日差しはあたたかく、うららかなこの日。1月1日。元旦。
 一つの館から、大きな声が響き渡った。

「あけましておめでとうございます!」


あけましておめでとうの除虫屋



 年末掃除も慌ただしくすませ、1月1日。全員、お昼に食堂に集合。椅子とテーブルは取り払われ、足の低いお座敷用のテーブルに。流石の栄口も作れきれないため、注文した和洋中のお節と飲み物、刺身などが鎮座ましましている。男は全員普段着。モモカンと篠岡は和服でしっかりとキメて、30日に罰ゲーム命令を受けた水谷が必死で叩いて、干して、新しいカバーと交換されている座布団に座っている。毎年(というほどではないけど)ハメを外す田島は端に、隣に泉をはさんでレンが座り、その横に阿部、栄口、花井が座り、対面に巣山、沖、西広、水谷がそれぞれ座っている。いわゆるお誕生席にそれぞれモモカン、シガポと篠岡が座っている。

「今年も3日から通常除虫作業よー!その前に飲みましょう!…未成年はコップ1杯まで。お屠蘇はカウントに入れないよ!」
 モモカンも花井からの苦情を受け、しっかりと田島付近に最後のセリフは投げつけている。ちょっと残念そうな田島に泉は容赦ないゲンコツを入れている。さっきもお屠蘇をレンと隠れて飲んでいて阿部にこっぴどく叱られたばかりなのだが、彼の元旦の楽しみはこれにあるといって聞かない。「酔っぱらったら退場」をさっさと花井と栄口から受けているのだが…果たして効果があるものやら…

「はぁ。」
 花井の溜め息に栄口が苦笑を浮かべる。
「まぁ、レンの隣が阿部だから。」
 田島がレンに「酒とって」と言われても、阿部という無敵のバリケードがある限り、早々に酒には手は伸びないだろう。そう思いたい。
「まぁ、今日は無礼講!さぁ、除虫屋・ニシウラの今後に乾杯!」
『乾杯!』
 かちゃん!かちゃん!とビールやらジュースやらウーロン茶やらの入ったグラスが鳴った。

「あ、田島!泉!オレそれ狙ってた!」
 巣山が視線をイタリアン風お節(栄口を除く3人ひと組でお節を決めた)に向けると、座った時に狙っていた獲物はすでに酒がダメなら食べモノで、と早々とシフトチェンジした田島と、最初からそのつもりの泉がちゃっかりがっぽりもっていった後だった。
「ざんねーん♪オレらのモノね♪」
 田島と泉の小皿には、すでにてんこ盛りのお節が盛られている。
「オレら?」
「そ。レン。コレ食べるだろ?」
「う…うん。」
「コレも美味そうだぞ!」
「う ん。」
 田島と泉はせっせと自分のとってきたモノをレンに与えている。すぐにレンの皿も食べ物で一杯になる。ようやく持ち慣れてきた箸をつかって、もももと食べる姿を二人して見ている姿に、近くにいたモノたちは全員「なにこのひな鳥にエサやってる状態」とかひそひそ言いながら酒を飲んでたり。
「花井くん、今年はどう?」
 にゅっと出てきたビール瓶に慌ててコップに残っていたビールを飲み干して差し出す(ここらへんが体育会系)花井。
「…メンバーも増えたことですし…何でも来いという感じでしょうか。」
 近くにあったビール瓶を持って、モモカンに返杯する。モモカンも苦しゅうない。といった感じでそれを受ける。
「花井、もう頭赤い。」
 ぷっ、と対面にいた水谷が笑う。
「仕方ねーだろ!に出るんだよ!」
『いやそれ頭だから!』
 水谷、栄口、西広がすかさずツッコミを入れる。一糸乱れぬ見事なツッコミだ。
「るっさい!」
 ぐーっと飲み干して、ビールから日本酒の瓶へと持ち替える。
「お、早いねぇ。」
 既に日本酒は半分になっている。隣に置いてあった日本酒………阿部はまだビールだ。
「栄口、顔にでないというのも恐怖だ。オレは。」
「そう?」
 花井から日本酒の瓶を取り、花井につぐと、自分のコップにもどぼどぼと注ぐ。キュッとフタをした次の瞬間にはすでにコップの中身は半分になっている。
「…どういう肝臓してんだお前。」
「ピチピチ。」
 オレの肌と一緒とナニかキモい返答返す栄口。
「花井はビチビチだな。」
 どうしてそこでワケ分からないツッコミ入れるか阿部
 視線を合わせるとニヤリと笑い、栄口からぶんどった日本酒を入れたコップを掲げる。
「ビチビチの肝臓持った花井に乾杯。」
『かんぱーい!』
 ノリノリの栄口と水谷、西広がそれに乗る。全員既に日本酒だ。ちなみに日本酒は栄口と西広の背中に5本ずつ配置されている。ワクが揃う正月はどうしてもこうなってしまうのだ。
「じゃああたしたちはここらで。みんな明日は打ち合わせなんだから二日酔いにはならないでね!」
 モモカン、シガポ、篠岡が立ち上がる。他の野郎どもは「はーい。」と元気なお返事。

