西 浦 高 等 学 校 の 日 常



4時間目というのは集中力が切れ、眠気もしくは空腹感を感じる時間である。
朝ご飯を抜いた生徒や一部の生徒はハラヘリでパワー不足であるし、それ以外も何とも微妙な顔をして授業を受けている。誰かがあくびをすると、四方八方に伝染する。午後一番の授業よりかはましだが、それ以下でもない、なんともビミョーな時間である。

ぐぅぅぅ〜

誰かの腹が鳴った。くすっと誰かが笑う。あくびではないので教師も注意することができない。

ぐぅぅ〜

別の場所で誰かの腹が鳴る。今度こそくすくすと生徒たちが笑う。これには教師も苦笑するしかない。腹が鳴くのも伝染するのか。とか。

ぐぅぅぅ〜

また鳴った。もうクラス中は笑いを抑えるのに難しい。集中力はてきめんに落ちるだろう。

 いずみぃ…はらへった………

 こそこそっと誰かが話しかけている。教師はわざと知らんぷりした。このままチョコでも飴でも食べて落ち着けばよいと考えたからだ。

 るせぇ、黙ってろ!腹ごと!

 なんかねぇのか?三橋も腹かかえて鳴らないようにがんばってるぞ?

 なんかあったらオレが食ってる。

 あー!オーボー!

 ほ、ほら、田島、三橋、チ○ルチョコ。これやるからちょっと落ち着いてよう、な?

 チョコだ!三橋!チョコ食え!

 チョコ!

腹減りの原因の二人が田島と三橋だとわかり、また苦笑する。野球部だったら仕方がない。朝錬でへとへとの状態に空腹が混ざっているのだ。鳴らないわけがない。

 やっぱり「うまそう!」てやんねーといけねーのかな?

 そんなヒマあるなら食え!そして鳴らすな!

 く、食う!

ダダもれのひそひそ話は9組全体に広がって、全員が暖かいまなざしで4人を見ている。生温かいのではない。ぽくぽくと暖かい空気なのである。他のクラスにはない反応に教師はため息をつく…全く、このクラスは………

 ほら、三人とも、オレからも。もー少しだから。

 食べちゃいな。早く!

 センセーに注意される前に!

 教師は苦笑して、笑顔でにこやかに。
「ここ、テストに出るからなー。」と言ってやったのであった。

全員が硬直したことは言うまでもない。



野球部の人たち

気付いた時には遅かった


「ほら、オレオリジナルのボール。」

 泉から渡されたのは、妙に重心の悪いボール?だった。
「あれを速い球で阿部に思い切り投げつけろ。はい、3、数えるうちにー!」
「う うん!」
 三橋は言われてセットポジションをとる。

 なんでこんなことになっているのか。ただ、阿部と泉が何やら喧嘩して、田島もそれに入っただけだと思う。昼休み、田島が急にいなくなったり、浜田がいきなり細かい裁縫を始めたなぁと思ってたら…これを手渡された。
 花井は胃が痛そうに、すみっこでよろけてる。栄口はそれを支えながら、ニヨニヨと人の悪い笑みを浮かべている。
「さーん!」

 あ、この感触…なんだっけ?

 阿部は気付かない。そしてなぜかメットしかかぶっていない。

 この感触には覚えがある。ちょっとぶよってて…田島くんち?わからない。

「にー!」

 首を振る投手は嫌いといっているんだから、首を振ってはいけない。
 しかも、泉といういつもクラスでもお世話になってる人の頼みだ。

「いーち!」

 投げた!で、気がついた!

 気付いた時には遅かった…………

 ぶしょっ

 まだまだコントロールが甘い…というか、そもそも重心がおかしいボールもどきは……見事、阿部の顔にあたり……ぶしょっと。

 赤く、染まった。

「おお、やっぱオレん家の完熟トマト!」
「阿部、見事なまでにナポリタン!」
 7組連中は報復が怖いために何もしないが、ここぞとばかり9組はやんややんやとはやし立てる。三橋はガクガク震えている。
「三橋、だいじょーぶだぞ?全ては阿部が悪いんだから。」
「あいつ、お前が家で練習しようとしている時間帯、家に行くとか言ってたんだぞ?ストーカーだぞ?ストーカー。」
「聞いた時には驚いたぞ?田島と泉の話にのって、オレも手伝っちまった。三橋は悪くないぞー。」
 田島、泉、そして浜田が交互に三橋の頭をなでる。半ベソかいていた三橋も、ストーカーの話から違う意味で震えていた。
「勧善懲悪!これで世の中うまくいく!」
3人はぱっとそれぞれ3方向に走っていく。三橋の手は田島がちゃんと握っている。
「その前にちゃんと逃げるんだよー!」
 ようやく顔面のトマトをどけた阿部が血みどろもといトマトみどろの姿で追いかけていく。泉をターゲットにしたのか、泉に走っていくが、泉も速い。あっという間に鬼ごっことなってしまった。阿部の顔が鬼の形相だけど。

