すいて、はいて、そしてにっこり 泉誕生日編



 この頃めっきり寒くなったと思っていたら、今日は何だか春の陽気がする。くぴぃくぴぃという吐息もする。不思議なものだ………なーんだ三橋か。


…………三橋?


はた、とコウスケはそこにいきつく。無理やり瞼をこじ開け、隣をみるとユウトに抱っこされて眠りについているはずの三橋がむぎゅうと自分に抱きついて眠っている。まだ朝になっていないので良くは分からないが、三橋がぐっすりと眠っているのは分かる。吐息で。
 そこまで考えて、気づく。ああ、今日オレの誕生日だ。だからか。

 安心した所でまた眠気がやってくる。起きるにはまだ早い。もう一度寝よう。あったかいのもいるし。
 コウスケはすぐにまた眠ってしまった。


 あれ?と三橋は思った。ユウトの感触じゃないことに気付いたのだ。
 これは…コウスケだ。まだたまごだった頃からおはなししていたコウスケだ。
 コウスケもあったかい。いちばんあったかいのはユウイチロウだけど。
 ぱちりと目を開いてあたりを見回す。うん。コウスケだ。
 コウスケはスーともグーともとれる寝息をたてている。

 ぺちり。

 手の甲を叩いてみた。ぺちりぺちり。音が楽しい。

「うひっ」

 ぺちりぺちりぺちり。

「こらぁ、三橋ぃ…」
 眠そうな声がしたと思ったら、空中に浮いていた。コウスケがぽーんとベッドから真上に飛ばしたのだ。
「う、お!」
「はい、キャッチ。」
 ぽふん。とコウスケの腕の中。
「おはよう、三橋。」
「お は。コー…ケ」
「コ・ウ・ス・ケ。」
「コ・ウ・…・ケ?」
 まぁいいや。とコウスケは言うと、ちょっと待ってろと三橋をベッドに置き、やはり置かれていた衣装ボックスの中を漁る。あー、鳥だの天使だのなんだのとまぁ、色々作ってくる浜田の友人。その中で、コウスケがおお。これは。というモノをチョイス。
「今日の三橋は…ドラゴンだ!」
 むくむくっとした姿に、デフォルメされたドラゴンの姿。三橋ドラゴンの完成。
「三橋、今日誰かに会ったら『がおー』って言うんだぞ?」
 三橋を抱き上げながら、コウスケは三橋に言った。そりゃもう楽しげに。
「ん…! こー、こー!」
「何だ三橋。腹減ったか?」
 うん。と頷いてから、慌ててううん、と首を振る。なんだなんだ?
「こー、おたん…び おめ で、と!」

 ちゅっv

 ほっぺたに可愛いキッス。これは水谷の教えが良かったのか悪かったのかは分からないが、とりあえずされて嬉しくないはずはない。
「三橋、サンキュな。」
 ちゅっとほっぺたにキスを返して、二人は笑い合った。

 なお、三橋、おはよう。と他の連中が挨拶してくる中、三橋が「が、がおー」と言って、皆が喜んだのは言うまでもない。

 三橋を抱っこして、食堂に行くと、早速歓迎される…三橋が。コウスケはおまけだ。まぁ、他の誰もが経験している事だ。仕方がない。ユウイチロウの手に渡って三橋はりんごとバナナを目にしてうぉぉぉぉぉと目を輝かせている。おなかがきゅるるると鳴ったところで全員が笑っている。あのアズサも苦笑しているほどだ。どんだけお腹すいてるんだ?とショウジが苦笑まじりに言っている。まぁ、おチビだから食べて寝るのが仕事だもんね。とカズトシが混ぜっ返す。
「さぁ、朝食の祈りを始めるぞ。」
 三橋以外がぴしっと居住まいを正す。三橋は既に祈りのポーズを真似して、ちらりちらりと全員とりんごとバナナを見ている。
 アズサの3分間の祈りは長かったのか短かったのか。最後の言葉を口にして「いただきます。」と言うと、三橋はわしっと鷲掴みでりんごを手に取った。
「三橋、りんごは逃げないよ。」
 ユウトが笑いながらパンを口にする。全員がどっと笑う。
 しゃりっ、と小さく切られたりんごを口にしながら三橋も「ウヒッ」と笑った。

