若い二人の素性は、三橋がすぐに調べた。自分と同じような事をして、サイバーポリスにもう少しで捕まりそうになり、会社の上司から暫く偽名を使って逃れている事を知った。丁度転勤と違う街へ引っ越す者で二部屋空いたので、分かっていながら彼らを受け入れた。
それは何かが変化しても構わないと三橋が諦め半分、そこまで受け入れられる心を治してきていたのだ。浜田は喜んだ。
三人はすぐに仲良くなった。以前から付き合いがあったかのような仲の良さである。
偽名に関しては三橋は何も言わない。本人たちから告げてもらうまで待とうとした。
が、田島と泉はあっさりと「三橋にゃ本名で呼ばれたいから」という理由でばらし、三橋と浜田の度肝を抜いた。その後は仲良く。更に仲良くなった三人を見て、浜田は三橋が社会復帰も近いと考えていた時でもあった。
だが、裏での仕事は恐ろしい事になっていた。
田島が『会社』と言っているハッカー及びクラッカー集団等をはじめとする、複数名による無差別ウイルスのばらまきとハッキング、クラッキン
グが相次いだのだ。三橋もこれには驚いていたが、ネットの世界で少し名前が知られている者たちが次々と死者として新聞に名を連ねる事になった時、三橋はダメだ。と呟いた。それから三橋と浜田は彼らを追う事にしたのだ。相手を逆にハッキングしたりクラッキングしたり。
その結果、今この場所にいるのだが。
誰も、動けなかった。
この、三橋 廉という男の壮絶な人生に。
浜田という男も、そして田島も泉も。全員が、この大きな流れの中に取り込まれていたのだ。彼らに出会った時から。
ある程度まで関わっているだろうと思っていた田島、泉もまさかここまで。とは思っていなかったようで、驚きの表情を露にしている。
「三橋…」
こんなに長く話すのは久しぶりだ。という顔を隠しもしないで、名前を呟いた花井のほうを見る。
「え、えーと、NO NAMEって、もしかしてもしかすると…?」
水谷がビビりながら尋ねる。
「名無し…って名乗ってた、のに…」
小さな声で三橋は呟く。
「あの伝説的ハッカーが三橋…?」
阿部が信じられない。という顔で呟く。
「そう、らしい…で す。」
三橋もこれには困惑した顔で返す。自分の影響力を全く知らない。と言った顔だ。
「はいはい。話はここまででいいかしら?」
ぱんぱん、と手を叩きながらモモカンが流れている空気に介入した。
「田島くん、泉くん!」
「はい!」
「はい。」
いきなり名前を呼ばれて驚いたが、すんでの所、それが表にでることはなかったが、心臓がばくばく言っている。
「この事で三橋くん、嫌いになった?」
「いや?」
「全然!」
二人揃った返答にモモカンは満足げに微笑んで、「この話で嫌いになった人、いる?」と全員に問いかける。
社長を除く全員が首を振った。横に。
「三橋くん、ありがとう。ここまで話してくれるとは思わなかったわ!」
モモカンも嬉しそうな顔で三橋に言う。三橋は恥ずかしく、穴があったら潜り込んで、内側からドアを閉めて、鍵をかけたいくらいに照れた。
「さて、三橋くんがどのような状態なのかは分かったとして、皆はどうしたい?」
はい!と手を挙げたのは田島だった。
はい、田島くん、とモモカンが指名すると、田島は三橋のほうを向き、「守れるなら守りたい。」と言った。
「浜田のタコ野郎がいないなら、オレらが代わりにやらねぇと、だな。」
泉がにやりと笑いながら三橋に言う。
「守るのは難しいかもしれないけど、応援はできる。」
花井が頭をがしがしかきながら言う。
「オレも一緒だ。」と阿部。三橋はどうしようもない感情のぶれに、泣き出しそうになっていた。
「泣いていいんだぜ?」
田島が笑いながら三橋に言う。
耐えきれないと三橋の目からぽろぽろと涙が溢れ、泣き出したのだった。
ひとしきり泣いた後、三橋は恐る恐る周囲を見回し…叶と視線があった。
「三橋…」
信じられない。という顔で見ている。
「叶くん…。」
軽く頭を振り、「叶くん は、来てはならない、世界。」と呟くように言う。
「みは…」
「叶、いい加減にしとき。」
それまで控えていた叶の秘書である織田が口を挟んだ。
「三橋は新たな道を築いたんや。それを邪魔しちゃあかん。」
織田の言葉に叶はうなだれる。
ややあって、叶は退職届を受理する旨を告げた。
声にならない歓声がわっとあがる。声を実際あげようとした田島に関しては、泉がぎゅむっと口をふさいだので音にならなかった。
「三橋、でも一つだけ頼みがある。」
その言葉に全員が固まる。
「社長とか、そんなの無視して、友達として…友として、また会うことはできるか?」
「…う、ん!」
ころり、と涙がこぼれながらも、三橋は強く頷く。
二人の間に、笑みが溢れた。
田島や泉、阿部などは不機嫌満載な顔をしていたが、花井などは良かった良かったと満足げな顔をしている。
「用件は済みました。」
社長の顔に戻って叶が社長のほうを見る。把握したのか、社長も承知顔で了承の態度をとる。
「三橋、バーチャルネットゴーグルの最新イメージが湧いたらいつでも協力に乗るからな!」
笑いながら三橋の肩にぽん、と手を置く。そこで爆発したのがいる。真逆な性質のくせしてこういう時は意見があう田島と阿部だ。
『ふざけんな!』
異口同音に発せられた言葉に、全員が苦笑を浮かべたのであった。