| 市原はがっつり緊張していた。このゆるやかなスロープを降りてくるのは除虫屋でもほとんどいない癒し手なのだ。ニシウラにくる前にもう一度ざっと癒し手特例法の本を読んだが…その、癒し手の眠りに関しては絶対に動かしてはならない。と書かれていた。ニシウラの結界士と空撃士は慣れているだろう。だが、こちらのレベルはこのメンバーの中では最低で、こんな大役が務まるのか、はっきり言って不安だった。 警察と救急車が到着する。除虫屋専用のそれをすぐ脇に着けてもらい、合図をインカムで送る。花井、栄口と友達少ない君(名前忘れた)が了解と返ってくる。 さあ。勝負。 市原は柔らかな羽毛を想像しながら、それに負けないくらいの柔らかい空気のクッションを作りあげた。 「花井!タイミング合わせて!」 「分かってる!」 先にレン、次に田島を送り出すことになり、手間は二倍以上に膨れあがった。 無論、緊張も、である。 二人して手をあげている姿は何も知らない人が見たら滑稽に映るかもしれないが、本人も、他の除虫屋の面々も至って真面目である。 「いくぞ!」 「了解!」 阿部が市原に指示を出した。 意識のない者含めて4人が高瀬の作ったスロープに乗った。滑るのかと思いきや、小さいながら滑り止めがついている。流石高レベル。余念がない。 それでも滑るものは滑る。花井と栄口は座り込んで二人の維持にあたる。 「あの市原っていうの、本人が言ってるよかレベル高くないか?」 「オレもそう思う。」 スロープの終点で待っている空気のクッションは見事なものである。 「市原、制御準備!」 「あと10秒!」 「田島を横にしたらレンがくるから。呼吸を合わせろ!」 「おお!」 田島をくるんだ結界がクッションに包まれ、少々急ブレーキではあるものの、左側に沿って停止。大丈夫。次が本番。と栄口がそっとレンの入った結界をクッションに入れた。 「ふっ………」 市原も細心の注意を払い、緩やかに止めていく。 完全に止まり、クッションを終了させると冷や汗がどっと出て、しゃがみこみそうになった。 「お疲れ。」 「お疲れさま。」 花井と栄口からねぎらいの言葉をかけられる。同時に友達少ない君に報告がなされる。 『そこにいる空撃士と花井は念のため病院へ。警察の事情聴取は病院にて行うからそのつもりで。』 めいめいが了解。と言うと、さぁっと朝日が舞い込んできた。そんなに時間が経っていたのかと驚く。 「市原!早く!」 栄口に言われ慌て救急車へと乗り込む。すぐに発車。 病院が見る間に小さく、そして見えなくなる。 とりあえず終わったかな?と癒し手の眠りに入っているレン…三橋だったか…を見て、雑談していた花井と栄口に話しかける。 「こんな繭みたいな感じで寝てるなら、いつ朝がきてもわかんねぇな。」 二人揃って三橋を見ると、外してたインカムを着け、真剣な顔をして話し出す。どうやら何かおかしな事が起きているようだ。 良く分からないが、この事態が収縮するまでは帰れそうにない。 市原はそっとため息をついたのであった。 レンを覆っている膜が、こんな濃い色で、厚く覆われているのを見るのは初めてだった。 「…ぶん殴りたい。」 ぼそっと呟いた栄口に花井と市原はドン引きながらも無言で押し通す。花井も怒り心頭だったが、ここで怒っても何も変化しないからだ。 と、救急車の中の機材が一斉にピーピーとけたたましい音を鳴らし出す。 「何…?」 「血圧などを測定していた機材の電波が遮断されたみたいです。」 救急士が慌てながら機材の操作をしているが、音はなかなか鳴りやまない。慌てた救急士が搬送先の病院へ連絡を入れている。 「阿部。」 インカムをオンにして花井が話しかける。 『なんだ?』 答えが戻るまでに少しのタイムロスがあったが声が戻る。 「レンの癒し手の眠りの膜が電波をも遮断した。」 『なんだと?』 流石の阿部も驚いたようだ。いつもならしてやったり、とか思うかもしれないが、今は緊急事態だ。 「お前に策があるなら考えておいてくれ。」 『…了解。市原と栄口…空撃士はそこにいるんだな。』 「ああ。高瀬以外は。」 『あとで河合と高瀬、秋丸、オレと西広が合流する。病院の医師とも相談するからインカムは切るな。以上。』 阿部との通信は一旦切れた。そういえば田島側に誰も乗らなかったと反省。 「花井。」 小さな声で話しかけられる。声の主は栄口。心配という言葉を顔に出したらこんな顔になるだろうという顔をしている。 「阿部とは?」 市原も花井を見る。良くは理解していないものの、何か良くない事が起きている事を感じているのだろう。 「あっちから結界士と空撃士と西広を連れてくると。何か考えているのかも。」 「三橋の具合はそんなに悪いのか?」 市原が尋ねてくる。一人だけ蚊帳の外では何も出来ないだろう。 「ああ。レン…三橋のこの膜の形態が既に異常なんだ。」 早速花井が説明を始める。 「彼の癒し手の眠りの通常の場合は本人の寝ている姿がはっきり見えるくらいの薄さなんだけど…」 花井の話に栄口が注釈をつける。なるほど。と市原も頷く。 「まずは病院に…」 指定された病院はいつも利用しているレン御用達の病院だ。なだめすかせて検査とかするのだが、今日だけは強い味方と認識を強くした。 「早く着け…」 市原が呟いた。全員の思いだった。 |
何が起きたんでしょう!
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