除虫屋ニシウラ レンの誕生日

 レンくん、もうすぐ誕生日だよね!
 モモカンと一緒に申請しに行った時、見ちゃったんだ。ごめんね〜。

 その場は一旦静まり返った。

 沖が語る、除虫屋ニシウラの一番のニューフェイス、三橋廉の誕生日前のあり様を。


 あの時は誰も固まってたね。とコーヒーを飲みながら、その場にいなかった巣山と水谷と花井、高校生の田島、泉に説明する。今日はこれからパーティだ。栄口が朝からパーティ用の料理を作っている。その音がテレビの部屋まで聞こえてくる。
 「あの栄口も?」と花井が問う。
「そう。栄口も固まってた。」
 こくっとコーヒーを一口飲んで「笑いながら」と説明をいれると全員がぴくりと動いた。どれだけ栄口が動揺していたのかが分かるものだ。
「篠岡が『鷹の目』だもん!とか言ってて…今思うに、『鷹の目』は全然関係ないんじゃないかなぁ…って。」
 うんうん。と全員が頷く。そこではい、と手が挙がる。泉が難しそうで実は全く難しくない事を問うた。
「で、阿部があの有様?」
「…そう。阿部があの有様。」
 全員でこそーっと阿部を見る。阿部はずーーーっと某大手通販サイトであーでもないこーでもないと唸っている。かれこれ3日目だ。いい加減返してほしい。と水谷がこぼす。えっ?水谷パソコン持ってたの?と田島がそこに驚く。
 驚くのそっち!とやはり水谷がツッコむ。その当たり前すぎる姿に全員が笑う。
「まぁ、一番最初に固まりから人に戻ったのは確かに阿部だからね…。」

 へぇ、ほぅ、ふーんと全員が意味もなく頷きを返す。

「阿部は『誕生日はいつだ?いつなんだ?』って篠岡に詰め寄って、その時我に戻った栄口に頭はたかれてたっけ…

 そこで遠い目になる沖さんよ……

 全員の視線が遠いものになり、また沖に寄る。
「それで、レン以外の固まったのが解けると、全員の姿に固まっていたレンがオドキョドして阿部の問いに答えようとして…また固まっていた。それをまた栄口が止めて…の繰り返し。」
 阿部はいつになったら分かるんだろう……との問いに一生無理なんじゃねぇか?と田島が一刀両断する。それには全員が苦笑を浮かべて「まさかぁ」とか言ってみたりする。そうでもしないと…本当になりそうで、怖いから。
 阿部はまだうんうん唸りながら探しているようだ。栄口から「目が悪くなるから休んだら?」と言われている。あの栄口にさえ心配されているのだ。推して知るべし。

「そして…まぁ、栄口が初めての誕生日パーティだから何か色々とセッティングしなきゃ。と言いだして。」
 ああ、あの主夫が…とまた全員遠い目。栄口のレンに対する感情はもはや母親のそれである。と全員が断言して言えるとの意見である。そしてそれはあながち間違いではない。
「で、本当かい?とレンに尋ねたのは西広。」
 ああ、最後の理性がたずねたのか。と全員がほう、と息を吐く。
「レンも良く分からないと言っていたけど、篠岡が「本当に本当よ。」と断言するもんだから、レンも少し考えて…家族と田島と浜田に祝ってもらった事があるって…」
「オレ?」
 視線が田島に集中する。田島もうーんうーんと考えながら「あっ!」と思いだす。
「オレ、ちみっこい頃、レンの誕生日に行ったことあるわ!」
 おおっという声半分、はぁぁ、というため息半分あがる。
「まだローソクが何本かしか立ってなくて、レン、ふーって吹くの大変だった覚えがある!」
「誕生日はその日で間違えないんだな?」
「この年の日曜日!これだったら間違いない!」
 沖が簡単に計算する。確かに田島の言う事とレンの誕生日はあっているようだ。
「で、どうなったんだ?」
 巣山が話の続きを促す。半分のニシウラメンバーがどうなったか興味深々のようだ。さすがは情報屋…
「じゃあ田島が帰ってきたらすぐに聴く…って、まぁ、こんな状況なんだけどね。」
 沖が苦笑すると、栄口に「田島から聴いたよ!間違いないって!」と大きな声で伝える。
「分かった!了解〜。」
 栄口の声と料理している音が返ってくる。阿部はまた必死こいてパソコンを睨みつけている。
「…で。まぁ、西広はニコニコして、もうすぐ15歳だねぇ。と笑ってて。」
 ああ、西広先生はいつものペース。
「阿部はなんでそんな重要な事忘れてんだタコ!とか怒鳴って。」
 ああ、阿部はいつもの阿部だ…。
「栄口は阿部を黙らせて、西広に頷くと、パーティにしようか。とレンに話しかけたんだ。」
 そうだなー。オレもそういう状況ならそうするなー。」と水谷がのんびりと返す。それに頷く面々。
「レンはびっくりしたけど、『オレのため?』とか言って、最初遠慮してた顔だったんだけど…」
 あー、その顔簡単に想像できるわ。と花井に全員が苦笑する。その場を見ているかのようだ。
 「阿部が珍しく『祝ってもらえ!』との鶴の一声でレンが反射的に頷いて……決定。
 あはは…と乾いた笑いが漏れる。

