走る、走る、走る。

自分たちより年齢も背丈も低い彼に追いつかない。

なにをそんなに焦っているのか。

そこで気づく。

彼が走る寸前で草が自分から倒れ道を作っていることを。

一体彼は何者なのだろうか。

思った時、草が突然なくなった。



 永遠に約束された夕方の太陽。高くならないし、沈まない。

 ここは彼らの世界。

 彼が守る世界。



「なぁにすんだてめぇ!」
 下にいたニンゲンが突如怒って起きあがる。
「うわっと、ゴメンゴメン。」
 軽い口調と動作でくるりと空中で一回転して、近くの地面に降りる。
「あれー?イズミの言ってた人数と違うぞ?」
 きょとんと見る姿は少年と青年の微妙な中間。
「お前、イイ根性してんじゃねーか。」
 怒りで黒い男。それにはこっちも返す。笑顔で。
「お前たちが「ここ」に来たから悪いんだろーが。」
 そこではた、と我に返る。
「ここ?って、お前、誰だ?」
「お前誰だ、の前に自分の名前は?」
 きいてんのはこっちだ!と思いながら、少しの理性を使って「阿部 阿部隆也。」と言う。
「阿部かー。オレ、田島ねー。」
 なら案内するぜ。と後ろを向く。
「どこへだ?そもそもここは?」
「夕方の場所。」
 あっさりと答えてやる。泉があっちに行ったのなら、三橋は今頃一人だろう。

 急がないと。

 てんてんてん、と地面を踏んで、軽く息を吸い、ふっ、と吐く。近くにいた阿部とやらの手を掴む。
「急ぐぞ!」
「いきなりっ…て!おわっ!」
 風景が変わる。自分のチカラを少し解放しただけでニンゲンは驚く。三橋はすごいものをオレに与えてくれた。
 草が風によって倒れ、道になる。その中を疾走するように、飛ぶ。
「しっかり掴まってろよ!」
 念のために言っておいた。返事がない。
 2回、地面を叩いて息を吐いた。それで屋敷の前に到着。足音なしで地面に3回目の足をつけると、どさり、という音。
「あ、やっぱり目ェ回してるや。」
 へへ。と苦笑いしていると、近くの草が割れて、泉が飛び出してくる。
「田島!」
「おぅ。…て、お前ら、誰?」
 後ろからぼんぼんぼんと飛び出してきたニンゲンに話しかける。ぜーはーと呼吸が荒い。
「水谷、花井、栄口。」
 栄口と名乗ったヤツが人差し指でそれぞれを指しながら説明。
「そっか。オレ、田島。そこにいるのは…」
「阿部ぇぇ!」
 あ、やっぱりお仲間でしたか。
「泉。」
「悪かった。でも言っておいたぞ。」
 見ると、襖は全て閉じられている。良かった。
「てんめぇ!」
 がばっ、どだだだだだ、と土埃をあげて走ってくる…ニンゲンなの?アレ?じゃなくて阿部。
「わーるかったって。でも仲間とは会えただろ?」
 あんな外れに行ったら、花井、水谷、栄口っつー仲間と会えなかったはずなんだから。
「それでもお前、一発殴んねぇと気が済まねぇ!」
 …短気なヤツ。こーゆーヤツが一番最初に死ぬんだよなー。
 自分が産まれた頃を思い出しながら、ふっと息を吐く。宙に浮く自分の体。
「だーかーらー、謝ってるだろ!」
 すたん、と着地した所を狙って、上からゲンコツ。いでっ!
「いい加減にしろ!阿部!」
 お、花井とやら、もっと言って言って!

 やめ て。

 …しまった。
「あ。」
 泉も同じ考えに至ったようだ。でも止まらなかったらしい。

 ばしゃーん!

 全員に水は平等に落とされた。つめてー!
 ぶるぶるっと頭の水をふるっていると、ぱしっ、ぱしっ、ぱしっ…という音。三橋が自分で襖を開ける音。やばい。

「全部開けるな!」
 泉が怒鳴る。…逆だろ。逆撫でしてどうするんだよ。

 ぱしっ

 最後の襖が開いた。夕方の日差しに、影が落ちる。
「泉く ん 田島くん。」

 あー、やば。泣かせた。
 たたたん、と足で地面を踏んで、息を吸って吐く。瞬間、三橋のもとに。
「ごめん。悪かった。」
 意味のない涙は地面に落としてはダメ。
 オレは落ちそうになった涙を、両手で受け止めた。