それはレンが「ある事」に対し、非常に困っていた時に置いてあった。
これは?という質問に栄口はいつもの笑顔で答える。
答えは?
「ああ、それ。バット。田島のだね。」
ふぅ ん。とレンはそれをしげしげと眺めた。その後、巣山のパソコンを無断拝借し、色々調べ、何やら注文した後、地下にある西広工房にこもってしまった。
西広が大学から戻ってきて、自分の工房へ行った時に、たまにいるレンがまたがちゃがちゃとやりだしていたので「何作るの?」と尋ねてみた。答えは「ひ ひみ つ。」だった。
巣山が大学から戻ってきて、自室のパソコンがまたレンによって無断拝借されているのに気づいて、その履歴がきっちり消されていることと、プリンタにあった紙がかなりの枚数無くなっているのを知ると、栄口に「レン、今何やってる?」と尋ねた。答えは「知らないよ。」だった。
沖が大学から戻ってきて、西広が「少しこっちの工房使わせて〜」と来た時、またレンか?と尋ねた。答えは「それ以外ないだろ?」だった。
花井が大学から戻ってきて、レポートの手伝いをレンに頼もうと思ったらいつもいる場所にいないので、巣山に「レンはどこに行ってるんだ?」と聞いたところ、答えは「西広工房」だった。
水谷が大学から戻ってきて、「美味しいクッキー買ってきたけどレンは?」と2階の食堂に休憩しに来ていた西広に尋ねると答えは「オレのとこでおこもり」だった。
阿部が大学から戻ってきて、「おい、外でレンを待ってるヤツがいるけど。」と言った途端、玄関のドアが開く音がした。
「何かまたやりだしたのか?」と沖に尋ねると答えは「オレも分からない。」だった。
田島が部活から戻ってきて、「腹減ったー!」と言うと栄口の答えは「今日はサンマの唐揚げと揚げ出し豆腐、煮物だよ。」だった。
泉が部活から戻ってきて、ここにいるはずの一人がいないなーと思い、花井に「レンは?」と聞いたところ、答えは「そろそろ晩メシだし…西広工房にいるから呼んでこい。」だった。
ややあって、泉が楽しそうな顔をしてレンを連れてやってきて、晩ご飯が開始された。栄口の「いただきます。」答えは「いただきます。」だ。
泉は西広と沖にこっそりと話しかけた。答えは「了解。」だった。
西広は巣山にこっそりと話しかけた。答えは「なんだ、そうだったのか。」だった。
沖は栄口にこっそりと話しかけた。答えは「そうかー。初めてだもんね。」だった。
栄口は花井にこっそりと話しかけた。答えは「レポートは自力でやらねぇとな。」だった。
花井は水谷にこっそりと話しかけた。答えは「ならオレも色々準備しないと!」だった。
水谷は阿部に恐る恐る話しかけた。答えは「あー、そーか。」だった。
田島はレンに楽しげに話しかけた。答えは「い、いい よ。」だった。
田島がレンを連れて庭へと出ると、わーっと西広工房へと西広・沖・巣山が走る。
机の上に置いてあるプリントアウトされた紙と、レポート用紙に書かれたミミズののたくったような英語を三人寄ればなんとやらで必死に解読する。
「うわ、この配合……」
「特許モンじゃない?もしかして。」
「これを使うなんて…贅沢な……」
三人、嘆息。
「田島ー、やってるかー!」
泉の声に返答はない。実戦さながらの模擬戦闘が行われているのだ。
レンも田島も素手で渡り合っている、が、5回中5回、レンに投げ飛ばされたり、急所にぽん、と手を置かれていたりする。代わる代わる風呂を浴びに来た阿部と水谷もやってきて「水谷、お前もあと50回くらい投げ飛ばしてもらえりゃ頭良くなるかもな。」というと答えは「ありえないから!それ!」だった。
「お前ら〜!風呂!」
頭にタオルをかぶった花井が呼びに来て、今日はおしまい。
「レン!ながしっこしようぜ!」とずーるずーると田島が引きずっていく。答えは…ない。
「ちゃんとつかれよ!」と泉の怒鳴り声に田島が答えは「おーよ!ピッカピカにしてくらぁ。」だった。
自分をかねぇ、レンをかねぇ。とレンたちの下着を持ってきた栄口が呟いた。
レンは一週間、西広工房を占拠して、元を造り出して、その手順書を渡しながら西広と沖に「お願いします。」と言った。二人の答えは「了解。」だった。
西広と沖はそれをコピーすると、巣山に渡した。答えは「特許庁に申請するかどうするか…」だった。
水谷は花井を誘って「東急ハンズ行かない?」と誘った。理由を聞いた花井の答えは「いいぞ。」だった。
阿部は篠岡に連絡をとっていた。篠岡の答えは「もっちろん♪」だった。
栄口はキッチンの中大忙しだった。近くにいた泉に手伝わせた。答えは「しゃーねーか。」だった。
レンは田島が帰ってくるとすぐに「おて あわ せ おねがい し ます。」と言った。答えは「おっけー!」だった。
レンに通算77敗した所で阿部が降りてきて「お前ら、風呂入って食堂に来い。」と言った。答えは「はーい。」だった。
二人してほかほかになった所で、レンは田島に道を譲った。「田島くん はやく。」 答えは「?」。食堂のドアを開ける。
パンパンパーーーーン!
