こんにちは。こんばんは。
あなたはどちらを使いますか?

 朝が来て、昼が来て、夜が来る。普通の世。

 ここはオレらの世界。

 彼も守っている世界。



 名前を教わった後、オレたちは荷物をまとめて。それから……それからオレたちは泉と田島に案内されて、山を降りた。田島たちが教えてくれた所はなんと民家のすぐ傍の道に繋がる獣道で………時間は3時間ほどしかたっていない、夜だった。
「それはまた、凄い経験をしたねぇ。」
 西広が溜め息をつきながら感想を漏らす。隣で巣山と沖がうんうんと頷いている。
「だろー?」
 話を進めてきた栄口の横にいた水谷(茶々入れ専門)が答える。当の本人は緑茶をずずずとすすっている。
「時間もこんな…そうだな。こんな夕方の時間。」
 大学のゼミ室から見た夕焼け。…三橋はまたやっているのだろうか。
「…なら、呼び出してみる?」

へぁ?

 全員が西広のほうを向いた。
「前に本に書いてあったんだよね。試してみるのもいいかも。」
「そ、そんな恐れ多いこと……」
「来なかったら本が悪いんで、実証にもなるし。」
 さらりと怖い西広。
「用意するのは何だ?」
「準備はやっ!巣山!」
「えーと土と棒!」
「西広ー!」

 1ヶ月前に経験したことを話し終えた後、いきなり始まってしまった大騒動に、4人は珍しく狼狽えた。
「でも、まぁ。」
「三橋に会えるなら。」
「それでも…」
「いいな。」
 4人は拳をぶつけ、他の3人の作業を手伝う。


 「鎮守の杜」ってあるでしょ?と西広がどこから用意したのかスコップで土を掘り返す。ゼミ棟の裏。丁度西日があたるところ。7人がわいのわいの言いながら土を盛っているのは流石に怖い。ゼミ担当の教授にも言われたが「ちょっとした実験です。」と阿部と栄口がさらりと答え、何無きを得た。
「実験……ねぇ。」
 1メートルほどの高さの土の山に、棒をぶっさしただけのそれ。
「杜という漢字をそのままバラすと木と土。これで杜になるんだよ。」
 西広の説明においなんだよそんな理屈と言ってみるが「オレたちはあっち行ってるから、三橋とかいう神様の名前を呼んじゃいなよ。」と巣山と沖を連れて遠くから見ている。

「………」
「………」
「………」
「…やるぞ。」

 阿部の一声で全員が頷く。神社ってどうやるんだっけ?一礼して2つ拍手だ。呼び出す時なんて言えばいいのかな?あーそれ考えねぇ……

 ぶちぶち言いあい、漸くまとまったところで、西日に向かって礼して柏手2つ。
「三橋 廉様 おいでましてください。」

 しばし無言。

 …

 ……

 ………

 …………

「西広ぉ……実験?失敗じゃないか!」
 背後にいるはずの西広に花井が頭まで真っ赤になりながらぶりぶりと怒っている。
「やっぱりダメだったみたいだねー。」
 栄口もあははと笑いながら西広のほうにスコップを取りに行こうとしている。
「ちぇー。やっぱショージンケッサイとかしないといけないのかねぇ。」
 神道なんてさっぱり。と水谷。
「……ちっ」
 つまらなさそうに阿部。

 苦笑していた西広と巣山と沖の顔がいきなり凍り付いた。全員で「う・し・ろー!」と言っているようだ。何故声をあげない?そして何で拝んでる巣山?
 4人が振り返る。西日を背にして棒の上に浮いている存在………

