「よぉ。フミキ。」
 ノックもせずに入ってきたのは、コウスケである。
「あれ?ユウイチロウは?」
 なにやら鬼気をまとっているコウスケに引きながら、それでもフミキは訊ねた。
 返ってきた言葉は「今三橋を風呂いいれさせてる。」とのこと。「先に抱っこしたんだからトーゼンのケンリだよな!」とさっさと行ってしまった。コウスケは耐えるしかない。拳がぷるぷる震えようとも。
 さあ、この怒りを誰にぶつけよう。ああ、タマゴのてっぺんに穴あけさすことしたあれにしようそうしよう。
 …てなてなわけで、コウスケはフミキの部屋にいる。詳しく言えば「八つ当たりしにきている」が正解か。
「あの穴、フミキがあけたのか?」
 恐いっ!と言いながらも「三橋が自分でちっこい手でこんこん叩いてあけたんだよ。」と説明。誰だって右手が握りしめられていつでも殴れます状態になっていたら、フミキではコウスケには勝てない。
「へぇ?」

ああ、全く信じちゃいない!

 ため息をはあああああああとついて、フミキはタマゴを預かっていた日々のことを語った。
 曰く「早く見たかったから、毎日小さなお願いしてた。」

 まずタマゴが揺れたら嬉しいな♪
 次は自分がタマゴの殻を叩くから同じように返してくれると嬉しいな♪
 で、まんまるおめめがみてみたい♪

「そしたら三橋がもみじのような手でコツコツ開けて…目が合ったらすぐに隠れちゃったよ。」
「だから…」
「そ。」

いない、いない、…ちらっ

「あれがチラリズムの極致だと思ったね!」
 鼻息荒く語るフミキを拳で黙らせ部屋を出ると、ユウイチロウとバスタオルの塊が歩いていた。
 ユウイチロウもコウスケに気付き、よぉ。と声をかけてくる。とりあえずフラストレーションは発散できたコウスケも返事をして、バスタオルの塊をぺらりとめくる。
「わぷ」
 やはりそこには三橋がいて、りんごほっぺにちょっと泣いた跡がある。
「ユウイチロウ…」
「お湯にびっくりしたんだよなー。」
「…う。」
 小さく頷く。
「あ、そだ。」
 ひょいと二人+ちびに入ってきたフミキはニコニコ笑いながら「ヨシロウが急遽肌着とか持って来るって。服はオレの趣味入れたけどヨシロウもノリノリだったから。」
 フミキは満足気に語る。
「あー、たのし」

 コウスケの拳とユウイチロウの蹴り(両手に抱っこしている三橋には見えないように)が、フミキに見事キマッた…。

 どうにかしてくる。とヨシロウは荷馬車に乗り、二時間後に再びやってきた。
「ほい、まず肌着。」
 ぽす。
「おむつカバー。」
 ぽす。
「服」
 ぼすっ。
 ユウイチロウのベッドの上は、三橋と彼に必要なモノで埋め尽くされた。
「なぁ?ヨシロウ…」
「交換に応じてくれた女性があれもこれもとつけてくれたんだよ!」
 確かにおむつカバーは、むくむくしている三橋のそれを到底カバーできるものではない。
「幼児アイテム一式と…ってなったからな。」
 それに関しては頷くコウスケ。ユウイチロウはさっさと三橋に肌着を着せようと悪戦苦闘。
「服は…その…今度三橋を見せてくれたら布代だけでいいと。」
「へー」
 ユウイチロウに混ざり漸く肌着をつけおえたコウスケが何の感情をいれていない口調でいう。
「つまりはこのぷくぷくのむくむくを…」
「うさぎさん」
 他人に見せるのはなぁと難色を示していたユウイチロウが、ヨシロウがぴっと立てた指と言葉に全てを中断してヨシロウをじぃっと見る。
「くまさん。」
 二本目の指、ぴっ。今度は服を着せていたコウスケが反応する。
「オレも手伝うけどな。」

そこは聞いていない。

 二人はせっせと服を着せ…

『できた!』

 ベッドの上にちょこんと座っているのは、薄いクリーム色のタオル地に、クリーム色の大きな水玉模様がついているものだった。
「う。」
「三橋〜あったかいか?きつくないか?」
「ん ん!」
 首を横に振る三橋に三人ともにほっとする。
 その時、部屋のドアをノックする者がいた。
「ヨシロウ!まだ納入すんでねえぞ!」
 怒鳴り声に、ヨシロウはうへ、三橋はびっくりして半べそかいて、コウスケとユウイチロウは三橋を宥めるのに必死だった。
 だから怒鳴り声の主であるタカヤが「入るぞ。」という言葉に反応が遅れた。

 ドアが開き、黒い髪のタレ目が入ってきた時には遅く、タカヤの視界にちみっこが入ってしまったのである。


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