| Pure Jam ver. 泉と田島の誕生日 |
| のんびりとネットの世界を漂って、ぼーっとしていると、ふと日付が目に入った。その日付は良く知っているような日付に酷似していて、何かを思い出させるのだ。 「あ゛ー」 近くにいたウイルスをぺちんと叩いて消滅させて考える。思い出せない。ぺちぺちぺちん。今日も三橋の研究スペース近くのウイルスやらワームは多いなぺちぺちぺっちん。 三橋が実は○○でしたーとわかって、早ンか月。三橋は相変わらずの凄さを見せて、阿部を熱烈勧誘のウザさをまとわせ、部長はぶるりと身を震わせ、他の課長は目を回し、 んでもってオレらはヒマな時にこうやって三橋の作ったネット内の研究スペースの周囲を警護というより、なんとかホイホイのようにやってくる奴らを退治しているのが役目となった。 三橋の研究スペース。それはまさに宝の山だろう。 本人曰く「難しく ない よ!」だそうだが、死ぬほど難しい書籍に研究書。話によると、なんかの研究を冊子に乗せたところ大反響がないとかあったとか。 あいつは知らないだろうが、裏だろうが表だろうが、少しかじったやつらなら誰でも知ってる情報。 「バーチャル・ネット・ゴーグルを作った真の人間はあそこに書かれたメンバーではなくたった一人であること。」 もう少しレベルが高いヤツだと 「それは レン ミハシという話だ」 ということ。それが流れているのが通説である。 その レン ミハシ をひっ捕まえ、問答無用でこの会社に入社させたのは、うちの部長であるし、その本人だってそいつがかの「みはし れん」 なのかわからなかったと言っていたのだ。 話は戻して。日付に戻る。 しばらくぺしぺしとウイルスやらワームやら潰していた時に思い出した。田島の先月…というかつい何週間か前のアレを思い出したのだ。 「あ。」 そこで声を出さなけりゃよかった。と思う。だが、その声はしっかりともう一人に聴かれてしまった。 「どした?泉?」 向こうも向こうで、でいでいと同じ作業をしていた田島がこっちを見てる。ああ、もう話さないとどこまでも追いかけて尋ねてくるタイプだから仕方がない。 「10日後、オレの誕生日だ。」 そう、だから記憶があったのだ。田島は踏みつけていたワームの出所を調べ上げたデータを花井に送ると、こともあろうにこの場所で人のデータを開けやがった。 「おい!田島!」 「あー、ホントだ。」 すぐに閉じたのは良しとして…もう少しで田島の頭を蹴るところだった。ゴーグルを使用している時の最大の弱点の場所である。ここと、心臓をやられると、大抵の人間は死ぬという研究報告がなされているとかなんとか。まぁ、いい。問題は田島だ。 「じゃあ、盛大にやろうそうしよう。」 メーラーを起動させて……一斉に送信。 舞い上がる紙のような白い奔流にちらりとメールアドレスを見ると…げ。これ阿部のメールアドレスじゃねーか。 「田島、おま……」 「ここのフロアの全員に送っておいた。」 けろりと答えるなけろりと! あー、三橋。今研究しているか?しているならここを開けてくれ。そしてしばらくオレをその場所から出さないでくれ。 穴があったら潜りたい。…けど3次元方向に自由なここ…ネットワーク世界では穴はなかった。比ゆ的な表現で穴というものは存在はするけど、それはまた違うもので…… とりあえず、オレは、このネットの世界からまだ戻りたくないと本気で思ってしまった……あ、田島帰ろうとすんな!てめーの播いた種だろ!こん畜生! 「んなろ!田島!」 起き出して最初に言った言葉はこれだ。絶対にこれは譲れない。あまりの事に自分を形作る画像が処理落ちしてガタガタにまでいったのだ。脳みそにどれだけ負荷がかかったのかわからない。肉体に戻っても、くるのはいつものガチガチ状態。必死にマッサージして体中に血液を通す。 体はガチガチの状態だが、殴ることはできる。きっとできる。が、田島はすでに立ち上がって「あー、今日の昼飯何だろ」とかぬかしてやがる。 こっちはまだ動けねぇのに…。 「泉。」 ひょっと顔を出してきたのは栄口。このすべて知ってますよーというニコニコ顔はすでにメールを読んだということだろう。 「何か用か?」 ひとまず田島を無視して問う。栄口はニコニコ顔を絶やさずに「モモカンがお呼びだよ。」とのたもーてくれる。たぶんアレだ。アレに違いない。 