普通の一日≪除虫屋ニシウラ編≫


ジリリリリリリ……
 目覚まし時計が鳴ると、栄口がゆっくりと起き出す。
「今日もいい天気そうだね。」
 パジャマを脱いで、さっさと私服に着替えると、部屋から洗面所を経由し、キッチンへと移動する。
 6時半。これが一番早い除虫屋ニシウラの時間である。
 ご飯は昨日寝る前に予約をしておいたので、あと15分で炊きあがる。朝から7合炊きはフルで炊飯を行っている。全員若い男子なのだ。いくらカロリーがあっても週に1度とかの体力と精神力を使う仕事をしていたら、あっという間になくなってしまう。しかもそのうち二人はまだ高校生。もう一人は学校すら行っていないものの、まだ中学生レベルだ。

 ぴっぽろぱろれーん♪

 炊飯器が炊けた事を知らせる音を伝えてくる。その時ぴったりに。

 かちゃ。

 キッチンのドアが開く。この館の中で二番目に早い目覚めの者が来たのだ。
「おはよう。レン。良く寝られた?」
「お はよう。よ よく、寝られ たよ!」
 レンの格好は今の時期にしては薄着の格好。これから「少し」運動するのだ。その少しは自分たちには到底太刀打ちできないハードなものであるけど。
「朝ご飯は7時半だから、それまでに帰ってくる事。」
「は い!」
 言って、レンはドアを閉める。玄関を開ける音がしない代わりに結界を軽く揺らした感触がする。また部屋の中に靴を入れておいて、窓から出て行ったのだろう。注意するところかどうかは後々考えていくことにして、まだ保留にしておいている。戻ってくるのは玄関もしくは1階の勝手口から。
「今日はベーコンエッグにアジでいいかな?」
 冷蔵庫の中を確認しながらてきぱきと準備を始める。パン派とご飯派に分かれるニシウラの者たち。今日はお手軽なメニューにしてしまう。ただし、コーヒーを淹れるのは大抵その次に起きてくる沖、もしくは花井に任せてある。配膳に関してはその次と次あたりにまわす。そうでもしないと朝ごはんと弁当の時間に間に合わないのだ。高校生はともかく、大学生からはきちんと手間代を徴収している。ここいらは抜け目ない栄口である。
 だが時計はまだ7時前。他の者が起き出してくるのは、まだまだ先である。
 レンが戻ってくる頃には、全員が起きている(もしくは叩き起こされている)状態なので、一旦部屋に戻り、服を持って1階の風呂で軽くシャワーを浴びて戻ってくると、ほぼ8割のメンバーが席についてわいのわいのがやがやとしているのだ。残り2割は自分の今朝食べる和食or洋食メニューを用意している。栄口は料理は作るが、あとは本人任せにしてある。無論、レンもそれに入るのだが、栄口の次に起きてきたので、和食か洋食かの選択は栄口を除き一番最初に行える人物である。
「おはよー!レン!」
「お はよう!」
 一寸の狂いもないレンの帰りの時間をいつしか「レンの時間」と呼ぶようになった。曰く「この時間までに食卓に来ないと朝食抜き」という不文律が成されてきたからである。
 おはようの交換をして、レンが席につくと、待ってましたと言わんばかりに新聞を持った阿部がやってくる。阿部は起きると1階にきた新聞を取り、さっさと朝食の準備をすると、2階のテレビの部屋で7時のニュースを見ることにしているので、こっちも時間は基本決まっている。
 残る不安要素は三人だが、今日も叩き起こされた。田島と水谷と……巣山である。
 巣山に関しては「情報屋」として夜遅くまで情報収集にあたっている時もあるので、朝食がずれる場合がある。大抵は西広か沖が起こしに行って、2度起こして無理なら朝食をずらすという事になっている。それだけ必要な情報を集めて、夕食時に全員に通達することが…たまに携帯電話で連絡が入ることもあったりする。それくらい譲歩しても良いではないかというのが栄口の理論であり、全員の総意である。
 全員が配膳を終わらせて席につく。花井をガン見しているのは仕方がない。花井には役目があるのだ。志賀から教わった除虫の基本である肉体と精神を鍛えるための……
 花井がすう、と息を吸う。そうすると花井から視線がそれて、めいめいの食事に注がれる。
「うまそう!」
『うまそう!』
『いただきます!』
 す、の所で田島の箸が既に伸びているが気にしない。全員が貪るように食べているのだ。食べ始めて3分で田島が2杯目のおかわりで席をたつ。その30秒後に泉が席を立つ……という間にご飯はどんどん姿を消していく。
「田島、泉、お弁当。」
 栄口がさっと立ち上がって、二人分のでかい弁当を渡す。
「ありがとな、栄口。」
「栄口、ありがとう。」
 田島と泉はめいめい礼を言うとまた食事にありつく。
「うっそん。もうご飯ないよー!」
「あ、最後オレとレンで食べた。」
 沖が言って水谷ががくーんとしょげる。レンはあたふたするが巣山に「いつものことだ。」と諭される。
 食べ終わった者から食器を水につけて、めいめいの時間となる。高校生組と大学生1限目がある者の登校だ。
「いってきまーす!」
「いってきます!」
 まずは高校生組。続いて1限目組。今日は花井と阿部と西広と沖らしい。
 レンは慣れない手つきで食器を軽く洗っては食洗機の中に入れている。残った巣山と水谷は一旦部屋に帰る。栄口は食卓の残り物を手際よく冷蔵庫にしまいながら、レンが食洗機にきちんとしまえたかどうか確認。食洗機が終わったレンは布巾を持って食卓を拭いて、その間に栄口が掃除機の支度をしてくる。
「本当にレンが手伝ってくれるおかげで楽になったよ。」
 今度エプロン買ってあげるね。とは栄口最大の賛辞である。
「ウヒ。」
 レンも手伝いができるということでまんざらではないようである。
 二人が掃除機をかけ、終了する頃はBSで推理が始まる。そうなるとレンと栄口はテレビの部屋でお茶と茶菓子を持ってテレビを見る。2限目がある巣山と水谷は小さな声で「いってきます。」と言いながら出かけてくる。

