部活から戻って、夕食をとり、部屋へと戻り、メールを送り、ほぉっと息をついら即効で携帯が鳴った。ビクッとなるが、相手が叶となるとさらに驚いた。
「も、もしもし…?」
恐る恐るとる電話に懐かしい、耳に慣れた、声。
『三橋!』
その声は喜んでいるのか驚いているのかわからないけど、興奮しているのは確かだ。
「かのう く ん?」
何故そんなに興奮するのか分からない。
『三橋…』
しばらく声がなくなった。アンテナが心配で見てみるけど、めいっぱい立っている。どうしたんだろう。と耳を傾けている
と…聞こえた。
嗚咽が。
「かのう く ん…」
泣いているの?とは聞けなかった。こんなに押し隠して泣いているのを悟られたくないだろう。
しばらくして、鼻をかむ音やらなにやらゴソゴソとした音が聞こえた後、やや鼻づまりの声が三橋の耳に入る。
『三橋。』
しばしまた沈黙。あまりの鼻声にあちらが驚いたらしい。
『三橋。』
やや戻った声で自分の名前を言う。そして次の言葉は。
『ありがとう。』
「な…なん で?」
その言葉に驚き、たずねる。こんなダメピーなヤツに。
『野球を捨てないでくれて。』
『野球を諦めないでくれて。』
『野球に戻ってきてくれて。』
『ありがとう。』
三橋の目からも涙が溢れていた。
「み…みんなの や、野球部の 人 の お おかげだ よ。」
少しの間だった仲間。これからの仲間。花井、阿部、栄口、水谷、巣山、沖、西広、泉、田島…
他にも色々な顔が浮かぶ。
「オレの こと 待ってて くれた 人が いて。」
阿部の真剣な眼差し。
「オレのこ と、優しくして くれた 人がい て。」
栄口の優しい笑顔。
「オレのこと ひっぱっ…ひっぱってくれた 人が いて。」
花井の姿。
「オレ の な、投 げる球に、声を、かけてくれる人がいて。」
水谷、巣山、沖、西広の声。明るく、励ましてくれる、あの声。
「オレの 話を きいてくれるクラスメイトが いて。」
泉の少し怒ったような、でもいったん話にのると楽しげに笑う顔。
「オレに いろいろ おしえて く くれた人が いて。」
ニシシ、と笑いながら、いつのまにか兄となってしまった田島の明るい顔。
「オレ しあわせ、だ よ。」
その言葉を言ったら、涙がまた溢れた。どんどんと溢れた。
『よかった。新しいやつらはいいやつらなんだな。』
「うん……うん!」
『じゃあ、いつか試合しよう。畠やあいつらに、鼻をあかしてやろう、な?』
「鼻をあかす…うう ん。」
3年間ダメにしたのは自分。これは譲れない。
『じゃあ、オレとお前の力比べ、しようぜ!』
「えっ…ムリ…。」
『ムリじゃないって。だってこれからお前、どんどん力つけてくだろ?自分でわかっていなかった所とか直されるから、すご
く強くなるぞ。』
「そ…そうなん だ。」
なら、いいかな、とも思う。叶くんとの勝負。一度もやったことがない勝負。オレがダメにした全て…
『ほら、また落ち込まない。三橋のせいじゃないんだから。』
幼友達は全てを分かっているようだ。
『オレは三橋と勝負したい。その理由じゃ、ダメか?』
「叶くん と?」
『そう。1年のギリギリでも、2年になってからでもいい。一度試合しよう。』
その言葉に三橋は頷いて、慌てて
「うん。」と言い返した。
今度からは密に連絡とろうな。と約束して、電話は切れた。
三橋はベッドにごろんと横になりながら、天井を見つめる。
これから、どうなるのか。
これから、どうするのか。
分からない。けど、こんなダメピーでも受け止めてくれる人たちがいる。笑いかけてくれる人たちがいる。
その人たちを悲しませないのが、諦めさせないのが、きっと………
「廉、お風呂入っちゃいなさい!」
母親の声にびくっと起き上がる。
「うん。」
パジャマと下着を用意して、部屋を出る。パタンと扉を閉め、階段をおりていく。
ほっかほか状態でフヒフヒ言いながら、再び階段を昇り、パタンと扉を開けて部屋に入ると、携帯にメールが入っていることに気づいた。
パカッと開けて、内容を見ると、また涙がじわっとでてきた。
「明日道が別れるところで落ち合おうな。遅刻するなよ!」
「今日はお疲れ。ちゃんと休めよ」
「明日はオレと投球練習だからな!一緒に行こうぜ!」
色々な人からのメール。今までにない件数。こんなに優しい人たち。
「がんばる よ。」
三橋は涙をぬぐうと、きちんと目覚まし時計を確認して、ベッドの中へと入っていき、楽しい夢の中へと入っていった。
END 2006/08/12/20:55
改稿 2007/10/04/03:41