はじめまして。
あなたのなまえはなんですか?
わたしのなまえは………


 永遠に約束された夕方の太陽。高くならないし、沈まない。

 ここは彼らの世界。

 彼が守る世界。



 最初は子供だった。数名が駆け足でやってくる。だが足音は全くしない。
「ゆうやけみたから、かえってきたよ。」
「おとうさん、おかあさんにあえるかな?」
「おなかへったー。」
 彼は頷くと彼らに手を差し伸べる。
「帰っ ておい で。夜に…な る、前に。」
 とつとつと語る話は真実で。
「うん。」
「そうする!」
 一人の子供が彼の手に触れた。ふっと蝋燭の火が風に煽られたかのように消える。
 次々と子供たちが消えていく。
 今度は青年だった。ふらふらとおぼつかない足取りでやってきて…栄口はもう少しで叫びそうになった。青年の足は半分もげ、右半身は殆ど潰れていた。
「おつ か れさま。」
 青年も彼の手に触れ、ふわりと消える。次は老人たち。齢を重ねた皺だらけの手を合わせ、消えていく。赤子も、老人も。男も、女も、そして動物たちも。彼は彼らに話しかけ、手を差し伸べる。差し伸べられた手にすがったモノたちは消えていく。ふっ、と。
 ふと田島が立ち上がり、一つ手を叩いた。瞬間にそこかしこに置いてあった蝋燭に火がともる。次に、一番手前の襖がゆっくりと閉まる。したん。連動するようにしたん、したん、したん、と音がする。それがどんどんと遠ざかっていく。
「おつ か れ…さま でした。」
 言いながら、彼ははらはらと涙を流す。今度は誰も拭おうとしない。ぽたり、ぽたりと床に落ちていく。阿部はそれが何故か綺麗だと思った。
 しばらくしてだろうか。彼がゆっくりとかんばせをあげると、茶褐色の瞳が現れた。どことなくたよりげのない、ふにゃっとした顔。彼が今までこんな不可思議なことをしてたなんて全く思えない。
「お おつかれ さま。でし た。み みんな…」
 ふ、と視線が定まり、彼は全員の顔を見渡す。
「お疲れ様、三橋。」
 浜田がにっこりと笑いながら片手をあげる。もういいぞ、という合図。
 水谷が、ちょいと阿部の足の指をつつく。彼らは正座をしていた。よって。
「ぐぉっ!」
 悲鳴か呻きか分からない声をあげ、阿部は水谷を睨んだ。
「水谷ぃ…てめぇいい度胸してんじゃねーか。」
 にやりと笑う阿部。もうマイペースだ。
「阿部、とりあえずやめろ。」
 花井が阿部の肩を掴む、が、しびれた足にはそれすらも苦痛で。
「あ あ あの、足、崩して くだ さ い。」
 彼の言葉に全員が足を崩し、水谷は阿部と栄口から攻撃を受けた。地味に辛い。田島も加わりたそうな顔していたが、泉に睨まれていてちぇーっという顔になった。
「まぁまぁ、三橋、久しぶりだな。こんなにニンゲンあげてる所見るの、初めてだぞ。」
「ハマ、ちゃん。」
 へわっと彼…三橋は笑った。
「三橋、最初からこれを見せるために「左側」に泊めたんだぜ。」
 田島が言うと、浜田も驚いた顔をした。
「三橋、すごいな。」
「そんなほどでも…ウヒッ」
 不思議な笑い方をして、彼は答えた。
「今回も地上の話、色々持ってきたけど今回に限っては新鮮な話が聞けそうだな。」
 ふぅ、と浜田が4人を見る。
「そうだ、お前ら学生だろ?ずいぶん変わったよなー。」
 田島が早速興味津々の眼差しで見てくる。
「変わった?」
「どのへん?」
 花井が不思議そうに隣を見やり、水谷が両隣をきょろきょろと見る。
「オレがここに来た時代だと…もう歩けるくらいの子供がいてもおかしくない年齢だな。」
 泉が楽しげに言う。
「オレだと………全員戦争行ってたな。」
 田島が眉間に指をあてて言った。…二人ともいったいいつの時代のモノたちなのだろう。
「田島くん も、泉くん も、ハマちゃん、も、すごい よ。」
 三橋がそう言ったところで花井が思い出す。
「あ、自己紹介忘れてた。」
 4人全員自己紹介を終えると、彼は「オレ は 三橋 です。」と答えた。そしてこう続けた。
「ここは 夕方 の 世界、です。」
 普段は、オレと田島くんと泉くんしかいません。と続けた。
「ちょくちょく来るのが浜田で、たまに来るのが叶ってところかな?」
「そうだな。」
 田島の言葉に泉が首肯する。
「ニンゲンが来るのはまずないからなぁ。よっぽど道に迷ったか、求められたか。」
 泉の言葉に四人は互いの首を見合わせた。
「ここはずーっと夕方の世界。夕方になると、ちょっとオセンチ?になるんだったか。」
「疲れたモノたちがここへ来て、安らぎなる場所を求めて行く場所だ。三橋はこうみえても神だし。」

 えぇーっと叫ぶには神聖すぎてできない四人。

「お おじい ちゃんとか が えらい神 だから。」
 そうなんだ。と水谷が頷く。他3人はまだ元に戻れてない。
「三橋はすげーんだぞ。」
 田島が宣言する。どうだ。反論あるヤツは言ってみろ。
「…で、質問があるんだけど、いいかな?」
 漸く戻ってきた栄口が挙手する。はい、どうぞ、と浜田が答える。
「一人ひとりに会うたび、名前を求められたけど…オレら、三橋たちの下の名前知らないんだよな。」
「あー。」
 浜田が顎をぽりぽりと掻きながらさぁどうしようと考える。
「ぶっちゃけ、オレと泉は教えてもいいんだけどな。ホントの「お上の命令」。ニンゲンなんかに教える名前なんてないってな。」
 ぷりぷりと怒る田島。それにくすりと三橋が笑う。
「全部の 名前を言う と、オレらは 呼び出されるんだ よ。」
 へーほーふーんとそれぞれの顔に思案気な表情が浮かぶ。
「有名な神様とか、ほんのちょっと偽名使ってる し。」
 へーほーふーんはーと答えが返る。
「で でも……」
 そこで三橋は急にキョドりだした。あたふた、ふたふた。
「三橋、ニンゲンに教えちゃダメって……でもこの4人ならいいか?」
「いいんじゃないか?」
「こらぁ。ダメだろうが「オレ、田島悠一郎。」」
 ニッシッシーと田島が笑う。浜田がそれにつられて「オレ、浜田 良郎」とか言っている。ほーれ、泉も。三橋が言えないだろ?と泉を急かしている。
「泉 孝介。」
 そこで視線が全員、ここにおわす神に集中する。
「オレの 名前 は 三橋 廉 です。」
 きょど、きょどとしながら三橋は言った。