う、うん。と呻きながら西広は無理やりに瞼をこじ開けた。
 さっき意識が戻り、夢うつつの中で自分たちがどういう風になったか思いだしたからだ。

 確か、お茶を飲んだら急に眠くなって……

 それから?それから?と焦燥感があふれ出してきた。すぐ、とはいかなかったがそれで覚醒に至ったのだ。まだ強い焦燥感は残っている。
 自分の腕に違和感を感じてみると、腕に点滴の太い針が刺され、それが上の架台にさがった3つの点滴の容器へとつながっている。眠気はえんえんここから感じていたのだろうと、固定されているテープをはがし、ふっと針を抜いた。血が少しでたが、ちょうちょが……え?ちょうちょ?
 そこで周囲を見る。隣にはまだ眠っている田島。そして正面には…レンが無数のちょうちょを出してベッドの上の老人を癒している所であった。
 自分の体を見回してみる。ちょうちょが止まっては溶け、何か液体を残している。どうやらこれで眠る薬…睡眠薬を取り出していたらしい。
 頭ががんがんするが、そうとも言ってられない。急ぎ田島のもとへ寄ろうとしたが、よろける。倒れるまではいかなかったが、点滴を満載した架台ががたんがたんと音をたてる。その音でぴくりと田島が反応する。
「田島!」
 自分のやった時同様に田島の腕から点滴の針を抜きとると、西広には珍しく、荒っぽい動作で田島の頬を叩きながら揺する。しばらくすると田島の目がゆっくりと開いて…
「うぎゃっ!」
「ぐぉっ!」
 跳ね起きた。跳ね起きたついでに田島の後頭部と西広のおでこがぶつかった。
 少しの間二人で悶絶した後、レンのほうを見る。
「レン…」
 レンは何も言わずに無心にちょうちょを飛ばしている。その体の周囲にぽぅ、ぽぅ、と緑の光がさしている。あの光は間違いない。癒し手の眠りの光だ。
「田島、動ける?」
「動けないことはないけど、あのレンを連れて逃げ出すには……」
 意外にも、田島は冷静であった。すぐに頭に血が上ると思っていた西広はほうと息をついて、冷静に考える。
 自分たちの置かれた状況、レンの状態、そして今、どうすればよいのか。
 レンの姿を見やる。そして気づく。その方法があった!何日経過したのかわからないけど、ニシウラのメンバーは心配しているに違いない。
「レン…。」
 西広はよろよろと歩くと、ぽん、とレンの肩に手を置いた。ふらりと振り向いたレンの顔は憔悴と疲弊が山積した顔になっている。
「にし…ひろくん…」
「もう少し待って。すぐに助けがくる。」
 ニシウラはどっちだったっか。いいや。両方押せばいい。
 レンの首のチョーカー。その両側にはニシウラ及び除虫屋への緊急信号が入るスイッチがある。
「ちょっと我慢してて。」
 西広は両手を伸ばし、それをみつけると、一気に押した。
「これでよし。レン…メンバーが来るまで待ってて…。」
「レン、もうちょうちょは出さなくていいんだぞ?」
「で… で でも…」
「いいんだよ。」
 西広は右手を、田島は左手をそっと掴むと、レンの膝の上にそっと下ろした。

 老人に向かって飛んでいた無数のちょうちょは一斉に消えた。


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