年に一度のあまり嬉しくないイベントが終わっても、いつものように除虫作業はある。
 ただ一つ、実験的に導入されることが決まったことがある。
 「目」である阿部の隣に立つレン。阿部は逐一他の者の攻撃を確認している。
「レン!泉の防護膜をあげろ!」
「は はいぃっ」
 びくっとなった後に泉の防護膜がぐんとあがる。
「栄口と水谷の場所は作業が終わったから、防護膜は最低に。」
「はいぃっ」
 ギョクッ!ギョクッ!としながらレンは阿部の言うとおりに行う。阿部を挟んで隣にいる花井がなんともいえない顔で二人を見ている。
「田島!爆発型だから2メートル先から攻撃!レン!田島の防御膜を最高に!」
「ひゃい!」

怖がりながらもちゃんとできるんだなー。

 花井はぼーっと二人のやりとりを見ながら考えていた。
 発起人は無論志賀である。「やってみようか。」的なノリで一回。…で、ハマッた。何が、阿部が。防護膜の使い方とパワーの与え方のタイミング。他の除虫屋ではなかなか味わえないモノに完全にはまった。もう夢中。
「お前は隣。」
 問答無用でビシと居場所を指定されて、びっくりしたのはレンだった。今まで戦闘になるなら一緒に入ろうかと思い、結界の前で色々といじっていたのだが…
「レン、お前は攻撃より守りだ。」
 阿部にビシと言われ、阿部の隣でちょうちょを繰り出すことに。花井はそれには何も言わなかったが……
 阿部は夢中になると……いや、ならなくても、命令口調…というか、どなり声になる。レンはWind時代は阿部をマスターと認識してしまった過去がある。それが残っているのかないのかわからないが、その口調に過剰に反応する。

 オールクリアーの水谷の光の花火(今日は逆さまの星型だった)があがった時、阿部は花井に結界を解くように言い、レンにパワーの供給の優先順位を言い渡している…が。
「レン、お前、一番疲れてないか?」

いや、お前のせいだから。

 もう少しでツッコミを入れるところだった。ツッコミ役はこれからインカム越しにレンと阿部の会話を聞いていた者たちが行うだろう。

「阿部、うぜー。」
「どなんなよー。」
「レンが脅えてるよ?」

 泉・田島・栄口のツッコミトリオがさっそく阿部に攻撃をしかける。どうやら前回は見逃していたが、今回はもう辛抱たまらなかったらしい。

「今日もすごいねー。」
 巣山が寄ってくる。ああ、と花井が頷きながら撤収作業に入る。

ぎゃんぎゃんと言いあっていた4人は…

 2分後、モモカンの「喧嘩両成敗」の名の下、ケツバットが容赦なくふるまわれたのであった。



 除虫作業を終えて、かわるがわる風呂を使用して…花井が全員がいるだろう食堂へ入ると。
「ぶははっ!阿部、モーコハン!」
「るせぇ!お前もだろ!」
「残念!オレらは除虫服着てたから〜♪」

 ああ。なぜここで野郎の尻を見なければならないんだ……

 がくり、とうなだれた視線の先には、半ベソかいてるレンの姿。
 レン?と話しかけようとした時、肩にぽん、と手が置かれる。手をたどってみると…巣山。
「今落ち着いて、栄口がアイスの用意してるから、ちょっとそのままにしてやっといてくれ。」
 巣山もなぜかショックを受けたような顔をしてる。
「…何があったんだ?」
 手がぷるぷると震えてる。巣山は何かこらえてる。冷静な彼を誰がそうさせたのだろう。花井はちょっと疑問と……笑いをこらえながら尋ねる。
「いいんだよ。オレは。」
 ふっ、と巣山はうつむく。何があったんだ?
「6歳も下のヤツのほうが……オトナだったんだ………くっ」
「ちょ、ちょっと待て、落ち着け巣山?」
 その時、花井のもう片方の肩にぽんと手が置かれた。主は……沖だ。
「巣山、そんなにショックを受けなくても……成人男子だって多くないさ。」
「でもっ…でもっ……!」
「そんなにレンのがムケてたのが驚きだったのか?」
「!」

むけ……むけてるといいますと………

「あの…沖サン?」
「ああ、さっき田島がバラしたんだ。レンの背後をこそーっととって。」
「おお、それは珍しい…が?」
「一気にズボンとパンツをずりおろした。その時に見てしまったんだ。14歳なのに……」
 くっ、と沖まで息を飲む。………花井は何も言えなかった。というか、その場にいなくて良かったとか思ってたりもした。

「あー!泉もモーコハン!」
「うっせぇ田島!貴様にも今つけてやらぁ!」

 バキッドカッうぎゃぁぁぁぁぁぁやめなよそろそろうっせぇぞ田島はいレンアイスクリームあ ありが と うずりー、オレにもガリガリあ田島だけなんて許さねぇオレもガリガリガリガリはあと3人まで。あとはチューペットよっしゃガリガリ食うヤツ集合ジャンケン!おお今日こそはオレガリガリオレもだはいはーいオレもって栄口ちゃっかりガリガリ食ってるし家事担当だからいいでしょよっしゃこのメンバーでいいのか?

