| 除虫屋・ニシウラ外伝 パンプキン・パイと シナモン・ティー |
※このお話は、さだまさし氏の同名の名曲をお聞きしてから読まれると激しくネタバレになります(笑)。
新しくはないがそこまで古くないビルの中に、その除虫屋は入っている。全員がご近所で、しかも農業をやっている為、昼間集まることが難しい。そういうことで、自分らの仕事をするため、金のモトとなる緊急除虫作業などやらない除虫屋がある。
除虫屋「サキタマ」。
今日もその建物からわぁぁぁぁと泣く声が響き渡る。ご近所さんにも、道路を歩いている方々にもちょっと迷惑な大声である。
悩みに悩んだ監督が、とうとう本人の両親と話し合い、結果。
実家ではなく、農業試験場に週3回通っている市原を呼んで。
「悪いと思うんだけど…………」
半年間、喫茶店でアルバイト。
そりゃあオレはサキタマ唯一の「目」ですよ?確かに全員の能力知ってますよ?でもあの恐るべき「爆破士」の大地と組んで喫茶店でアルバイトなんてできると思いますか?その前に大地にコーヒー淹れられると思います?ウェイターできると思います?3回のうち2回は泣きますよええ確定事項です知ってるでしょう監督あいつの操縦難しいのオレよかタイさんのほうがうまいですってえ?タイさんとこの実験農場の試験野菜の収穫それは…確かに無理ですね
他のヤツは…これから時期ですね…収穫の。
市原 豊 21歳。目から何かがこぼれ落ちそうになるのを我慢していた。
バイト先の喫茶店は県立図書館に近い、ひなびた場所にある。だが、2時半から4時くらいまではほぼ全席埋まる。ご近所に高校があって、きゃあきゃあと黄色い声あげて何やら窓ガラスに書いていくのだ。
それ専用のふきんがあるくらいだからその頻度は高いと言ってよいだろう。そして彼女たちが決まって注文するのは、かぼちゃパイとシナモンティーなのだ。仕入れてくるシナモンスティックの量は馬鹿にならないし、単価も結構高い。ついでに手間もかかる。この喫茶店でも高い紅茶なのに注文が入る。最初市原は理由がわからなかったが、女子どもの話を聞いてくうちに、この喫茶店にゲン担ぎに来ているらしいことがわかった。
シナモンの枝でガラスに3度、好きな相手の名前を書くと、結ばれるのよ!
ああ、だからか。とこの意味不明な文字の羅列は。と市原はため息をつきながら少し間を開けてガラスを磨く。座った女子がかぼちゃパイとシナモンティーを注文する。「かしこまりました。」と言いながらこっそりため息。
「大地!シナモンティー4つ!」
「わかりました!」
声大きいって……
オレ、このままうつ病になりそ。とか思いながらも、レジで待っている女子どもの会計をするためにそっちへと向かった。
大地はウェイターは無理だった。さすがにマスターも無理だろうということで、紅茶の淹れ方を徹底的に仕込んだ。おかげさまで紅茶とかぼちゃパイの大部分は大地が作っている。これは正直驚いた。
そしてマスターから聞いた一日おきの報告。
どうやら大地が気になっている相手がいるということであった。
あーなんでこいつがそんなことになってるんだろうねオレなんか全くガラスに書かれたことないけどあいつタッパあるから女子うけはいいんだよなでもあいつが気になってるのってどんなヤツなのか見てみたいけど怖いあいつの女の好みなんて知りたくないけど知りたいようなうわなんかビミョーだよオレ!
市原 豊 21歳。実は大地はある事を知っていたことを全く知ってはいなかった。
行くか?
行く!
行く!
