えーと、と田島は困ってた。
 こんなに気配を殺せるヤツッているんだー、スッゲー。でも何で?とか。

 巣山はとりあえず困惑してた。
 俺様な阿部に本当に阿部様なんてつけるヤツがいたなんて…。とか。

 水谷は結構感心してた。
 うっわー、阿部と対等に話ししてるよ。とか。

 そんな様々な困惑や感心の中、阿部(様)の話が始まる。
「お前のプロフィールがききたい。」
「分かりました。阿部様。」
 レンはすっと視線をあげると、一気に言った。
「コードネームWind。ミホシ所属。14歳。男。身長160㎝、体重55キロ…」

 じゅうよんさい…?田島と栄口と阿部以外の全員がざわめく。

「…得意な武器はナイフ。寸鉄等接近する方法が一番得意とする。よって市街戦より室内戦のほうが投入には向いている。武器は殆どの物は使用可能。ただし、自動車、バイク、戦車などの運転にはまだ関わったことがなし。武器・防具製造・解体及び盗聴・侵入等も得意とする。それから…」
「…もういい。」
 途中で阿部が遮った。途端、あれほど話していたレンがまた無口になる。
 ややあって、阿部が口を開く。
「ミホシって何だ?」
「暗殺組織です。阿部様。」
 すんなりと答えが返ってくる。暗殺組織…。っつーか、阿部様。
「うわ。真っ黒くろすけ。」
 田島がぼそっと言った。
「阿部様ってどうよ…。」
「すんなり口から出ているのが怖いね。」
 花井と沖がこそこそと話している。
「お前はそこに何年所属している?」
「6歳の時に連れてこられて以来。」
 すんなりと答えてくる。
「連れてこられる前の住所は?」
 これもよどみなく答える、が。
「あれ?」
 この声をあげたのは田島と泉。
「この住所…お前ン宅のそば?」
 泉が田島を指さしながら言う。
「あー、分かった。こいつの正体。」
 田島がぽん、と手を打ちながら言う。

へ?とレンを除く全員の視線が田島に集まる。

「そいつ、俺ンちのもとお隣さん。」
 はぁ?と尻上がり調で全員が声をあげる。
「名前は確か…んーと、んーと…レン…れん…あ。思い出した。」

 ビシッとレンを指さして

「ミハシ レンだ。」

 きょとん、としているレン。
 全員が阿鼻叫喚の騒ぎになるのは5秒後。


 なにがどーなってんだ?

 おい、田島のお隣さんってなんなんだ?

 るっさい、昔のおとなりさんだ!今いろいろ思い出してる!

 さっさと思い出せよ!

 アベオーボー

 …同感。

 色々な言葉が錯綜するなか、うーんうーんうーんと田島が珍しくデコに皺寄せて、うなっている。その間にも阿部とミハシ レン…レンとの会話は続いている。

 Windとしてのお前とレンとしてのお前は、人格が全く違うのか?

 いいえ。ただ「仕事」の完遂がしやすいため、ラボの研究者たちに教わりました。ただ、Windとしての「仕事中」では、レンとしての感情は全否定されるので、「仕事」完了後は睡眠薬と精神安定剤、栄養剤などを投与され、次の「仕事」まで、練習以外は眠りについていました。

 語学は?

 行った場所は殆ど。今まで行った場所を全部申し上げるのには5分ほどかかります。

 ならいい。

 かしこまりました。阿部様。


 なら、つじつまがあうなぁ、と田島がぶちぶち言っている。時計はもう23時を過ぎている。大学生メンバーはおいといても、高校生組は宿題とか色々させないといけない。
「田島、その話は明日聞かせろ。…モモカンとシガポには伝えて、明日もっと詳細を聞こう。」
「いいぜ♪」
 ニヤッと田島が笑った。
「お前ももういい。」
 阿部の言葉にレンが無表情で返す。
「消えろ、ということでしょうか?」
 すっと自分の首にフォークがかかる。流石の阿部も驚いたらしい。少し慌てた口調でその言葉を返す。
「違う。命令は終了だ。」
「かしこまりました。阿部様。Wind、通常に戻ります。」

 ふっ…と

 空気が、変わった。

 そこにいるのは…ただの少年で。
「え…あ…あの?」
 自分に集中している視線に驚いている、どう見ても気弱な性格に見えた。
「レーンー♪」
 とりあえず、全く物怖じしない田島が抱きついた。


 ダーーーーーーン!


