除虫屋・ニシウラ
ニシウラの小旅行・3


<栄口・泉・田島・レン〉

 流石、と言ってはなんだが、約2名、いつものことながら暴走していた。
「栄口、レン頼む。ゴルァ!田島ぁぁぁ!」
 役割分担を2秒で終わらせた泉は、田島と手に手を取りなんだか何が入っているのか分からないビルに向かっている。さっきまで甘栗の試食をしていたばかりなのに、少し目を離した隙にもういない。
「こんな所に水族館あんだってー!」
 行ってみよみよ言っているが、レンは珍しく消極的。さもありなん。

 ぐー

 腹が鳴った。中華街のど真ん中、しかも昼。腹が減らないわけがない。
「なぁ、どこで食べるん?」
 田島がレンをちょっと見ると、栄口に尋ねる。泉も視線を栄口に向ける。期待の眼差しはレンのもの。
「うーん…回転飲茶はどうかな?」
 食べ放題だし。という言葉は途中でとぎれる。田島がまたレンの手を取って歩き出したのだ。
「早速行こうぜ!」
「だーかーら、お前らまだ行き先知らないだろ!」
 泉が怒ると田島があっちのほうを向き、レンはキョドる。そこを田島が「だんだん泉、阿部化してるよな。」とフォローにもならない事を言って泉を逆上させ、結局栄口がレンを引き取りにこにこと笑いながら怒ってた。当たり前だが、目は全く笑っていないけど。



 雑居ビルの2階へ入ったところで90分時間を移行させる。3人の健康優良児が時間制限ありでも食べ放題へ行ったのだ。栄口が「食べる前に飲む」を実践していたことをほっとして見ていた。
「くはーっ!食べた食べた。」
 何かオヤジ臭い言い方で腹さすりながら田島が道を歩く。左手にはレンの右手をしっかと握っている。
「で、どこ行くんだ?」
 栄口からもらったブレスケアを噛みながら、泉が尋ねる。右手は田島の襟をむんずと握っている。
「うーん。オレらってハイソ的な感覚はないから…中華街抜けると山下公園くらいしかないんだ…」
「行く!海!レンも行くよな!」
「う うん。」
 きゃいきゃいはしゃぎだす二人を見つつ、栄口はちょっと目に付く店を発見。やはり中華料理…を作るアイテムが置いてある。
「山下公園に先行ってる。」
 泉は栄口に言うと、わーっと田島とレンの中へ入っていき、そのまま三人楽しげに歩いていく。どこから見ても普通の中高生だ。
「若いねぇ。」
 彼らと0.04世紀ほどしか違わない栄口はそうのたもーた。


 18時桜木町駅前。

 全員桜木町駅前に落ち合う約束…が。

 いたのは花井と阿部と巣山と西広と沖のみだった。
「水谷は?」
 巣山の問いに花井がはぁ、と溜め息ついた。
「いなかった。誰かのメールに入れただろ。」
 阿部が阿呆だ、あいつはという目をしながら言った。あーナンパ。ナンパねぇ。と巣山と沖と西広が頷きあう。
「水谷が長距離恋愛なんてできんのかねぇ。」
「できないだろ?出来たら3万やっていいな。」
「わー、オレも今そう言おうとしてた。でも5万だった!」
「それ言えてる!」
「水谷今頃くしゃみしてるよ。」
「馬鹿だなぁ、水谷も。」
 巣山と沖と西広がぎゃーぎゃー言って笑いあう。
 笑いあってる中、レンと田島と栄口と泉がめいめい走り込んでくる。…というか、レンが気づいたら巣山の近くにいて、えぇっと驚いたところに田島と栄口が走り込んできた…が正解。
「レン…頼むから道を走って〜」
 息も絶え絶えに栄口が言う。みなとみらい方向から走ってきた………桜木町駅までは完全にひらけている。どうやって道以外の場所を走ってきたのか。全員がそう思いあっていた所で先に息が戻っていた泉が沖と話して「はぁ?水谷?オレ5万やってもいいぜ?ぜってー無理。」とゲラゲラ笑っている。「え?水谷ナンパ?」とすかさず田島が加わる。ぎゃいぎゃいわいわい。
「あー、五月蠅いし面倒だから、移動すっか。」
 花井がニットの帽子をかぶりながら全員に言う。
『晩飯!』
 泉と田島が声を揃えて言う。レンの腹がくぅぅと鳴る。栄口があんぐりと口を開けて見ている。あんだけ食べたのに!
「まぁ落ち着け。少しゃ横浜に来たんだから、楽しんでいってもいいだろ。」
 特にレンに。と言外に言う。それにはレンを除く全員が頷いた。

 ヒャラヒャラリーン

 その時、レンの携帯が鳴った。どうやらメールらしい。
「あ、さ、さっき、み 水谷く ん。」
「え、メール来てたのか?」
 栄口が尋ねる。いきなりやってきたのでキョドるレンに、泉がどうどうと落ち着かせている。
「き てた…疲れた か ら、お茶して くる… て。」
 はい、と携帯をいじって見せる。なるほど、確かに