 冬の始まりだというのに、今日は恐ろしく暖かい。三橋を外に連れ出して、ボールとともに戯れた。くたくたになったが悪くはない。
「あ、そだ。」
 コウスケはこの間漸く習得した暖をとる法術を使うことにした。使う先は、水の入った大きなたらい。
「よっしゃあ!」
 すぐに水はほかほかの優しいお湯になり、三橋は裸になってきゃっきゃっと遊びだした。ボール遊びでこんこんと汗をかいたのでちょうど良いだろう。他の服もタオルも全て持ってきてある。
「三橋、今度はな、ぴゅーっと泉のように水がわき出る法術を覚える事にするんだ。」
 まぁ、言っても分からないだろう。と遊んでいる三橋に話す。
「それがまた、すんげぇ難しいの。泉ってな、どんどんと水があふれ出してくるんだぜ?」
「むぅ。」
 やはり分からなかったらしい。難しそうな顔をして、コウスケをじっと見ている。
「こうやって、な!」
 手で水鉄砲を作り、ぴゅっと顔に浴びせかける。きゃあ!と大騒ぎ。大喜び!
 結局二人ともにちゃんとした風呂に入り直す結果となったのである。

 さて、夕食がすんで、全員が立つ時に、三橋がテーブルの上に立った。果物は全部食べ終わっている。流石三橋。
「こー、こー。」
「なんだー?コースケー!三橋が呼んでるぞー!」
 ショウジが空の皿を運んでいたコウスケを呼ぶ。すぐにやってきたコウスケの前で。
「こー。ぷれ ん と!」
「プレゼントか!」
 ユウイチロウが早速翻訳する。コウスケは既に理解していたが、他の者にはまだまだ判別が難しい三橋言葉。
 三橋がすぃーっと、空中に指を走らせる。

 泉

「へ?」
「聖伝文字?」
 すぐにシンタロウが呼ばれる。
「イズミ だな。泉のイズミ。」
 へ?と全員が三橋をじぃっと見る。

 孝介

「…コウスケ?もしかして、名字と名前のプレゼント?!」
 シンタロウが素っ頓狂な声をあげる。その声にびっくりしたのは…全員。
「イズミ コー…ケ」
 三橋はあの話を聞いて、うんとうんと考えていたのだ。コウスケにあげられるものを。そして訊いたのだ。なにかに。「なにがいいかな?」って。
そうしたら「名前を贈るといいよ。」という答えが返ってきた。三橋はうん。そうすると応えた。
「泉……泉かよ…コウスケ?」
「お…おお……」
 どよめく全員に、三橋はいけないことをしたのかと、半ベソをかきだそうとしている。いちはやく気付いたのは…コウスケこと泉だった。
「三橋!ありがとう!」
 泉!とユウイチロウが声をあげる。泉かよ!とタカヤが驚く。泉…モモカンにどう報告すれば…?とアズサが悩む。
「はい。聖別紙。」
 ぺとり。と三橋の文字を水谷が要領良くはりつける。命名の儀式、これにて完了。コウスケははれて泉 孝介と名乗ることを許された。
「泉…ねぇ。慣れねぇな。」
「これからお前らもつけられるかもな。」
 ぷっくぷくのほっぺたをなでながら、泉はご機嫌で三橋をあやす。悪い事はしなかったんだ。と三橋もふにゃあと笑う。
「今度、神殿の式典祝いにオレもらおっと♪」とユウイチロウはすでに貰う気満々。

 それがどれだけとんでもない事か、分かっているからこその素晴らしい誕生日プレゼント。

 コウスケは、明日から泉と呼ばれることとなる。それがどれだけとんでもない事か。

 それはいつか誰かが語るでしょう。