「………」
「………」
「………」

 涙を飲んでいた巣山も、何か漂わせていた沖も、そして何をどうやったらどう表現して良いのかわからなくなっていた花井は…顔を見合わせ。

「ガリガリはオレのものだ。」
「今回ばかりは譲れねぇ。」
「まぁ、水谷は最初に落ちるだろうから。」

 どこかとげとげしい沖の声にいつもの水谷の「なにそのヒドさ!」と素っ頓狂な声があがり8人でガリガリ争奪戦となった。

 5分後、巣山(もはや神がかりとしか思えなかった)と田島と西広がガリガリを。他の者がチューペットという具合になった時、花井は風呂で思い出したことを再度思い出した。
「おい、明日手が空いてるのはいるか?」
 はい、はい、はーい…はいと6か所から手があがる。
「明日、病院の結果と、レンのレベル確定が出るから、郵送じゃなくて取りにきてくれという連絡をもらったんだが…」
「オレ!オレ行く!」
 ガリガリを手にしながらはいはいはーい!と田島が元気に手を挙げる。泉に視線で「部活は?」と聞くと首を横に振られた。
「あー、わかった。じゃあ、レンと田島と西広。3人で行ってきてくれ。時間は現地に到着したら電話すれば良いことになってるから。」
「わかったよ。」
 西広がうん。と頷く。泉でも良かったが、未成年3人ではいけないだろうと成人を選んだ。西広はそこらへんも汲んでくれたのだろう。しっかりと頷いてくれる。
「わーい、レン!明日ダッシュ石けりの勝負つけようぜ!」
「う うん!」
 よーく見ると、その二人に全員の視線が集まってる。それもいつものやれやれではなく、ビミョーな視線。
「そーいや、レン、なんで大人チンコなんだ?」
 その視線がぎょっというのになる。……考えていたことは全員一緒だったらしい……悲しいかな、男のサガ。
「あ……イスラム教…侵入………」
「イスラム教の国に行くのになんで大人チンコにならねーとなんねー…イデッ」
 げんこつの主は珍しく巣山だった……巣山よ、そこまで引きずっていたのか。と花井はがくーとなりながらも巣山は説明をしていた。曰く、イスラム教には割礼というのがあって…云々。
「え?切ったの?痛かった?」
「そーゆーデリカシーのない聴き方はすんな!このエロ大魔神!」
 最後はやはり泉のキックが尻にキマり、うぎゃぁぁ!と田島の声があがる。

 ああ、全員なんでこんなに無駄に元気なのだろう……と花井はあくびをした。これから報告書を書きあげないといけないのに……いつもの倍は疲れた気がする。

 目をしょぼしょぼさせたレンの手をひいた田島とレンが「おやすみ なさい」「おやすみー!」というまでこのハイテンションは静まらなかったのであった。

 大学へ行く者、高校はなんと休みだった……創立記念日の甘い罠だ。
 西広の財布の中には諭吉が4匹。もしも何かあった場合、タクシーで帰ることになった場合やそれ以外の異常事態に対処するためのお金が栄口から支給されている。無論、耳にタコができるくらい領収書をもらってくることは言われている。
 1限目あわせの学生どもがわいのわいの出かけたところで、レン、田島、西広の三人は朝食をとることにした。今日は和食。巣山が漬けている大根のぬか漬けが美味い。外はいい天気であるが、午後から雨が降るとか言っている。西広は二人に傘を持っていくように言いながら、ご飯を平らげていく。
「ごちそうさま!」
 一礼して、田島が食器をシンクに出す。遅れて数秒、同じ動作をしたレンがやはりシンクへと持っていく。「傘と荷物取ってくるなー!」と二人して食堂を出ていくと、やれやれというような西広と苦笑してる栄口と目が合う。
「今日一日御苦労だね。」
「田島が暴走しない限り平気だと思うんだけど…10時前には電車に乗ろうかと。」
「うん、それ正しいと思う。」
 スーパーマーケットなんか開いた時間だと、確実に遅れると思う。二人の意見は一致した。
 西広も食べおわり、シンクに食器をつけると、二人が食堂へと舞い戻ってきたところだ。なぜか二人とも小さなナップザックである。
「……田島、レン、とりあえず遠足じゃないからな?」
 西広の言葉にうんうんと頷く田島だが、レンは首をかしげながら頷いている。

 遠足というのはどういうのかの説明と、西広自身の準備で出かける時間が10分遅れることとなった。


ちなみに私はアイス食べられません←苦手

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