俺らは頷きあうと、カバンを持ってささっと教室を抜け出る。抜け道を使って学校から出る。こういう時私服の高校は良かったと思う瞬間だ。俺らは頷きあうと、いつもの喫茶店へと向かう。
あの引っ込み思案というか間抜けというか…フクザツな性格のマスターの弟子みたいなのに会いに。
あと、ちょっぴしありえないモノを見に。
足は速く、二丁目の交差点から17軒目で時々走って2分と15秒
平均112.3歩目に我等のコーヒー・ベーカリーへと向かったのだった。
大地というその弟子(20歳)は、本人の話によるとこの性格の矯正のために、半年間アルバイトをするらしい。最初に来た頃は、コーヒーはまるで泥のようだったが、ここんとこから急に美味しくなっている。たまに泣きだすのが玉にきずだけど、かっちり真面目は嫌いになれなかった。
そんなヤツがここんとこ、一生懸命コーヒーを淹れるようになった理由と、俺らが応援していることがもう少しで現れる。
「11時半…もうすぐだな。」
言った途端、カランコロンとカウベルが鳴る。
中坊くらいかどうかわからないけど、また分厚い本を持ってやってくる。実は女なのか男なのかわからない。大地に聞いても「きいたことない」という笑えるお返事。でも、注文されたコーヒーとかぼちゃパイで、かぼちゃパイの用意をしながらコーヒーを淹れて、いつものゴムの木の向こう側に座るそいつに渡すとちらりちらりと見ている大地を見ると、なんか応援したくなるじゃんか。なぁ、そうだろ?そいつが気になってしょーがねーのに話しかけられないんだぜ?こっちがもうモヤモヤーって感じで。それがまた癖になっちゃって。
俺らはいつも授業を抜け出して、いつ大地が話しかけるかどうか、見ているというわけだ。
女か男かわからないけど、きっと女だという希望を込めて、ミス・パンプキンとひそかに名付けられた彼女はコーヒーかシナモンティー、そしてかぼちゃパイを注文すると、いそいそと本を読みだす。タイトルはちらりと見えるが、見た瞬間に内容はどんなもんであるかを放棄した。英語の本をそんなに早く読めるヤツは生まれてこのかた見たことない。そして大地がどんなアクションを起こすか、キョウミシンシンだった。
本を読んで、途中パイをつつきながらコーヒーを飲む。背伸びしているわけでなく、普通にコーヒーが飲める中坊。それもそれですごいが、ちらりちらりと見る大地…。
その姿を見ながら俺たちはいつも笑いを隠すのをこらえないといけなかった。
大地が喫茶店に来るのは毎日だけど、お守が一日置きにやってくる。だからお守がいない時をねらって、大地を見守っている。近所の高校に通う男子高校生。授業よりも追試よりも、こっちのほうが気になってしょうがない。だからやっぱり授業を抜け出して、ここの喫茶店に通っている。
大地の初恋(?)は進展しているようで実は進展していない。
俺らが一生懸命励まして、彼女に言ってみろほれ言ってみろとけしかけたら………言ったよ。確かに言ったよ。
「毎度 ありがとう!」
あちゃーと俺らは全員頭を抱えてしまった。んでもって、大地はオレは汚れた(以下略)といいながら、厨房の奥へとひっこんでしまった。照れ屋というか何というか……とりあえず、とってもなんともいえない気分になってしまった。
もうこうなったらオレらでどうにかするしかない!
オレらの心は今、ひとつになっていた。大地に告白をさせてやるんだ!
テストが近いのに学校を抜け出して、いつもならコーヒーを頼むところをシナモンティーなるものを注文して、大地が見えない所にシナモンの枝でやはりまじないだから、と三回書く。
11時に早くならないか。オレたちは2時間目が終わって、店が開いてからずっといるんだ。小腹が減ったので、これまた成就するようにとかぼちゃパイを頼んだ。
へー、かぼちゃって煮つけとかしか知らなかったので、洋菓子で出てくるとこんな味がするのか。と感心しきりだったオレらは、カウベルが鳴る音を聞き、さっと入口を見る……
……ミス・パンプキンだ!
いつものゴムの木の向こう側に座った。よし。作戦実行!