 さっきの水谷と同じことがまた繰り返されることとなり、今回は全員がため息をついた。

 よくよく見ると、レンの顔色があまりすぐれていないことに気づく。
「レン、眠くない?」
 栄口がすかさず尋ねる。14歳で色々な環境の変化もあったのだ。疲れていないはずがない。
「ね…ねむい…?」
 その言葉に少し驚いたようにレンは栄口を見る、けど視線はすぐに反らされる。

 おどおど、きょろきょろ。

「うん。レン、眠かったら寝ていいんだよ?」
「え?」
 また視線が栄口にもどる。が、また反らされる。やはり少し顔色が悪い。
「オレ…使えない?」
 しばらくあって、そんな問いが小さな声で発せられた。
「え?」
 話が見えなくて、栄口はレンを見る。
「使えないから、また、睡眠薬飲ませて寝かせる?」

 その言葉に、全員が止まった。

「なにお前、そんな暮らししてたんか?」
 すぐに復活した田島がひょいっとレンを見る。
「う…うん。」
 ビョクッ、とフシギな驚き方をしながらもレンは頷く。
「そっかー、暗殺者じゃ朝も夜もないもんなー。朝起きてメシ食って、昼になったらメシ食って、夜になったらメシ食って寝る。これがここのキホン。だから、栄口が聞いてきたことは「使える使えない」じゃなくて「夜だから眠くなってないか?」って意味だぜ?」
 分かった?ときくと、ややあって、うん。と首肯した。
「ならお前、もう眠そうだもん。寝ようぜ!」
 なんだったらオレも一緒に寝てやるよー!という田島の言葉に「お前は宿題をやらねぇとテストにひっかかるからダメ!」と泉が猛反撃してきた。
 ぎゃいのぎゃいのと大にぎわいしている中、とりあえず栄口と水谷はレンをその輪からゆっくりと外した。
「田島か泉!どっちかパジャマ!レンに貸すから。」
 二人、目が合うと「最初はグー!」。パー、グーで田島の勝ち。
「一番いいの貸してやんな、レン!」
 言うと、田島はダッシュで部屋へと走っていった。
「歯ブラシは…あ、巣山、サンキュ。」
「タオル…花井、サンキュ。」
 栄口がレンの寝る前と明日の朝のアイテムを口にするとぱっぱっぱっと周囲が出してくる。
「オレの勝負パジャマ!」
 と何か良く分からないことを言いながら田島が部屋から戻ってきた時、
「下着の新品…阿部…サイズ合うと思う?」
「…合わないな。」
 栄口と阿部が微妙なことを会話していた。



 ふぅ、とレンは息をついた。
 今日は起きてから、色々なことがあった。
 知らない場所で、普通の服を着て、晩ご飯…コロッケとか色々食べて、「命令」されるかと思ったら、全然そんなのがなく、そして今、緑色にうねうねっとした黄色の模様が入ったパジャマを着て、ベッドに入っている。

 不思議だ なぁ。

 まぶたが重くなってくる。

 ヒトの気配がするの に、ねむくなって きた…

 みんながパジャマ着た自分に「おやすみ」って言って、部屋を出て行った。

 「おやすみ。」

 魔法のジュモンみたいだ。今まで無理矢理眠らされてたのが、ウソみたいで……

 その後は覚えていない。ぐっすりと、本当にぐっすりとレンは眠りに意識を渡してしまった。




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…勝負パジャマ(?)は唐草模様のパジャマらしいぞ。