レンは脅えていた。
 身体に激痛が走るが、それは花井の「障壁」が受けた、過分のダメージを「おまもり」を通じてそのままくらった為である。
「レン君、あと15分くらいで救護班が来るわ。」
「全員助かるぞ?」
 巣山が言う。顔色が悪い。多分分かっているのだろう。

  ダメ。15分じゃ、 まにあわ ない…。

 身体のあちこちが痛いと言っている。だけど、みんなを守りたかった。

 「おまもり」のちょうちょはまだ全員の様子を伝えてくれている。建物の下敷きになった栄口は、あとで救護班の人に助けてもらおう。でも。その前に死んだら……。

 この場に死の足音が響き渡っている。

 自分と巣山くんと、百枝と志賀以外、全員意識不明の重体だ。

 両手を前に突き出す。指は広げて。お守りのちょうちょがすぐに教えてくれる。一番酷い怪我なのは泉。栄口、水谷、花井、田島、阿部、ずっと離れて殆ど無傷の巣山の順。
 身体のどこがやられたか。全部認識した後、レンは歌った。昔のように。田島の足を治した時のように。おどおどと、つたなく、それでいて神々しく。

「ちょうちょ ちょうちょ
みんなに とま れ。
みんなに とまって ケガ を なおせ。」


 
瞬間、レンの指先から。

「レン君?」
「レン!」

 無数の緑色の蝶々が阿部や花井、そして遠く近くにいる仲間たちに飛んでいく。内臓損傷の花井の場合は全身を覆うように、そして口やら鼻やらも蝶が入っている。阿部も同様だ。

 レンの身体ががくん、と揺れる。凄まじい勢いで緑色の蝶が羽ばたく。その数が増えていけばいくほど、レンの身体に負担がかかっていることがありありと分かる。

「レン君!」
 モモカンとシガポが二人してレンの身体を支える。蝶はまだ出ている。
「だいじょう ぶ。」
「レン君が大丈夫じゃないでしょ!」
 すでにレンの身体は尋常ではない熱が発せられている。
「だいじょう ぶ。 みんな たすか る。」
 言って、ウヒ、と笑った。
「栄口くん だけ は、下敷きに なって るから、助けてくだ、さ い。」
 流石に自分ではできないことは…百枝に頼む。
「場所まで分かっているのかい?」
 志賀が汗を拭いながら尋ねる。
「おまもりが おしえて くれまし た。」
 蝶々をはきだしていた7つの指が、もう3つまで減っている。泉、栄口、田島だ。
「分かったわ。巣山くん、場所を聞いて、その場に行ってみて。」
「はい。」
 情報屋である彼は、レンからどうにか大体の位置を聞くと、走り出した。
 その時、栄口へ最後の蝶々が飛び立った。これで全員とりあえず殆ど治った。栄口は押しつぶされているために右腕と左足が捻挫を負っているが、それは今も柱か何か(そこまでは分からない)に圧迫されている為、治すのは不可能だった。
「栄口くん は まだだけ ど。 みんな なおり まし た。」
 嬉しそうにモモカンに報告した。
「そう…お疲れ様。」
 微苦笑を浮かべながらも、レンの頭を優しく撫でる。
「疲れただろう?寝てなさい。」 
 シガポが言う。よいしょっ、というかけ声とともに、視線が変わる。抱っこされたんだ。と分かると、途端激痛と睡眠が襲ってくる。
「は   い。」

 瞬間で、レンは睡魔に身をゆだねていた。


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