 今日も野球部は平和です。



野球部の人たち
食べ物の恨みを買う前にやめましょう。


一位、三橋。ビリ、田島。
今日の豪華おにぎりと、塩むすびが決まって、それが手渡されたのが二分前。
「なーなーなーみっはしー。」
 なーなー攻撃の田島。今のところ勝てた相手はいない。三橋は牛乳のパックをがぶ飲みしながら田島を見る。
「一口。味のあるところ一口!」
それはイクラの部分をさすのだろう。何も考えずに田島に「一口だけだよ」と言っておむすびを田島の近くに持ってきた。

がぶぅっ

そんな音が周囲に聞こえてきたような気がする。見ると、三橋のイクラむすびが半分近くその姿をなくしていた。
「一口だけだからな!ごっそーさん。」
律義なのか、塩むすびの半分を割って、三橋に手渡す。とっさの行動ができない三橋は。それを受け取ってしまう。
「いーくーらー♪いーくーらー♪いーくーらーはーうーまいーぞー♪」とさくらの歌に勝手に歌詞をつけて、田島はがぶりと牛乳を飲んだ。

 その姿を三橋がじって見てて、泉が「あちゃあ」という顔をしてたことに。
 次の日から、三橋は変わった。9組でいつも昼食をとるのに、なぜか7組でご飯を食べて、なおかつ居眠りも一緒にしているのだ。
「三橋がいねーとなんかなぁ。」
 田島は首をかしげたが、それを見たのは泉だけだった。

 そしてその行動は1週間も続いたのだ。
 1週間とその次の日。また三橋が1位で田島がビリであった。
前回のことをちょっとだけ味をしめて、三橋に一口を頼んだ。
「や だ。」
その言葉を言うのに、30秒ほど時間をかけたが、きっかりと三橋から拒絶の言葉が出た。これには聞き耳をたてていた泉と、このところ良くクラスに来てるなぁ、と思っていた3人ほどが驚いた。
「俺のしおむすびをちょっと味付けしたいんだけど…」
「やだー」
 半分恐慌状態になってる三橋がぶるぶる震えて泣いている。
「三橋、この間、おむすび交換してくれたじゃん!」
 なんで泣くんだよ!と言いたげな田島を制したのは「父」であり「兄」でもある泉であった。
「お前、前回のおむすびのとき、ちゃっかり半分食べただろ?」
「え?あれで?」
あれで?という言葉に三橋は反応した。すぅっと息を吸い、一気にまくしたてた。

「あれはオレの大好物で田島くんだからあげようとおもってたのに田島くん半分も食べたじゃないかイクラのおむすびと塩むすびコメの塩味が全く違うんだそれなのに田島くんは簡単に手渡してきて怒ってるんだ。」
ノンブレスで怒りを見せる三橋に周囲は全員ぽかーんと何か空気のようなものが走ったかのように静まり返った。
「そうだよな…塩むすびと1位のむすび、味付け違うもんな。」
 冷静に塩加減を思うのは栄口。
「…ごめん。オレが悪かった。」
 おむすびをちゃんとベンチの上に置き、田島は三橋にがばちょとひっついた。
「お おれ、ま まだ 怒ってる…」
「次にオレが1位だった時は半分やるって。」
「…………」
「ま○゛いプロテインもどうやったらうまく飲めるかも教えるから、許してくれ。悪かった。」
「……………」
 三橋は無言でおむすびを半分割ると、田島に手渡した。はっとして、田島もベンチに置いといた塩むすびを持つと半分より多めに割って、三橋に手渡した。
「仲直り。でいいよな。」
 こくん。とうなずいたとき、さっき泣いた涙がころんと落ちた。
「よーし。全員がま○゛いプロテインが飲めるようなことを考えたから、三橋だけに伝授するぜ!」
「オレにも!」
「阿部は自分で調べろ!」
 もう、いつもの雰囲気に戻った三橋と田島は、きゃいきゃい言いながらおむすびを食べている。
食欲・頑固…だけではないだろう。
「食べ物の恨みは三橋はすごかったんだな。」
 巣山のセリフに全員がうなずいた。

ああ、これが野球部の日常?