 いくつかの目が、キランと光った。


「美味しいか?レン。」
 刺身をつまみに日本酒飲んでいる阿部が尋ねる。
 ももも音が急に止むと、むぐぐ、という音に変わる。
「おいこら、ちゃんと飲み込め!」
 近くにあったコップを持たせると、レンはごくーーーっと飲んで、?という顔になる。
「うわ、阿部それお前のコップ!」
 巣山が指さして慌てている。見ると、レンの顔が赤くなり……青くなり………
「れ、レン?」
 流石の阿部もこれには慌てる。あー、阿部、未成年に酒飲ませた視線が刺さるけど無視。というか刺さらないし何かが厚いから。

 青くなり……元に戻った。

「あり が とう。阿部 く ん。」
 いつもと変わらないレン。
「なぁ、レンって酒飲んだことあんの?」
 それをハラハラして見ていた泉がさっそく話しかける。
「う ん。」
 こくこくと頷く。ワイン・ウォッカ・ビール…世界の酒の名前を出され、全員が慌てる。
「水 がわ り。」
 言って、とくとくとウーロン茶を飲む。全く変化なし。
「…何歳の時、初めて飲んだんだ?」
 ここはステップを踏んで、ビールの泡から、という答えを聞きたかったが。
「9歳の時、45%ウォッカとスピリタス(アルコール98%)を(田島翻訳)」というトンデモ答えが返ってきて、話を聞いていたそこらへんの動きが止まる。
「寒いのと、消毒と、火炎瓶作るのが簡単だったから(田島翻訳)」と語ったレン。手にはウーロン茶。
「レン、成人したら西広、栄口と勝負してみて。」
 沖がすでに顔と鼻を赤くしながら言う。巣山は楽しそうと笑顔になるが、阿部はしぶい顔。
「う ん?」
 とりあえず隣の泉と阿部の顔を交互に見やる。
「あーそれ楽しそう。」
 泉がヒッヒッヒッと笑う。阿部、憮然。
「阿部く んは?」
「呑まれてとんでもないことになったらどーすんだお前。」
「中毒症状 が でた ら、治る か ら。」

「あ。」

 ……………………

「レン、オレと田島以外の全員に「おまもり」を出しといてくれないか?」
 レンは酒が強い。んでもって癒し手。泉はそこに目をつけた。次の日死んでいるヤツの介抱なんかしたくないからだ。
「血中内のアルコールと汗と有る出人(アセトアルデヒド)の濃度は分かるけど、たぶん二日酔いは治せない(田島翻訳→専門用語はどうにか巣山翻訳)けどいいのかな?」との問いに
「今やれ、すぐやれ、さっさとやれ。」
 阿部、さっそく阿部様発動。レン、ひぃぃっ、となりながらも7匹のちょうちょを指から出す。
「花井く ん、きゅうせい アルコール中毒 寸前。」
 さっそく受けた報告に泉が命令。どうせ栄口が飲ませすぎたんだろ。と阿部。反対側を見向きもしないでの発言。
「それはさっさと治して。」
「う ん。」
 花井の頭が緑色に光った。