 昼はいつも簡単な食事。この頃レンがお茶漬けに凝っている。
「おシャケ様?お茶漬けサラサラ?」
「お シャケ様。」
 今日のお昼はおシャケ様の振りかけにお茶漬けとなった。
 昼ご飯がすむと、2時の推理まではレンの勉強時間。数学、科学、物理や世界史の一部などは分かっているのだが、国語と古典、日本史に関しては壊滅的である。
 漢字の読み書きにドリルと漢和辞書がすっかりオトモダチになったレンに、栄口が色々と教えている。一週間に一度、2限までしかない西広からテストが出されるので、そこまではきっちりと覚えておかないとテレビの時間を減らされたり、工房に行く事を禁じられたりする。テレビで色々と覚えているレンにとっては死活問題だ。
「ここの読みは?」
「う………」
 今のところ、漢字は小学校4年。もうすぐで5年に入るところ。
 古典に入るまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 2時になるとまたテレビの部屋に移動して、違うチャンネルの推理を見る。その時栄口が昼寝を始めたら、レンは半々の確立で地下の「工房」に降りて何やら色々と実験を行う。
 レンが昔の仕事で稼いだ金で何やらオモシロオカシイモノを通販で購入して、それをさらに改造する為、レンが作ったものは一度西広か沖に見せることになっていて、それまでは工房から出していけない事になった。
 銀玉鉄砲のようなものが殺傷能力のある拳銃になっていた時には流石に地下から出してはいけないとモモカンを含め全員から言われたのだ。
「レンの使用禁止物入れ」の鍵は、沖と西広とモモカンが持っている事を全員が知っている。

 夕方になってくると、ぼちぼちと大学生組が戻ってくる。今日は水谷と西広がゼミのコンパ。沖が夕食の手伝いを言い出してきたので栄口はほくほくしながら夕食の準備にとりかかる。
 朝が魚だったので、夜は肉…鶏肉にしよう。と冷蔵庫をあさり、全員分の食材を準備して、下ごしらえを始める。
「レン……またすごいものを作ったね……これはモモカンと協議だよ。」
 地下から沖が出てくる。レンはしゅーんとしている。どうやらまたトンデモアイテムを作ってしまったようだ。苦笑しながらフライパンを握る栄口。米とぎを沖に頼んで、レンは食卓を拭く。
 高校生組は大会が近いので、夜が遅いので先に始めることになっている。今日は花井がいるのでいつもの「うまそう!」「いただきます!」を行って夕食は人数がばらばらの状態で始まる。今日の晩ご飯はチキンソテーだ。付け合わせの山盛りのマッシュポテトとやたらと右手を振る沖。
 どうやら非常に体力のいる仕事だったらしい。と全員が悟る。
 食べ終わったら、食器は軽くすすいでめいめいが食洗機の中へ。最後に来たのは高校生二人。風呂に先に行かせた後がっつりかっこんで、勉強のべの字もせずに寝る支度。レンは眠いのか、高校生組と一緒にあくびしている。夕食をとるものとテレビを見る者、自由時間を過ごし、自分の部屋へ戻って休む。栄口は23時まで待つと、食洗機を動かし、明日の朝の準備を始める。明日は買い物だなぁとか冷蔵庫の中を確認して、何が足りないかメモに書き足していく。巣山が米とぎを申し出てくれたので頼むことにして、高校生とレンを自室に戻るようご案内。おやすみーの挨拶の交換の後、若者から先に眠りについていく。
 全て終わると、栄口はビールを1缶あける。その時いた大学生組もビールをあけてわいわいがやがや。そして眠くなった所で部屋に帰っていく。栄口も0時を基本として眠ることにしている。55分になった所で席を立って、缶の処置を頼むと自室へと戻る。巣山はこれからこの近くの除虫屋の情報屋の連絡チャットがあるらしい。明日の朝は難しい旨を言ってくる。その言葉に了承して巣山と別れ、部屋へ戻り、タイマーをセットしてパジャマに着替えてベッドへと戻る。

除虫作業がない日が一番忙しい、栄口とレンの一日なのである。


終わり

除虫屋外伝も増えたなぁ(' ' )トオイメ