「ちょっと、誰か手伝うという気分の人はいない?」
 栄口がフライパン片手に問いかけてきた。阿部はもう諦めたのだろう。
「ああ。オレ手伝う。」と花井、巣山と泉が立ち上がる。
「レンは?」
「西広と買い物。」
 にし…といってる最中にすでに携帯を手にしている田島。すぐに繋がったのだろう。場所は?と尋ねている。どこにいるかを聴いているので、その場に合流しようともくろんでいるようだ。水谷も携帯のそばに寄っている。田島のストッパーとしては弱いが、まぁ、どうにかしてくれるだろう。仮にも光撃士。前線で戦っていることには違いないからだ。
 まぁ、田島のほうがパワーもレベルも段違いというデメリットもあるが、そこは全員無視することに…
「はぁぁぁぁ…」
 一名のみ。花井が胃袋を少し押さえていたが。それ以外はまぁいいや的な顔をしていた。
 「手伝うから、何すりゃいいんだ?」と泉が早速尋ねている。泉には料理のスキルも少しだけ備わって…もっとスキルが高いのは巣山なので、巣山と泉は自動的に料理を作るほうに組み込まれる。沖と花井は飾り付け、水谷と田島はレンと西広に合流することにしたようだ。
 「出来上がったら連絡するから、遠出しないようにね!」と栄口。「りょーかい!」と水谷。「わーってるよ!」と田島。
「さぁて、と。…阿部、決まったんだ。」
「ああ。今から出かけてくる。」
 ふらふらしながら阿部が出かける。その鬼気迫る姿に誰も話しかけられないまま、その背中を見ていた。
「さ、さて。オレらも出かけるよ!」
「おおっ!」
 水谷と田島の会話に全員がまたもや沈黙の気配から解かれ、めいめい動き出す。
「いい誕生日にしてやろっぜー!」
「そうだよねー。」
 水谷と田島がわいわいと言いあいながら「いってまーす!」と言ってきたので、めいめいが「いってらっしゃい!」と声をかける。
「まぁ、みんな仲が良いってことはいいことだよね。」
「そういう感じかな?」
「レンを中心に…というより、個人を祝うって、初めてじゃない?」
「そういえばそうだね…」と栄口と沖が話す。
「まぁ、篠岡が3日前に言ってきたのは誤算だったけど。」
 おかげで買い物に気合が入ったよ。と巣山と西広が苦笑する。荷物持ちとメニューは三人で決めたのだ。レンの好物を知っている田島とかを巻き込んで。
 除虫屋ニシウラは、明日の朝まで緊急除虫作業をしないと既にモモカンを通して書類を提出してある。阿部が誕生日をきいてすぐに動いた一番効果てきめんなものである。流石だ。とこれには全員が唸った。
「栄口〜!テレビの部屋でやるか?」
「そうだね…いつもの食堂でやるのも悪くないと思ったけど…そっちのソファーとか片付けるの大変じゃない?」
 内容がだんだんと大がかりなものになっている。全てはレンの笑顔が見たいがため。

 ここに来て良かったと思ってくれる幸せな時間を全員が与えられればいい。

 田島と泉が最初にこの話をきいた時、泉が言った言葉だ。確かに。と頷いて、ならゴーセーなのにしよーぜ!ここでさ!と言ったのは田島。
「高校生組もいいこと言うなぁ。」
 沖は思い出してにっこりと笑うと、花井とソファーを端っこにどかすため、動き出したのであった。

 レンが幸せのあまり涙するまで、あと3時間……