 いきなり頭が緑色になった花井の姿に栄口と水谷が酒を吹いて、他唖然。花井は良く分かっていない。飛んでくるタオルと台ふき。巣山がさっと立ち上がって携帯を取り出す。すかさず阿部と泉と田島(+ひきずられレン)が花井の周囲に。
「はい、チーズ。」

かしゃ。

 哀れ花井の今年の運命はナニかここで決まった気がした。
「田島、帰る時に持って帰っていいのはレンだけ。」
 栄口がにっこり笑って田島の手から引き抜いたのは日本酒の瓶。田島も田島なら栄口も栄口である。
「いや、レン、ここにいてもいいよーぉ。」
 蝶がアルコールを吸い出し、レンの手にあるタオルの中へシミを作っては消えていくのを見ていた水谷が缶チューハイを振り振り誘う。目の前にはあまり手が付けられていないお節。
「はいはーい。いちめいさま、ごあんなーい。」
 水谷の隣にちょこんと座って、頑張って箸を使ってお節にチャレンジするレン。さっそく花井が箸を反対に持ち、黒豆やら色々なものをちょいちょいと持って手渡す。
「あり が とう。」
「いやいや、お礼、お礼。」
 そんな花井の頭の上に、ちょうちょが一匹。おまもりちょうちょ。
「レン、いっぱい食べて花井みたいに大きく育て〜」
「う ん!」
 ももも、と食べ出すレン。これもこれも、と差し出す栄口。
「…ツバメのヒナにエサやってるみたいだな。」と田島がぽつり。
「いやそれ、お前らが言っていい言葉じゃない。」と阿部がしっかりとツッコミを入れた。


 結局、呑んで喰って、治されて、全員がよろよろと解散したのは夜8時。巣山の命令によって、寝る前に飲んでおくようにとポカリとウコンがそれぞれに手渡される。無論、二日酔い対策だ。でも今年は心配ないだろうなー…と思っていたのだが。


 次の日の朝。
「た じま くん。」
 えぐえぐ泣きながら、田島の肝臓、頭を中心に全身満遍なく蝶をとまらせて治癒しているレンの姿があった。どうやらあの後、残りの日本酒をちょろまかしてレンと飲んでいたらしい。タオルは吸い出したナニかでかなり湿っている。
「レンはどれだけ飲まされた?」
 いつもの調子で尋ねた栄口にレンは震える手でピース。2本。2升。ごめんなさいぃぃとオドオドキョドキョドべそべそぐしぐし。
「どーせ田島がレンに負けじと飲んだんだろ。」
 泉の言葉に田島が呻く。図星らしい。
「たじまー!おっはよー!」
 水谷が楽しげに大声を出して入ってくる。ぐぇっとベッドの中から声がする。
「田島!衝撃士への通達が入ってるぞ!」
 いつもなら憮然と入ってくる阿部が大声たてて入ってくる。再びぐぇっ
「レン、後どんくらいで田島が使えるようになる?」
 大声で花井が廊下から尋ねてくる。負けじとレンも返す。大きな声で。田島のすぐ傍で。

「あ と いちじ かん くら い!」

「あ、田島死んだ。」
「これ、労災申請しなくていいんだよね。」
「花井が珍しく田島にとどめを刺したな。」
「珍しい。何かいいことあるかも。」
 泉、栄口、阿部、水谷がそれぞれ意見を出す。それぞれ顔を見合わせて、とりあえず花井の方向に向けて、柏手2回。今年もいいことありますように。

 なぜオレを拝む!という怒鳴り声とレンの泣き声、それを聞きつけたフルメンバーの大笑い。

 今年も良い事、ありますように。

                            おしまい


「レン………オレ明日の除虫作業の時、間違えて誰かに衝撃波打つかも…治してくれな。」
「そ、そんなにひど い の?たじま く ん?」
「田島、そこでさりげなくレンを脅えさせるな!」
 泉の手刀も綺麗にキマり、田島は再び呻く事になる。

                           今度こそほんとにおしまい。




今年もよろしくお願いします。