次に西広が目を覚ました時、目の前に顔があった。
「へぁ?」
 寝ぼけ眼から急速に意識を戻すと、目の前にいたのは田島だった。
「よ、はよ!」
「お…はよう」
 田島は点滴の架台がついた車椅子に座っていた。
「田島、怪我…」
「おお!ハラキリゴクモン!」
 看護師さんに連れてきてもらったと笑顔で話す。嘘だ!とすぐにつっこむと、田島は笑うだけだった。図星らしい。
「西広も良く寝られたか?」
 う、うん。といつもと変わらない田島に西広は漸く笑みを見せた。
「ごめんな。役にたたなくて…」
「それナシ。」
 西広があっという間に表情を曇らせて謝罪の言葉を途中で遮った。
「オレだってレンに謝罪してぇよ。何てったって人質になっちまったんだから。」
 田島の言葉が胸を刺す。
「でもな。」
 田島は続ける。
「レンに謝ることは必要だと思うし、礼を言うのは当たり前だと思う。そうだろ?」
 うん。と西広は頷く。
「でも土下座とかナシ。オレらは同じ除虫屋なんだから!」

 同じ除虫屋だから…

 西広の胸にその言葉がじんわりと広がる。

「除虫屋だってヒトだ。しかもレンだ。土下座でもしてみろ。タイトウなタチバじゃなくなるだろ?」
 言われてみて気付く。正当な立場。
「昔のレンには戻ってほしいとは思わないし、しちゃいけないんだと思うんだ。」
 違うか?と訊かれ「そうだね。」と答える。
「ありがとう、田島。」
「どういたしまして。」
 二人で笑いあうと、ドアが開いた。
「たーじーまー!」
 怒り100倍という感じな花井が入ってくる。頭から湯気が出ているのは気のせいだろう。きっと。
「看護師が探してると来てみたら…まだ絶対安静だろーが!」
 殴れるものなら殴りたい。阿部なら確実にウメボシか殴るかの二者選択だったろう。花井の表情からそこまで読み取れて、西広は思わず吹き出した。
「にーしーひーろー」
 すっかり呆れ顔の花井に笑いながら悪い悪いと謝って、それから「オレらを助けてくれてありがとう。」を言った。
「ま、まあ。同じ仲間だし。西広いないと単位落とすヤツいるし…」
 ぶつぶつと呟くように言った後「あー」とか「うー」とか言った後、「助かって良かったな。」と言った。
「花井、耳赤い。」
「るっせぇ!」
 首から下を結界で瞬時に覆った後に、ぱしーんと田島の頭をはたいたのであった。
「はないー、怪我人だぞー」
「そのために結界をはった。ほれ、戻るぞ。」
 へいへいと言って花井が車椅子を押す。
「またなー!」
 包帯が痛々しい右手で手を振られ、振り返ることができない田島に手をふりかえしながら「またね。」と言った。
 吹っ切れた声で。

 田島を除く全員が、夕方までに目を覚まし、医師と研究者の許可のもと、退院していった。
 余談だが、バイクを現場に置いてきてしまった佐倉はいつものペースで大泣きすると、市原の助言のもと、現場までニシウラのバンで送ってもらうことになった。
「栄口…その…」
「全部言わなくていいよ。住所教えて。」

 市原には栄口が天使に見えた!!

 「ありがとう。ありがとう。」と何度も礼を言っている市原を何も知らないニシウラの者たちはクエスチョンマークを顔に浮かべていた。

 田島は全治2ヶ月と診断された。レンは一切不明である。ただ、最初の癒し手の眠りから幾度か眠りを経験しているが、少しずつ眠りの時間が少なくなっていることがニシウラ、医師、そして研究者たちを喜ばしていた。
 今のレンは、通常の膜より少しだけ濃い色のまま、眠りについている。病院管轄の結界士と空撃士に護られ、ゆっくりと眠っている。今回、関係した除虫屋らは…ミホシと佐倉を除く…、田島の退院が先か、レンの覚醒が先か、賭けが始まった。胴元はこういう時には隙がない、阿部である。
 今のところ、五分五分てところか。と阿部がニヤリと笑う。
「さあ!花井くん!阿部くん!書類の作成よ!」
 こんもりと盛られた書類の山を見て、二人は怖じ気づいた。
「オレも手伝うよ。」
 苦笑しながら挙手してくれた西広が、二人には天使に見えた!!

 こうして、大事件のほとんどが幕を閉じたのであった。

いろいろと完了してみました。文が少ないのは堪忍。

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