退院の日、病院へ迎えにきたのは、田島と泉とモモカンのみであった。

 退院手続きはすでにモモカンがすませており、自分の身ひとつでバンに乗り込む。

 モモカンの相変わらず荒い運転は、いつも全員心の中で非難ごうごうだったが、今日だけは違った。
「レン!もうすぐで家に着くぞ!」
 田島が隣に座って今かいまかと待っている。
「1ヶ月ぶりだろ?田島みたいにキノコが生えないように、栄口とか花井とかがベッド周りは綺麗にしてたみたいだぞ!」
「うぉっ」
 びっくりした顔でレンは泉を見る。
「ああ、後で礼はいいな。ほら、見えてきたぞ!」

 家へ向かう最後のカーブを曲がった。ちょっとだけ見慣れたようなくすぐったいような、3階+地下一階のでかい家が姿を現す。モモカンはその時だけ慎重にカーポートに車をとめた。
「レン!はやく!」
 田島がせかす。
「おいおい、そんなにせっつくとレンだって困るぞ?」
 苦笑しながら泉が答える。
「う うん。」
 ドキドキしながら、レンはバンを降りる。足音はしない。
 三人できゃいきゃいとはしゃぎながら、モモカンが最後尾でふふ。と笑ってメールを送る。
「レン、帰った時の挨拶は?」
 泉が田島に関節技をかけながら訊く。
「…ただいま。」
「そ。人にも、家にもただいまなんだぞ?」
 泉の言葉にうん。と頷く。田島、そのまま引きずられ。
 玄関のドアをレンは開けた。油がさしてあるらしく、音がたたない。
「た…ただ …い ま。」
「レン、それじゃ聞こえないぜ?」
 田島がニヤッと笑いながら言う。
「もっと大きな声で。みんな呼ぶみたいに。」
 泉のアドバイスに従い、すぅっと大きく息を吸い、言った。

「た だい ま!」

『おかえり!』

 応接室のドアから。
 地下へ向かう階段のへりから。
 2階へ向かう階段から。
 そしてレンの背後から。

 ニシウラのメンバーが声をあわせてそれに答えた。

「レン!驚いただろ?」
「水谷の案としては悪くない。」
「阿部は…いつもひどい。」
「双方ともに同感。」
「異議なし。」
「異議なし。」

「レン!靴を脱げ。2階の食堂で栄口がお前の退院祝いと除虫屋ニシウラ、癒し手常駐権会得とか色々まじってパーティだ。」
「パーティ……」
「楽しいから早く!」
「行こうぜ!」
 水谷と沖が両腕を、泉と田島がぐいぐいと背中を押して、食堂へと案内する。いい香りが全員の胃袋を刺激する。

 食堂に入ると、

 クラッカー。ぱん☆ぱん☆ぱん☆
 誰かの指笛。ぴゅーぅ!
 全員の拍手。

「 レン……み…三橋 廉。」

 突然話し出したレンに全員が急停止する。

「三橋 廉。ただ いま帰り、まし た。」

『おかえり!』

 全員の声がハモった。それから一気に無礼講と化した。

 あとからあとから出てくる栄口の料理。

 飲んだら出てくる、篠岡からの飲み物(たまにアルコール含)。

 笑いあって、楽しんで、喜んだ。


 全員、この日のことを忘れないだろう。

 虫の巣から全員無傷で生還できたとか。
 日本にも、そして世界にも殆どいない癒し手がいることになったとか。

 レンが、すごく幸せそうに。
 嬉しそうに笑った、とか。

 パーティが楽しかったとか。

 レンは思う。

 これから、楽しい日々が訪れるのだろう。きっと。

 この除虫屋 ニシウラのメンバーと一緒なら。と。


 すごく幸せで。幸せで。明日も明後日もずっと楽しみだった。

 ようやくニンゲンとしてのレンに「ただいま」を言ったようだった。
 もちろん答えはこうだ。


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