「三橋!」
「ふぉ!」
 こっちも驚いたが、あっちも驚いたらしい。いつもの和服姿。ふよふよと浮いているぽあぽあの頭。
「こんなに簡単に呼び出されていいの…か?」
 阿部が呻くように質問。これには全員が頷く。
「よ 呼び出される の、初めて だった から。おどろい て。…あ。」
 泉くん と 田島く ん!とわたわた呼び出している。瞬間に現れる二人。彼らは地面に足を着けると「オレが先な!」とふわふわ浮いていた三橋を背負う。
「よぉ、呼び出し感謝。」
「ちゃんと祭ってくれないと、たたるぞ?」
 田島と泉がにやにやと笑いながら4人と背後の3人を見る。
「あの美味い酒と交換で………ねぎ鍋!」
 うわぁっ!と言った栄口以外のニンゲン全員が声を挙げる。神の食べるモンに…寄りによってねぎ鍋?
「いいんじゃない?茎と葉っぱを食すんだし、ダシは昆布だし。」
「そんなのでよろこ………んでるな。」
 三人(と言っていいのだろうか?)は目をきらきらさせて「ネギ鍋」「ネギ鍋」と言い合っている。
「じゃあ、今夜は花井ン家でネギ鍋パーティ!」
「お、おま…!」
「よーし!ネギは下仁田から色々揃えてくる!」
 水谷が巣山と西広を誘っている。
「…オレの意見はないのか…?」
「いつものことだね。」
 栄口の言葉にとどめをさされて花井は突っ伏しそうになった。
「花井!まぁ、とりあえず………」
 泉がパシッと指を打つと、花井の頭にぱしょんと水が。
「泉てめぇ!」
「なー花井!家どこだー?」
 三橋を背負いながら田島が尋ねてくる。行く気満々といった感じで。
「ああ、花井の家はこっちですよ。」
 沖がすかさず案内役を買って出る。
「お。お前の名前はなんていうんだ?」
「名前、教えて くださ い。」
 二人同時に出てきた言葉に、沖はあの話、本当だったんだなぁと実感しながら応える。
「沖。沖一利。あとでネギ買いに行った二人を紹介するから。」
「おー。オレ田島。」
「お、オレ、三橋。」
 わいわいがやがやと自己紹介合戦が繰り広げられている中、近くのスーパーマーケットに行った三人は、ネギとちょっと値の張る塩とか買いながら、これまた違う会話を広げていた。
「いや、水谷たちが経験したのが本当だったとは思わなかったよ。」
 巣山の言葉にうんうんと頷く西広。
「オレたち嘘つき?がーん。」
 よよよと泣き真似する水谷にまぁまぁと西広が言いながら、「さっき考えていたんだけどねー。」と西広が前置きをして話す。
「三橋ってさ、夕焼けの神様なんだよね?おじいちゃんが確か偉い神とか言ってたけど……思うんだけど。」
 尋ねてみないと分からないけど、と西広らしくない言葉の濁しかたに、巣山が逃げ腰になる。
「な、なんだ?」
「古事記の最初の国作りの話、覚えてる?」
「えーとイザナギとイザナミがでてきて…………………………」

 スーパーのざわめきが、この3人には全く聞こえなくなった。
「三橋に聞く?」
「聞かないほうがいい。」
「むしろ怖くて聞けない。」
 度胸王、西広の言葉にドン引いた水谷と巣山がぶんぶんぶんぶんと首を振る。水谷の携帯に着信。しばらく話した後「メシの場所、花井ン所だって。」と報告。
「10人はいるかな…?」
「まぁ、どうにかしてくれるだろ。」
「そう…だな。」
 三人は10人分のネギと昆布を買うために、レジへと並んだ。


 夕方の世界と同化して違う意味で広くなってしまった花井の部屋を尋ねるまで、あと30分。
 そこの上座に鎮座ましまするのは、ネギ鍋を待っている神様とは誰も思うまい。

 夕方が夜になっていく。ほんの少しの時間。

 そんな時間のみを生きている、神様がいたっておかしくない。

 何てったって、ここはやおろずのかみがみがおわす所なんだから。

永遠に約束された夕方の太陽。高くならないし、沈まない。

 ここは彼らの世界。

 彼が守る世界。








2008/06/05/0:02
んと、何か用事で調べた時に鎮守の杜の話があって……それで一気に話を進めてしまいました。
ネギ鍋。昆布を敷いた鍋にただネギをゆでてポン酢などで食べる鍋です。酒が美味い。
何か私、西広先生をここんところ間違えているのでしょうか…………。
ここまで読んで下さり、誠にありがとうございました。きなこ