涙を受け取る。

涙はきらりと光って、空中へと消える。

他のことで

泣かさないように。
悲しませないように。

彼の方の涙はそれだけ重い。
全ての思いを受け止めるから。

「思い」は「重い」。
だからこそ「想う」。

それが生き物なんだ よ。

オレと泉は、
茶色いぽあぽあの髪の毛の
彼の方からそう教わった。


 永遠に約束された夕方の太陽。高くならないし、沈まない。

 ここは彼らの世界。

 彼が守る世界。



 田島、と呼ばれた者が、地面を数回踏みつけるような仕草をした途端、襖の内側にいた者のこぼれ落ちた涙を受け止めた時には驚いた。立っていた場所からはどうみても15メートル以上はあった。どんなに速く走れても追いつけないだろう。近くにいた泉がほっと息を漏らすのを栄口は聞き逃さなかった。リュックの中からタオルを出して頭を拭く。同様に他の3人も同じ動作を始めた。

 ごめんなー。脅えさせて。
 ううん。だいじょうぶ だ よ。
 そうかー。連れてきたぞ。
 う ん。

 和服姿の茶色いぽあぽあ頭の彼は音もたてずに家すれすれまで出てきて、言った。
「あなた方は だれ ですか?」
 もうこれで三度目だよ。何で言わない?田島、泉、と阿部はイラッとしたが、それでもここの主である、という事は分かった。
「オレは阿部隆也。」
「オレ、水谷文貴!」
「栄口 勇人です。」
「花井 …梓だ。」

「オレは…三橋、で す。」


 独特のイントネーションで話す彼の言葉は落ち着いていて、安心させるものであった。
「田島くん、泉く ん。」
 呼ばれて、泉は走って三橋のもとへと駆け寄る。
「この人たち、お腹がすいてて、服も濡れてて、喉も渇いてるか ら。」
「左の部屋だな!」
 田島が大きな声で言う。コクコクコクと三橋が頷く。
「寝て、起きたら、泉くんに 道を 案内…」
 語尾が尻切れトンボなのは、言いながら泉に了承するかどうか伺っているのだ。
「ああ、いいぜ。おい、釣り道具持ってるか?」
 前半は三橋に、後半は後ろにいる者たちに振り返って。
「あ、オレ、安いヤツだけど持ってる!」
 はいはーい。と水谷がリュックの中からなんとも心配げな竿とか一式出してくる。
「あ、それ、100均で買った…」
 栄口が何とも言えない顔をする。
「そう!」
 水谷が組み立てながら言う。慣れているのか見る間に組み立てあげられ、糸を通される竿。
「でも重しとかはちゃんと家のを持ってきたから。」
「なら池に案内する。…田島。」
「あいよ。」
 池にいかないのは誰だ?と聞くと…何故か花井と栄口で止まる。
「花井、栄口、来い。うちにゃ竈(かまど)が無い。火を分けてやっからそこら辺の食える草でも採ってこい。」
「…分かった。」
 花井は視線で栄口に尋ねる。
(お前、食べられる草って知ってるか?)
(ちょっとだけ?)
 何とも言えない心配な返事が返ってきて、仕方がないので尋ねることにした。
「田島、食べられる草を教えてくれないか?」
「ああ、いいぜ?」
 ニヤリと笑う。何のてらいもない笑い方。

「で、では。ごごゆっく り。」

 三橋がくるりと後ろを向いて、後ろを向く。奥へと戻っていくらしい。

 ぱしん!

 襖が閉まった。全てを拒絶するように。蝋でも塗り込んであるのか、その襖は自動ドアよりも速く、そして正確に中央で閉まった。

「池の魚は釣っていい。二人来い。」
 泉は言って、水谷と阿部を呼ぶ。
「んじゃ、草と木の実とか、採りにいくぞー。」
 田島が楽しげに言った。

「じゃあ後でな。」
「ああ。」
「しっかり採れよ。」
「そっちこそ。」

 4人は苦笑いで二組に分かれる。