よろりと立ち上がって、田島の脳天にすこーんとゲンコツくらわせてからモモカンのほうへと向かう。 「がんばってねー。」と西広がのたもーた。 西広センセイは殴ったりしたら後が怖いのでやめて、さっさとモモカンのところへと向かったのだった。 「で でき た。」 先月の田島の誕生日には贈れなかったけど、泉の誕生日には贈れるもの。そして巣山と栄口に訊いたら「それで大丈夫だよ。」と言ってくれたので、作ってしまった。構想に時間がかかってしまったが、作り始めたら意外とさっさとできあがってしまった。 バーチャル・ネット・ゴーグル 三橋ver.の最新版。 自分がじきじきに作ったという事は完全に特別製。(三橋本人は気づいていない) 自分のハッキング機能はついていないものの、ついでにあれもこれもと入れてしまった機能は、今現在販売されているゴーグルの倍以上になってしまった。本人はまたもや気づいていないが、金額換算できないものになってしまうものであり、また、世界を少し変えてしまうものができあがっ てしまったのだ。本人は会社にしか置いておくことができない…というか、ここでしか利用できないかもしれない。とかでキョドキョドしていたのだが。 モモカンに提出する報告書をまとめて、どうしようか。と本気で悩んでしまった三橋なのであった。 一週間ほど経ったろうか。泉と田島の耳に、課長どものひそひそ話が入ってくる。 「速い。」 「あの差はなんなんだ。」 だいたいそんなものであるが、この部で速いものなんて二人は知らない。ぶっちゃけ質も内容も最速をいく二人である。もう一人最速を誇る者もいるが、彼は今日も研究に明け暮れているだろう。あれの。こん畜生! 「あれが…かぁ。」 「鬼に金棒?」 「ナントカに刃物?」 「猫に小判?」 「うらやましすぎる…」 「それは同感。」 ひそひそひそひそひそひそひそひそ……… 田島と泉の後頭部で行われる会話に二人の堪忍袋の緒も切れそうになってきた時。 「泉くん、田島くん、部長が部長室に来てくださいって。」 篠岡が二人に声をかけた。がばっとたちあがって、二人とも走る。 「あーあ。あんな急いじゃって。」 「おまえが焚きつけるからだろ?水谷。」 「そーは言っても、花井サン。」 「……ああ。悔しいさ悔しいとも!」 オレもオレもと次々に手をあげる。あんなモノが手に入るなんて……うらやましすぎる。 そうして課長たちと一部の話を知っている者たちは、うらやましそうに部長室をみるのであった。 モモカンからの命令は、全員を納得させることでもあった。行うことは、田島と泉が仕事を終わらせて帰った所を狙う。絶対に戻ってこないように、三橋を含め、栄口、水谷、西広が食事に付き合うことになっている。四人ともに散々飲み食いして帰ってくるとの事なので、今日、会社の田島どもの巣に戻ってくるのはかなり遅い時間だろう。三橋は酒をあまり飲まないが、田島と泉は良く飲む。田島は飲むといつも陽気な性格が更に陽気になるが、泉はあまり変わらない。いーなーいーなー、また残業だよー。とぶつぶつ言いながら課長格は明日のために仕事に向かうことにした。三橋が1日がかりで作成した冊子は本当に役に立つ。 あいつらもこれから更に苦労すればいいんだ。 ぼそっと言った阿部の言葉に花井は少しヒいた。 次の朝の事である。三橋は早起きをして、朝食を作り上げ、自分はさっさと食べると研究室へと入ってしまった。メモは残してあるので泉と田島は何だろうなんだろうと思いながらも温かいご飯を食べた。 「まぁ、三橋から最初に『誕生日おめでとう。』って言われたかったか?と田島に言われたが、泉は無視した。全くその通りであったからだ。 二人がいつもの通りフロアに行くと……行くと…… 「あれ?」 二人の椅子と机とパソコンがもろもろ無くなっていた。 「篠岡、田島と泉が来たぞ。」 「はーい。モモカンが呼んでますよー。部長室に来てください!」 なんだなんだと言いながら二人は部長室へ。 その二人をほぼすべてのフロアの者が見送りながら、課長格と水谷は「やっぱり羨ましい。」とぼつりぼつりとこぼした。 モモカンからの辞令。それは。 『兼ねてより言っていた、9課を独立させる。場所は研究室に移動し、9課課長を泉とし、今までの作業を続けることと、三橋の研究の手伝いをする事。』ということだった。ぴらーんと辞令が二人に手渡される。 「もう、新しい机と椅子とかは研究室に用意されているわ。