※阿部が凄まじく不憫な子です。かっこいい阿部とか想像している方は読まないほうが無難です。忠告はしましたから〜
眠気は人を表現する
浜田が三橋と再会して、まず尋ねたことは「三橋、まだ寝てる時の記憶は残らないのか?」という、他の者では全くわからない内容であった。
「う うん…そう み た ぃ…」
うなだれる三橋だが、浜田はまぁよいよい。と三橋の頭をくしゃっと撫でて、近くでぐるると唸っている田島と泉に二人には話していいか?と尋ねた。
ややあって、こくんと頷いた後、浜田は恐ろしいことを二人に話したのであった。
4時間目自習の昼休み。
早めにご飯をかっこんだ3人は、いつもの通りトドもかくやという姿でぐーぐー寝ていた。浜田は近くで裁縫をやっている。器用なものだ。
「おい!三橋!」
すーすーすぴぴと寝ている三橋に恐怖の存在がやってきた──阿部だ。
その声で田島と泉は起きたが、三橋はすぴーすぴーと寝ている。
「あー、阿部。三橋チャイムが鳴るまでおきねーぞ。こーゆー寝方してる時は。」
泉がさっそく阿部を止める。泉は既に3メートルほど後方へ逃げている。見ると田島と浜田も。そして9組のクラスの者たちも逃げている。
すーすーすぴすぴゃ
三橋の寝息だけが聞こえる。そんな9組のクラスの中。沸点が低い阿部は早速キレた。
「おい!三橋!お き ろ!!」
シャツの首根っこをひっつかんで、無理やり起こす。
パシン!
その時。阿部は信じられないものを見た。
三橋があからさまに拒絶を現わすこと…首根っこを押さえていた右手を払いのけたのである。
「わー、始まった。」
「あれ7組の阿部だよね。」
「ご愁傷様。」
「生きて帰れよー。」
「正捕手怪我したら三橋泣くからなー。」
9組の面々がそれぞれわけわからないことを言ってくる。うろたえている間に三橋がゆっくりと起き上がった。なぜかわからない。わからないけど、背後にゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音が聞こえたような気がする。
「あべ く ん。」
「三橋、いい加減におきねー」「阿部くん。」
三橋は話の途中に割り込むなんてことはしなかったはずだ。誰だ?目の前にいる人物は?
「阿部くん。人が寝ている時に起こしたら駄目だよ。そりゃあ4時間目も自習だったからこっちも気持ち良く寝ていたさ。でもそれを無理やり叩き起こそうなんて物騒な事をしてもいいと思う?」
「み…みは……?」「それに。」
三橋を見ると、半分瞼が落ちている。まだ眠いらしい…というか。
「三橋…寝ぼけてる?」
「そうだよね。無理やり起こしたら寝ぼけるの当たり前だよね。わかるよね。無理やり起こされると人間無茶苦茶機嫌悪くなるの。そういう時は誰かに話を通しておいて意識が戻った時にはっきりした頭で聴きたいな。」
「三橋…」
ぷち。
何かがキレる音がした。
「さっきから三橋みはしうるさい!」
三橋が怒鳴った!完全に何がどうなったかわからない阿部は完全に怒ることを忘れ、立ち尽くしていた。何が起きたんだ?
阿部が静かになったことに満足したのか、三橋は再度、起こす前の格好に戻る。
「オレは寝るから、言伝は誰かに頼んでおいて。じゃあおやす……み。」
そのまま三橋はすぴぃと寝てしまった。
何この生き物は?ピッチャーって確かに××なヤツ多いけど……
こう考えると、だんだんとまた怒りが起き上がってくる。狙いは田島と泉だ。
「田島!泉!」
「うるさい。」
すこーん!
机の上にあった弁当箱が寸分狂いもなく阿部の後頭部に当たった。満足してまたすぴすぴ。
地面に落ちた弁当箱を見ながら、阿部は半分灰になりながら、今度は田島と泉に説明を求めた。
「三橋、昼寝すると寝ぼけてとんでもねーんだ。」
泉がさっさと弁当箱を拾うと、三橋の机の上に置く。」
「チャイムが鳴ったらもそもそ起きるけど、その前に起こしたら誰にもああやってまくしたてて怒るから。」
田島がふふふと笑いながら阿部に言う。てめぇだけが怒られたんじゃねーぞ。と言わんばかりに。
「ちなみに水谷の時は蹴りが入ったぞ?」
「へぁ?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまう。三橋が暴力?
「三橋はいつもネガティブ思考してるけど、寝てる時はそれが取り払われるんだ。」
浜田が苦笑しながら三橋を見る。すーすー寝てる姿からはさっきの姿は全く想像がつかない。
「まぁ、とんでもないことを連発するわ…ああ、ボールは近くに置いておかないほうがいい。本気で当ててくるからな?」
うちのエースは……
「あ、あと、良い夢見てる時は怒り度70パーセント増しな?水谷がこの間ひっかかって、蹴り1発くらって、オレら3人で問答無用で寝かしつけたんだから。」
うちのエースも……
「大変だったよなー、田島。」
「そか?素の三橋を見られたからオレとしては嬉しい限りだけど?…って阿部?おい。」
やっぱり××なんだ…………
あまりの情報量に阿部は意識を失うところだった。浜田と泉と田島が慌ててやってくることが分かる。
頼むから今までのままでいてくれ………
いつもとは正反対の思いのまま、阿部は意識を失った。
「…という夢を見たつもりでいたいんだよ。」
「無理。ほら。」
水谷が青あざになっている右足を見せる。わぁ、痛そう。花井が既に真っ青になっている。
「昼休みの三橋は起こすな……これは部活での闇の規律になるな……」
その時を見ていなかった栄口だが、阿部が冷や汗ダラダラの状態で言うのだから余程の恐怖であったに違いない。
その日から、昼休みに寝ている三橋を起こそうという者は、卒業するまでいなかったという。
温厚な人でも寝ている最中には気をつけましょう(笑)