| 除虫屋・ニシウラ ニシウラの小旅行・2 |
〈阿部・巣山・水谷・花井〉
三人、再度電車に乗り、桜木町を目指す。
「除虫屋の横浜支部が桜木町にあるって、なんか千葉に東京ディズニーランドがあるみたいだね。」
どうしようもないことを水谷が言うと
「え?桜木町の一部は横浜駅がある西区と一緒だよ。」と巣山が地味にうんちくを漏らす。
「ということは横浜なんだー。」
へーふーん、と水谷が言う。
「目」の阿部と「結界士」の花井は横浜支部に報告に。巣山は横浜の情報屋と情報交換。水谷は他のメンバーの内容の濃さに嫌がってこっちにやってきた。…西広と沖のコンビによる電気的な話は全く分からないし、田島とレンのお守りは阿鼻叫喚が簡単に分かって怖かった。
そうこう言っている間に電車は桜木町に止まる。昼間だが冬休みのこの日は、子供連れも結構降りている。全員、大きな時計を見たり、様々な大きな建造物を見ている。
「えーっと、…………どのビル?」
目の前に現れた、まだ新しいようなビル群に水谷が恐る恐る後ろを振り向くと………
改札を出た他の三人はすでに反対方向へと歩き出す。なにかごちゃごちゃした、山があるほうへと。
「え、え、え?あっち?」
近代設備でー、ショッピングができてー、とかないの?と思いながら水谷が後を追う。
「なんだ、水谷、横浜支部知らないのか。」
花井が呆れたように追いついてきた水谷に言う。頷く水谷に巣山が頭を振りながら言う。
「水谷、桜木町はもともとこっちのほうが歴史が古いから。」
言って、場所を見ると「野毛」と書いてある。途中、右へと曲がって歩き出す。
「野毛の山の近くにあるんだよ。横浜支部。」
除虫屋の横浜の人もなんでみなとみらいにしないんだーと言ってるけど、移転費用とかかかるならその金額をこっちの福利厚生にまわせで結果こっちになってるみたい。と巣山が補足する。
「いいか?水谷。」
ここで阿部が口を開く。
「まぁ、ずっと着けてるバッチでオレらが「ニシウラ」だとはすぐに分かる。が、そんなん見てるのは興味津々なヤツだけだ。絶対に「癒し手」と「レン」の話はするな。」
どす黒いオーラ垂れ流しでおっしゃる阿部様。水谷はそれにこくこくこくと頷くしかなかった。
「オレと阿部は横浜支部にご挨拶と「緊急除虫作業」が入った場合にこっちも入れて良いという書類を出すだけだから。」
花井の言葉にまたえー、と水谷が言う。なんでバカンス(笑)に来ているのに仕事なの〜。という言葉に
「休み中に緊急が入ると普通の緊急の2倍だよ?」と巣山が身もフタもない事を言う。親指と人差し指の先端をくっつけて、丸の形にしながら。
「うっそん。」
水谷が叫ぶと、「お、あったあった。」と水谷基本スルーの阿部が言った。目の前には白いビル。敷地は広く、4階建てである。
「相変わらず、横浜は一番虫の被害が多いからな。」
「日本で一番除虫屋が多いんだよ。」
と花井と巣山。
「まぁ、神奈川が除虫屋が日本一多いし…しかも山あり海ありの場所だから。支部が色々あんだよ。鎌倉支部とか。湘南とか西湘支部とか。」
「横浜の除虫屋は、静岡とも仲がいいから、温泉旅行とか簡単に行っちゃうみたいだし。」
築20年は超えている白いビルの中に四人は入っていく。花井と巣山の言葉に水谷がへーと頷く。その頭の悪い返答に花井と巣山は沈黙する。阿部は無視。
「水谷、もう少し勉強しなよ。」
巣山、既に呆れ顔。
「こういう勉強は嫌いだなー。お、「鷹の目」かな?おーい。」
ここでナンパかよ!と三人のツッコミは無視して、話の中に入り…すぐにきゃいきゃいと話し出す。
「…あいつ、情報屋にも向いてるんじゃね?」
阿部の言葉に、巣山が苦笑しながらうんうんと頷いた。
阿部と花井は3階に行くということで、4階の情報屋スペースに行く巣山とはエレベーターの中で別れる。
