冬の寒い風なんてなんのその。バンの中は大騒ぎである。
「うー、久しぶりの横浜〜!」
 近くで水谷が絶叫している。
「やっぱ中華街?」
 泉が巣山と栄口交えてガイドブック見ながらわいわいがやがや。
「中華街の食材、中国輸入も多いけど、春雨とか日本産が多いんだよ。」
「元町のスレスレにアフロ専門店の店あるって…花井、行ってみれば?」
 沖と西広がロクでもないことを言ってくる。
「何でオレが行かねぇとならねーんだ!」
 ここはやっぱり怒る花井。
「今ほら、なやみむよーとか。」
 田島が早速チャチャを入れてくる。
「オレは自分で刈ってるから!」
 怒鳴りつけてふと花井は隣を見る。レンがぼーっと外を見ている。
「大丈夫か?」
 酔ったのか?と心配して見ると、レンは途端にキョドオドしだした。
「え……う うん。」
 視線はあらぬ方向をチラリハラリフラリヘラリと飛んでいる。動きいつもよりか若干鈍いのはあまり寝ていないからだろう。
「どうせ高速道路見てカーチェイスも銃も何も飛んでこない。平和だなぁとか思ってたんだろ。」
 阿部の一言でレンはむきゅうとつまる。正解も正解。大正解。
「そらそーだ。レン、あれ見ろよ!」
 田島が指さすのは…ベイ・ブリッジの手前の、つばさ橋。橋を支えている高い鉄骨部分を指さしながら田島が言う。
「スカート履いてる女の人に見えねぇ?」
「うわそれ、オヤジギャグ?」
 沖、すかさず参戦。
「いーだろ?巣山もムッツリなんだから!あいつが最初に言ったんだぜ!」
 巣山が自分の名前を出されて振り向く。瞬間、つばさ橋のそれを超える。

『……………………』

 思わず全員が上を見てしまった。

「くっそー、鉄骨のくせに!」
 やっぱり巣山にやつあたりする田島。何で何でとそれを受ける巣山。
「気持ちは分かる。このやんごとない気持ち。…くっそー!」
 沖、西広、阿部まで参戦。突如あがる歓声。誰かがくすぐりだした。もう止まらない。
「ベイ・ブリッジだ!」
 ぱっ、と生け贄になった巣山を放りだして、田島が窓にかじりつく。巣山、半死半生。レンが慌てて癒し手を発動させようとするけど…「?」と止まる。治療方法が分からない。どうしようかと前を見ると…
「かぜ……2メートル?」
「風速…ふうそく2メートル。」
 すかさず花井が律儀にもレンに教える。
「おー!コスモクロックだー!」
 泉が指さし大騒ぎ。
「あののっぽビル…なんてったっけ?」
「ランドマークタワー。」
 水谷の問いに答える阿部。全員巣山の事は忘れ去っている。
 モモカンの運転するバンは、ゆっくりと高速を降りていく。ちょっとの間だけ、見納めだ。
 今日行く場所は、なんてったってそのランドマークタワーのすぐ近くなのだから。
「メシ喰って。」
 泉がニヤリと笑う。
「遊んで。」
 西広が笑う。
『風呂づくしーーーーーー!』

 うぉぉぉぉぉぉぉぉっとバンの中でモモカンとレンを除く全員が吠えた。


除虫屋・ニシウラの小旅行



 やはり除虫屋だって仕事は仕事。年中無休というわけにはいかない。命をかけた戦いをするのだ。ストレスだって多い。
 故に年に三度、一週間程度の休暇が与えられる。近くの他の除虫屋が休暇に入る時は全員なんとなく不機嫌…その地区も他の除虫屋と分担して担当するから…なのだが、それが自分たちに回るととたんに元気になる。現金なものだ。
 「オレたち、まだ年金入れないから、ゲンセンチョーシュー少ないんだぜ!」と田島はレンに給与明細を見せたことがある。高校生が得る金にしてはかなり多すぎるそれ。半分以上は家に送金し、その半分は貯金、残りで遊ぶ……と、何故か悔しそうに田島が言った。後ろで栄口がにっこりと笑っていたのが印象的だった。
 ちなみに除虫屋は国家の下で働いているので、全員公務員扱い…共済年金である。
 それぞれ独特な力を持っているメンバーに対し、「情報屋」は狭き門である。その難関を突破してきたのが巣山である。今回のこのプランをたてたのも彼であるし、予約などを行ったのも彼である。なお、志賀に一緒に行くかという言葉は出さなかった。志賀はこの時期になると既に家族がプランをたてていて、荷物持ち&運転手という役目が待っているからだ。「鷹の目」である篠岡は、他の女友達と遊びに行く。残るのはいつものメンバーとモモカンである。
 今回は近場を選んだ…というより、前から温泉コールは高かったのだ。だが、今回はレンが初めて加わっての「休み」である。しかも年末。それならグループ行動も、単独行動も取りやすい、近くの都市…で、温泉で賑やかな所…と考えて、横浜と相成ったのである。

 連休初日は、栄口が全員をたたき起こしての大掃除。「片づけたら寝て良し」との命令のもと…田島の部屋は先に片づいたレンと花井の手を用いても…朝方までかかった。
 次の日は買い出し。食品などではなく、衣料、雑貨などである。泉、田島、レンはそれぞれ「恐竜」「トラ」「犬」の着ぐるみパジャマを買った。花井の「お前ら何歳だ?」の溜め息と、阿部の何か痛いモノを見てしまったような視線をかいくぐり、レジに通してしまった。栄口は何も言わなかった。

 ちょっと口の端がひくつってただけで。それを見ていた水谷がドン引いただけで。

 で、帰ってくるなり旅行の準備。あれこれモノを詰め込もうとする田島と何を入れるか分からないレンを栄口、阿部、花井、西広で監視しながらその日の夕食は外食。明日からのためにと成人組はアルコールを慎み、ティーンエイジャー組はレンに「このジュースとこのジュースをこの比率で割ったら美味い&不味い」をレクチャーしていた。

 で、朝。

 やはり旅行の朝は早くなる休日早起き組の田島が、初めての団体旅行で殆ど眠れなかったレンの着替えを手伝い、いざ出発と相成ったわけである。




「…そこを右に曲がると駐車場があります。」
 よれよれの巣山がモモカンに指示を出している。場所は元町や中華街に近い、石川町にほど近い場所。昔は地上げだ何だと五月蠅かった場所も、少し外れると駐車場や空き地が目立つ。そこをついて巣山はベストポジションの駐車場を選んだのだ。

 モモカン運転するバンが止まった。途端にバタンと開けられるドア。わーっと全員が飛び出した。
「4時にこの場所。全員集合だからな!」
 巣山の声は届いたのか届いてないのか…

 わーーーっと各自が動き出したのである。

 除虫屋・ニシウラの小旅行の開始であった。



横浜は書きやすい〜 笑