振られる手は「さようなら。」
明日の日を見るまで、おやすみなさい。
今の時間が今日の光の最後の時間。
永遠に約束された夕方の太陽。高くならないし、沈まない。
ここは彼らの世界。
彼が守る世界。
「水浴びでもしてこい」と泉に手渡された一式で、全員池へ向かう。着替えは…流石になかった。もしくはサイズが合わなかったとも言う。
一人2コ、木の実を与えられている。田島が「ムクロジだ。池に行って擦ってみろ!」と言っていた。良くは分からないけど、この世界?とやらに住んでいる者たちが言うのだから、と従ってみた。
汗くさいTシャツを脱ぎ、パンツ一丁で池に入る。栄口が早速ムクロジとやらの木の実を擦ってみた。
「うわ!あわ!」
なにギャグ言ってんだ?と見ると、栄口の手から泡。まんま石けんの泡。
全員、さっそくムクロジを擦り、頭やら体やらを洗い、残ったぶんをかき集めてTシャツは洗った。この気温なら乾くだろう。ぎゅーっと絞って、汗でじめっぽいズボンをはいて、肩に手ぬぐいをのっけたまま戻る。
「お、キレーになったなった。」とニカーと笑う田島。「用を足したくなったらあそこの下に穴が掘ってあるから、そこにして、上から近くにある灰をかけとけ。大はそこらの草陰で我慢しろ。」と泉。乱暴なのか親切なのか良く分からない。
「部屋に案内するぜ!」
こっからあがれ、と家の端を指す。引き戸がある…玄関のようだ。全員入って戸惑う。
「あー、そっか。ここずっと土間。」
そーだよなー知らないよなー、と頷きあっている田島と泉。すたすたと柱と柱の間を分けて歩く。天井が恐ろしいほど高い 。そして広い。
土間の隅には様々な物が置いてある。丁寧に手入れがなされているところをみると、全て何かに使用するのだろう。
「おーい、ここで靴ぬげ。」
田島が既に草履を脱いでいる。泉に至っては草履すら脱いで廊下を歩いている。
全員、靴を脱ぐと、田島を先頭に歩く。家の中は薄暗く、そして涼しい。
「お前らの部屋はここ。」
襖が開けてある部屋を指す。見ると20畳くらいの部屋…というか、畳が敷き詰めてあり、爽やかない草の香りが鼻孔をくすぐる。
「明かりが外の光と行灯しかないから、廊下の襖とここの襖閉めたら真っ暗になっからな。夜中トイレに起きても誰か踏むんじゃねーぞ。」
みずたにー、みずたにーと笑い声が入る。その時、泉が部屋へと入ってきた。
「お、やっぱり?」
田島が楽しそうに言う。泉も楽しそうだ。
「おぅ。三橋が見てもいいって。」
「良かったな、お前ら。三橋に気に入られたんだな。」
二人とも言って笑う。本当に嬉しそうだ。
「でもオレたち…会った時しか…」
「泣き顔しか見てないけど?」
ああ、そんなの平気平気。と泉が言う。
「三橋がこっちの部屋を案内しろって言った時からもう分かってたし。」
全員ハテナ顔。
「こっちは三橋にとって、楽しみにしている客を泊まらせるための部屋。」
畳もいいモンだしな。と田島。
「休みをとって、起きたら三橋が見せてやるって。」
何を?という顔に。二人は真剣な顔で言う。
「ここは三橋が守る世界。」
田島が厳かな声で告げる。
「夕方の世界。」
泉が、ニンゲンたちに、告げた。