「4階にお茶できる所があるから、そこで待ち合わせ、ということで。オレも1時間ほどで出てくると思うから。」
「ああ。」「おお。」という二人の言葉が、3階の廊下に響いた。
「さーって、横浜の除虫屋の動向がどうなってるか。教えてもらおっかー。」
チーンという音がして、エレベーターが巣山を吐きだし、巣山は「情報屋スペース」と書かれた部屋へと入っていった。
〈西広・沖〉
「まずはー、ジャンク屋?」
「そりゃまぁ、そうだろう?」
車は偶然にも、そのジャンク屋がある場所近くに停まっていた。
「昔の半分だってー。」
沖の愚痴に西広が「仕方がないよ。」と漏らす。
「武器士」の二人は、この後横浜の除虫屋の武器士専門店へと行くことにしている。東京と遜色無しと言われているだけに、非常に楽しみだ。やはりネットとかで購入して、後で思っていた感触と違うとちょっと機嫌があまりよろしくない。目で見て、決める。武器士の役割は結構広範囲なので様々な物を扱っている「武器士専門店」というのは、本当に有り難い存在なのだ。ただし、一般人は入れず、入る時には「除虫屋バッチ」と「武器士バッチ」の提示を求められ、それが承認されない限り入れない仕組みとなっている。これはニシウラのある埼玉でも同じ事で、二人とも慣れたものだが、やはり東京と横浜には最新鋭のモノが入りやすい……横浜は日本で一番除虫屋が多いから……「お取り寄せ」で2週間も待たなくてはならない埼玉の武器士とはやはり違う。試供品だってあるし。
二人はまずは、とおんぼろビルの2階に入る。
「わ。本当に閉まってる。」
「色々波があったんだ。」
二人は言い合うと、電子パーツが置いてある店へと入っていく。小さな箱に、ダイオードや抵抗やらがおもちゃのようにザラザラと置いてある。ガラス棚の中には今は懐かし4極と6極の真空管が置いてある。最新鋭のモノしかあまり知らないレンを連れてきても面白かったかもしれない。ただし武器士専用の店には入れないのでどうしようもなかったけど。
「何でだろう。」
ぼそりと沖が一つの発振子を手に取りながら呟く。
「ん?どうしたの?」
こちらもレンチやなにやら工具を見ている西広が言う。
「こういう所に来ると、やけに落ち着くっていうのは。」
電子器具扱っているのに、やけにほこりくさいとか、なんとか含めて。
「あー、なんかそれ分かる。」
あ、この型のネジがある。しかもこの型…うわぁ、嬉しい。と西広が喜びながら言う。
「なんか…小さい頃、父さんに連れてきて貰ったような…」
「うんうん。」
金額は安くはない。けど品物が目の前にある。ネットでは味わえないそれ。それだけで嬉しい。
二人はお買いものをすませ、少し大きな道を左に曲がり、歩く。
「地蔵坂の上にあるんだっけ?」
「そう。かなり急勾配なんだよね。」
二人話しながら平坦な道を歩く。するとすぐに坂が始まる。本当にいきなり。
「…なだらかで始まるんじゃなくて、本当に急な坂なんだね。」
「横浜の坂は、結構多いみたいだよ。」
はぁ、と二人で溜め息をついて、てくてくと歩き出した。
「えー、こんな狭い道でバス通る?」
普通に市営バスが通っている姿に沖が驚く。
「うん。ここ、ちゃんとバス通ってるんだよ。山の上を通って、降りていくんだ。」
道幅が狭いから、バス専用の信号があるし。と西広は吐息荒く歩く。本当に急勾配。
「そうなん…だ……ここの反対側って、まだアメリカに接収された…ままなんだろ?」
二人ともアウトドアというよりインドアな仕事についている為、この急勾配すぎる坂はかなり苦労している。
「そ。横浜の一等……地は接収……されたまま……な所、多いん……だよ。」
西広がもう既に息があがってへーふー言っている。沖も同様。
地蔵坂の終点にあたる地蔵が見えた瞬間、二人の顔にほっとした表情が浮かんだのは当たり前。