.5回転した所で止まったのだ。

「ダブル」

 くるくるっ

 二回転。田島は少しずつ違う世界にいってしまった自分が戻って来つつあるようだ。

「リバース」

 くるっ

 反対方向にペンが回る。様子が不思議なので栄口が立ち上がり、座っている田島と三橋の後ろでそれを見る。

「フェイクトリバース 」

 今度も軸なしでペンは逆方向に回った。ふむ、と栄口もちょっと興味を持った。

「シングルアクセルフェイクトリバース」

 軸なしで逆方向に回ったペンはぴったりと1.5回転して止まる。

「おーい、西広ー、ガンマン系できる?」
 その時話に割ってきたのは水谷。どうやら西広の言葉で大体理解ていたのであろう。
「できるよ。」
 いつもの笑顔で西広は答える。
「ならさ、ハーモニカルドラマーやってみてよ。オレ、あれできねーんだよ。」

 なに?はーもにかるどらまーって。

 花井が阿部に視線で尋ねる。
 知るか、と阿部が答える。

 なら。と視線が合意した。

 立ち上がり、西広のペンが見える所に立つ。
「じゃあ、やるよ。」
「おお。」

 くるくるくるくるり。


「すっげぇ!」
 田島様、復活。垂直にした手の中で、上から下、下から上とペンが回転しながら動いたのだ。
「うまいなぁ、西広。実は…神?」
 水谷の問いに照れ笑いを浮かべる西広。
「…ってわけじゃあないけど。一時期学校でハマッて…。」

 へー へー ほー と声があがる。花井がぎょっとして見ると、野球部員がいつの間にか西広の机に集っていた。

「水谷、お前は?」
 沖が訊ねると「オレはノーマルのちょっとしたやつとガンマンかなー。結構ムズいんだよね。」
 うんうん、と二人は頷きあう。
 それから、一同、ペン回し談義に花が咲いた。珍しく花井も参加した。ペン回し。されどペン回し。西広先生はここでも先生になった。




 勉強がなくなって、ヒートアップしていた頭がクールダウンした時、三橋の周囲ではよく分からないことになっていた。
 隣の田島君を見てみると、「オレはゼッテー、ハーモニカルドラマーをエトクしてやる!」と言っていた。良く分からないが、各自勉強をほっぽりだして、ペン回しにせいを出しているようだ。


 つまんない、なー。


 勉強は嫌だけど、なんか疎外感。
 三橋も無意識にペンを回す。

 くるくるくるくるん
 くるくるん
 くるくるるん

 そんなことをやっていてふと視線を感じて飛び上がると、視線の主は、西広と水谷だった。
「三橋…」
「あなどれない…」
 二人は見ていたのだ。三橋のあの無骨な指が見事なまでにペンを回すのを。主にソニック系というヤツだ。ノーマルよりも一番最初に覚えるのはこちらのほうが多いかもしれない。だが、応用は難しい。

「4.3フルーエントソニック…」
「スリップトソニック…」
「スリップトシメトリカルソニック…」
「三橋はソニック系の神だな…」
 うんうん、と水谷と西広は頷いた。

「あ…あぁぅ……」

 完全に話に取り残された三橋はもう分からない、とペン回しに夢中になる。


 もう一度、今度はすごい数の視線を感じて、三橋は「ぴゃっ」と飛び上がった。野球部全員が三橋の手元を見ていたのだ。
「花井キャプテン、提案があります。」
 真面目くさった顔で、西広が手をあげる。
「なんだね?」
 こちらも真面目くさったがくさりきれずに吹き出す寸前顔の花井が答える。」
「試験終了後、最初のミーティング後に、勉強会を開きたいと思います。」

 賛成!さんせー!と言葉があがる。三橋はまたもやついていけない。もうスネスネモード寸前である。
「先生は、西広と三橋!」

 は?

 今何か水谷君、オレの名前…言ってた…?
「了解!っつーか、オレも教わりたい。」
 自分のほうを見ながら西広は笑う。
「三橋、スゲーのな!明日の休み時間、教えろ!な!」
 田島はずいっと顔を寄せてしゃべる。ツバが飛んできそうでちょっと怖い。
「おなじくー」
 はーい、と泉も参戦。それにつられ、全員がはーいはーいと返事した。
「では、次回ミーティング終了後、ペン回し教室開催〜」
 おー!と言いかけて全員「しーっ」と口に指を当てる。大声だして何度先生に叱られたか…。今回は平気だったようだ。
「三橋、センセーだからな!ヨロシクな!」
 田島がバンバンと背中を叩きながら言う。はぇ?とまだついてこれない三橋に西広がアドバイスをした。
「三橋、今ずっとペン回ししてたよね。」
 こくり、と三橋は頷く。
「その中に、オレでも出来ないペン回しがあるんだ。しかも三橋すごく上手い。」
「え…?」
 そんなの、気づきもしなかった。
「だから、教えて。」
「え…。オレなんかが教えても…」
「…安心しろ。三橋ができるんだから、全員できる。」
 阿部の言葉に何故かとどめをさされたように、でも…
「…うん…………」
 頷いて、みた。野球の仲間だから、怖く、ない。
「さー!さっそく三橋!オレに教えて〜」


『お前らは普通に勉強』


 異口同音に言った言葉で、野球部員は今度こそ図書館の先生に叱られた。

 ぶーぶー言いながら座る田島と、ウヘ、と笑う三橋。
 試験終えて、三橋に教えてもらおう。

 いつもと逆の立場に、西広はちょっと心が弾んだ。

めずらしく西広先生がメインになっております。すごいです。ペン回しって、色々種類があるんです。一方的にリンク張りますんで実際に見ると感動します。