今まであんな広いフロアに三橋くん一人だけだと寂しいだろうねーとは前々から思っていたし。貴方達だったら三橋くんも色々と相談ができるでしょう。」とモモカンが滔々と述べてくれた。だから三橋は朝早く出かけて行ったのか。 と二人は思いつつ、辞令の紙をぴーらぴらさせながら、「んじゃいってくらぁ。」と他の課の連中に言いながら、研究室へと向かう。 「なぁ、生クリームたっぷりのパイを顔面に投げるというのはどうだ?」 「誕生日だけど経費じゃ落ちないよ?」 「それでも!あんな良いものをもらえる二人に何かぎゃふんと言わせたい!」 「オレもー。」 「オレも。」 水谷が言っていた事に次々と課長格が手をあげる。 「ここでパイを投げたらパソコンが問題だからなぁ。」 「あ、一人一つずつろくでもない具を持ってきて鍋は?」 「臭いがきついだろ。」 「ならカレー。」 「乗った!」 課長格及び巻き込まれ平社員水谷、事務が全員話に乗ったのであった。 その会話を知らない二人は、研究室にあったものを見て、絶句している所であった。 「い いちおう ま、マニュアル……本 です。」 分厚いマニュアル本の表紙は『バーチャル・ネットワーク・ゴーグル Ver.2』と書かれている。既存のゴーグルは最初に売られた時のまま。新商品は出ていない。すなわち…… 「泉 くん 誕生日 おめ で とう。」 田島くんは先月あまり良いのをあげられなかったから、二つ作ったんだ。と三橋の言。 椅子を見ると、空気圧で血行を良くする最新鋭のゴーグル使用のためのチェアーと仕事用の椅子。パソコンは2台ずつある。凄まじい量のケーブルが走っているのがゴーグル用のパソコンなのだろう。 「い いいの か?」 泉が生唾飲みながら三橋に尋ねた。田島に至ってはさっそくいじくりだしている。 「う うん。これ が、誕生日プレゼント!」 ただし研究室から持ち出し禁止だから。と三橋はちょっと困ったように言った。そりゃそーだと二人は頷いた。これが盗まれた日には自分たちはおろか、会社自体の問題となりかねない。 「み みんな に、テストをお願い し たんだ。」 だからあの視線。と泉は乾いた笑いを浮かべる。何かあるかもしれないな。と田島に言おうとしたら、田島は既に椅子に座って、「みはしー、はじめてみていっかー?」と尋ねている。 「い いい よ! …あ あの……い いずみ く ん。」 「あ、ああ。」 三橋も自分が持っているゴーグルを持ちあげた。使い方を教えてくれるようだ。 泉も子供のようにドキドキしながらゴーグルを手に取った。 速度、レスポンス、そして機能に関しては何も言うことがなかった。ああ、本当にこのゴーグルを作ったのは三橋だったんだ。と二人は感じていた。信じられないくらいのハイスペック。今までのゴーグルの速度が芋虫に感じる。二人は感動しながらネットの世界を騒ぎながら駆け巡った。 仕事が終わって、研究室から出てくると、課長全員が待っていた。全員が異様ににこにこと笑っている。 「まずは泉、誕生日おめでとう。」 阿部がにこにこと笑いながら言った。目は笑っていない。正直キモい。だが全員が「おめでとう。」と復唱する。 「これ、オレたちが作ったんだ。特別室を用意してあるから食べてくれ。」 「ああ。有給申請は出しておいたから、明日一日は有意義に使えるよ?」 にこにこにこ。水谷の手には鍋。そして香りはカレー。だが、カレーにあるまじき臭いが混ざっているのは気のせいか? 「ご飯も黄色いぜ?」 見ると何か毒々しい黄色い色。泉と田島が視線を合わせ逃げようとした時に巣山と花井ががしっと捕まえた。三橋は?と見ると、「これから9課新設のお祝いだから、三橋は先にオレと行って、色々と注文するものを選ぼう?」と栄口が車椅子を押してエレベーターへと消えていったところであった。 「さぁ?食事の前にカレーくらい、お前らなら大丈夫だろ?」 「オレたちがチョイスした具だ。噛みしめて食べてくれ。」 「お前らのテストはオレらが全部やったから、これがオレらの誕生日プレゼントだ。」 天国の後の地獄。 泉と田島はつつーっと冷や汗が垂れるのを感じていた。 次の日、三橋が鍋が一つ足りなくなってると思ったが、ベッドでうんうん唸っている二人に尋ねるのもなんだから、誰かに訊こうと思って、フロアに向かったのはおまけの話。 はっぴーばーすでー! 泉くん。と遅れて田島くん! |