『レンへ、オレ今ちょっとつかれたから花井たちとべつのところにいるけどへいきだから。お茶していけば治るから、言わないでいいよ 水谷』

 と入っている。レン用に漢字は余り使っていない。その気配りができるのであれば、阿部からクソミソ言われはしないだろうし、栄口からにこやかに笑ってない目で言われないだろうし。水谷の使い方は間違っている。と全員が思った。
「次のメールは誰だったんだ?」
 田島がわくわくといった顔で見る。
「み みずたに…」
 栄口がさっと携帯をいじる。全員が携帯をのぞき込む。

 出たメールは。

『落ち着いてそっち行くから、田島か泉にばんごはんどこだかきいて〜 水谷』

 レンを除く全員がぶははははははと笑い出した。流石の花井も大爆笑。失敗したんかー、失敗したんだー、ふられちゃったのねーやややんやん♪ふられちゃったのよぉやややんやん♪馬鹿め。馬鹿だねー。とめいめい言い出す始末。さっきから視線が痛い。
「と、とにかく水谷のメールは阿部か栄口がやっておけ。」
 うん。と二人が頷く。それを見て全員がまたゲラゲラ笑い出す。「同時でメール送ればいいよ!」と西広がさりげなく怖い事を言っている。それにまた全員がそうだそうだ言いながら笑う。
「食べる所は美味いトコならどこでもいーけどさ。観覧車乗ろうぜ!」
 田島がアレアレ!と指さしながら言う。もう片方の手は既にレンの手を握ってる。
「じゃあお前ら少し遊んでこい。オレたち色々見てるから。」
 わーい!と田島と泉が喜ぶ。レンは一人クエスチョンマークを飛ばしている。その左右の手を握って、泉と田島が走る。レンもそれにつられて走り出す。
「オレ、ちょっとどこかで休みたいや。」
「あ、オレも。」
 西広と沖がそれぞれ手を挙げる。武器士の店に行って、バスに乗ったがいいが殆ど休むヒマがなかったとの事。これは残った四人は頷く。
「じゃあ、途中まで行って、喫茶する所があったら休めばいいよ。…というか、オレも。」
 栄口がはーい。と手を挙げる。どうやらあの三人に完全に栄口を翻弄しまくったようだ。それに関しては残った三人も頷くしかなかった。


 19時半


「うまそー!いっただっきまーす!」
 田島が両手を合わせて、瞬間フォークとナイフを持つ。コンマ移動の速さだ。
 モモカンを含め11人。それぞれ4人と4人と3人に分かれて座った店は…無国籍料理。何やらアジアンテイストなのやら良く分からない料理が所狭しと並んでいる────田島と泉とレンと水谷だ。
 いつもは奥手だが、料理に関しては全くそれは取り払われるレンと、欠食児童の田島と泉にぽいっと置かれた水谷。ちなみに席移動は禁止となっている。大皿に乗った食べ物は、次々に三人に取られていく。水谷がフォークを出したところでそこにブツは…もう…ない。
「次何食う?」
 さっさとメニューを見て協議を始める三人。水谷は完全に蚊帳の外。わいわいと話し合っている間に、残っていたモノを一気に食べる。
「ならこれとこれとこれとこれー!」
 田島が指さしたものに他の二人が頷く。
「よっしゃ。すいませーん!」
 泉が手を挙げる。他の席の者たちは半分いっていない。ウエイトレスに泉がこれとこれとこれとこれ。と指さしている。
「なぁ、オレの食べるのは?」
「………?」
 水谷の言葉に首を傾げたのはレンだった。
「水谷く ん。 おなか いっぱ いだ って。阿部く んが。」

 あんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 目の前のレンに言うのは無理…というかダメ。隣の二人が黙っていないだろう。仕方がないので作戦を切り替えた。
「あ、すいません。ドリンクメニューください。」
 …人はそれを「やけ酒」という。

 会計をすませた全員は、すぐ傍にあるホテルへと移った。モモカンはシングルとして、他は全員ツイン…と思いきや。
「………泉、田島、レン。」
 巣山がやってきた。いきなりがばっと頭を下げる。
「ホテルの手違いで、シングル一つとツインが5つにするつもりが…シングル二つにツイン4つになってそのシングルに水谷放り込むから……その………」
 エキストラベッド入れるから……と巣山が続ける。返した声は…大歓声。
「三人でウノしようぜ!」
「コンビニあんだよな!買いだし行こうぜ!」
「ウ… ウヒッ」
「で、巣山、部屋どこ?」
 泉が手を出すところに三枚、カードキーを落とす。
「よっしゃ!遊ぶぞー!」
 三人、荷物が入った大きな袋を持って、エレベーターへと向かう。
「さっさと寝ろよー!明日は風呂だぞ!」
 おー!という声とともにエレベーターのドアが閉まる。
 何か良く分からないが、巣山はどっと疲れて溜め息をついた。
「溜め息はダメ…ってね。」
 栄口が隣に立つ。
「はぁ。」
 巣山が何とも言えない顔をすると、花井と阿部がさっさと行くのが視界に入る。
「まぁ、あいつらは大喜びなんだからいいんじゃない?」
 栄口はエレベーターに向かって歩き出す。つられ、巣山も歩き出す。
「ま、そういえばそうだな。」
 巣山は一つ息を整えると、部屋へと向かったのであった。