「へっ?」
「誕生日おめでとう!」
「おめっとさん!」
「おめでとう!」
ささ、と泉が席を勧める。座るといつもはいない席に篠岡まで座っている。で、自分の好物が満載のテーブルの中央にはケーキが。食堂は飾り付けられて、すごいことになっている。
「うぉーーー!今日、オレの誕生日!」
イヤッホゥ!と田島は背後にいたレンに抱きついて跳び上がる。レンは目を回している。
おいおい、コラ!等声がかかる中、田島はようやくレンを離して席につく。すると除虫屋のリーダーとなっている花井がコホンとわざとらしく咳払いしながら話す。
「今日は田島の誕生日だ。料理は栄口中心に泉。飾り付けはオレと水谷。阿部と篠岡はケーキ…言っておくが買ってきたヤツだ。二日酔いにならない程度に無礼講!」
栄口がビールを全員に渡す。無論レンにも……
『かんぱーい!』
ガン、ガン、と缶ビールが打ち付けあわされた。
「あ。」
食べている最中、レンは立ち上がって、どこだろ、どこだろ、ときょろきょろしだす。西広と沖と巣山が立ち上がって「一緒に渡していい?」と尋ねた。答えは「うん。」
「た たんじょうび ぷれぜん と。」
はい、と西広が手渡したそれ。手になじむ感触。リボンが縦結びなのはご愛敬だ。
「もしかして…バット?」
うわー、すんげー、今持ってるのと同じくらいの重さだしー。としげしげ見ていて気づく。
「……NISHIURA……?」
「お前の為にレンが金属を造って、それをオレと西広でバットにして…ってな。」
「だから、造ったのはニシウラ製。」
「すっげーーーー!」
「今度のオレの誕生日にも貰うかな?」と泉。
「あ、あと。」と紙袋を田島に渡す。これに対しては巣山はもとより、沖、西広、阿部、栄口が笑っている。
「…スリッパ?」
フツーのスリッパ。どうみても、スリッパ。しかし…片方のみ?
「田島の部屋専用スリッパ。」
耐えきれない、と栄口が大きく笑い出す。
「全体的に防菌、防カビ、防臭。裏は手入れも良い真っ平ら。持ちやすく、スナップがいい。」
きまじめそうに言ってる巣山も吹き出している。
「お前のトンデモ部屋に住み着いているリアルな虫退治専用スリッパだ。だから片方のみ。」
阿部がやはりとどめをさした。
田島とレンを除く全員が爆笑した。
「さ、さんきゅ…」
流石の田島もビミョーな顔をしていたが、レンの顔を見て、え?という顔になる。
「……本当に武器なんだ。」
沖と西広が頷く。今度は周囲がどよめく。
「除虫用のコーティングもしてあるから、武器として認められるよ。」
でもぷっ、と吹き出している。除虫作業中にスリッパ持ってぺっしんぺっしん叩いている姿………。
「うーん、なら、次回の通常除虫作業は、小さな虫ばっかのにしてみようか。」と篠岡がさらりと怖いことを言う。
全員の答えは『それだけは堪忍して下さい。』だった。
結局、全員浴びるように酒を飲み、次の日は全員休むはめとなった(栄口とレンは除く)。
「初めて誕生日を祝ってみて、楽しかった?」
栄口が片づけているのを手伝いながらレンの答えは「うん。」
それは良かった。と栄口は呻いているヤツらに「癒しの手」は使わなくていいからね。とレンに念を押した。
レンの答えは…………