やはり言いだしっぺであるオレが立ち上がった。
手に人人人と書いてぺろっとなめた。
異様にしょっぱかった。
オレは茶色の髪の毛をした彼女?に近寄った。そして、テーブルとかで隠しておいた文章を彼女に見せた。
大地が怪訝な顔をしている。オレは大地にむけて、唇に指を立てて「しーっ」とやった。うろたえているようだが無視。
彼女?はオレらが一生懸命書いた文章を読んでいた。
【いつもここに座って本を読んでいるあなたへ。
ここの美味いコーヒーいれているヤツ(名前は大地)が、あなたの事が非常に気になっているようです。どうか一言かけてください】
オレはその文章を彼女?に見せた。すると、さっと大地をじろじろと見ると「…サキタマ?」と一言言った。
「さ、サキタマの爆破士の大地ですっ」
大地が言った!大地が言った!内容は良く分からないけど、会話が成立した!オレは友人たちにいえいと親指を立てた。
立てた瞬間、大地が顔を真っ赤にしながら言ったのだ。
「癒し手特例法にのっとって、契約してください!」
ぺこっと頭が地面につきそうな勢いで彼女?に頭を下げた。オレらはきょとん。全員きょとん。
その中で一番最初に反応が戻ったのは彼女?だった。ばさっと持っている本を抱えなおすと、信じられない早さで店を出て行ってしまったのだ。
大地ぽかーん。マスターぽかーん。そして、オレたちもぽかーん。
ぽかーんとした後のあのどうして良いかわからない空気というのが喫茶店内に充満してしまい、オレらは立場をなくしてひたすらうろたえてしまったのだった。
間もなくして、半年の修行(?)を終えて、大地はバイトを辞めたようだ。ミス・パンプキンはあまり来なくなってしまった。代わりにヤローどもが雁首そろえて待つようになった。売上貢献したからか、マスターはオレらに色々としてくれたし、また、かぼちゃパイの美味しさがだんだんとわかるようになってきた。
オレらにもミス・パンプキンほしいよなー。
はいはい、その前に明日から補習だからな。
今は昼休みだけど、オレらの進む道には補習というものが待っていた。そらあれだけ授業を抜け出したんだ。山のような補習は覚悟はしてたさ。あと…2年の田島と3年の泉とその保護者?みたいなのの怒りと。
彼女?のことを訊こうとしたんだけど、やめておいた。なんか話してはいけないような気がしたんだ。
大地が持っていたピンズみたいなものを、男たちはみんなつけていて、全員が「癒し手」「いやして」と言っているのだ。
今度どっかであったら、隣にミス・パンプキンがいたら、盛大に笑ってやろう。
オレらは、シナモン・ティーで乾杯したのだった。
もしもし?レン?どした?
はぁ?喫茶店でサキタマの大地ってヤツから癒し手特例法の契約を頼まれた?泉、わかるか?
泉にもわからないことはオレもわかんねぇ。
学校の近くまで来たんだよな?それなら今、オレと泉が行くから。栄口も応援に呼ぶから。
泣くなよ!ぜーーーーーーったい泣くなよ?お前が悪いわけじゃないからな?そこで本読んで待っていろ?
いいな?
あ、もしもし?栄口?レンが癒し手特例法の契約を頼まれたんだって。喫茶店の大地ってヤツ…えーっとサキイカ…いやいやサキタマのヤツがいたらしいんだ。すぐに来てくれないか?書類とか一式持っていく?サキタマに連絡してから来る。できるだけ早くきてくれ。オレらはレンを迎えに行くから。ああ。田島もいるから。
除虫屋ニシウラといったら、日本でも数名しかいない「癒し手」を持つ、この頃耳にするようになった小さな除虫屋である。そこから電話がかかってきて、栄口と名乗った男はタイさんに向かって色々と言ったらしい。
10分ほど話した後、印鑑やら書類やらさまざまなものを持って、「ニシウラに行ってくる。大地が癒し手特例法の契約を本人に頼んだらしい。
自分も同席することを伝えると、オレも慌てて準備した。癒し手…あの喫茶店にそんなのいたんだ。
市原 豊 21歳。 オレは今日だけ大地を見なおしたのだった。
契約の相談はタイさんとオレと、ニシウラの空撃士と「目」と相談することになった。大地は連れてこなかった。なんせぽかーんとしてた後、はっと意識が戻った時、わんわんわんとおお泣きしたらしい。今は自宅に戻って呆然としているとの事だ。
ま、そんな状態でも言えたお前は偉い。明日以降は知らないけどな。
こうして、除虫屋サキタマは、癒し手特例法の契約第1番目に入ることができたのだった。
やはり、大地がいねーと、サキタマは成り立たねぇな、と思う、市原 豊(21)だった……くっそぉ!
大地良いよ。良すぎるよ。なお、(21)で思わずロリと読んだあなた。………私は謙吾受です(別ジャンルの話。わっはっはっ)